喧騒から離れて過ごす、幽玄の世界を表す隠れ家「バンヤンツリー・東山 京都」【今月の建築ARCHITECTURE FILE #28】

  • 文:佐藤季代
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デザインアーキテクトを務めた隈研吾建築都市設計事務所による能舞台。屋根や壁がなく、敷地裏の竹林や頭上の空と能舞台が一体化する。 photo: Nacasa & Partners inc.

ラグジュアリーホテルの開業が相次ぐ京都。2024年8月には、タイやインドネシアをはじめとする世界各国で、その土地に根付いたリトリートを展開するバンヤンツリーが初上陸した。場所は東山エリアの老舗「ホテルりょうぜん」の跡地。市内を一望できる自然豊かな高台に位置し、徒歩圏内には清水寺や高台寺、坂本龍馬などを祀る京都霊山護國神社といった歴史的な名所が集まる。

ホテルのテーマは“幽玄”。古くからあの世とこの世を隔てる結界のような場所とされてきた霊山(りょうぜん)の地にちなみ設定された。隈研吾をデザインアーキテクトに迎え、各分野のプロフェッショナルと協働し、その世界観を表現している。

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ホテルは観光エリアから急な坂道を上りきった高台に立つ。エントランスからダイナミックにせり出したヒノキ材の大庇が来訪者を出迎える。 photo: Nacasa & Partners inc.

 

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ファサードは高低差を加味しつつ、周辺の参道から見上げた際の美しさを意識したデザイン。開口越しに日の移ろいなどの自然を感じられる。 photo: Nacasa & Partners inc.

隈が手掛けた外観は、シンボリックな大庇(おおびさし)やルーバーが整然と並ぶ深い軒など、伝統的な木造建築の意匠を随所に取り入れたシックな佇まいが特徴。この建築とともに幽玄の世界を体感できるのが、市内のホテルとしては唯一備える能舞台だ。裏手に広がる緑豊かな竹林と溶け合うように、視線を通すルーバー状の部材のみで構成。舞台そのものが水盤の上に浮かぶ姿は、まさに神秘的だ。 

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東山の山すそに、斜面林や竹林を背景として3つの庭園をプレイスメディアがデザイン。ロビー正面では丹波石のオブジェがゲストを迎える。 photo: Nacasa & Partners inc.

天然温泉を用いたスパ施設もあり、高低差がある敷地に臨む竹林や能舞台、京都の街並みなど多様な景色を楽しめるのも魅力。奥深い山に抱かれた静謐な場所で、特別な時間を過ごしたい。

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全52室ある客室は、すべて橋本夕紀夫デザインスタジオが担当。世阿弥が著した『風姿花伝』の一節「秘すれば花」がデザインコンセプト。 photo: Nacasa & Partners inc.

バンヤンツリー・東山 京都

住所:京都府京都市東山区清閑寺霊山町7番地
TEL:075-531-0500
全52室
料金:セレニティ・キング/ツイン ¥170,000~
www.banyantree.com/ja/japan/kyoto
【デザイン】隈 研吾
1990年、隈研吾建築都市設計事務所を設立。東京大学特別教授・名誉教授。自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案。世界中でプロジェクトが進む。本建築ではデザインアーキテクトを務めた。

※この記事はPen 2025年2月号より再編集した記事です。