若き日のトランプは気弱な青年だった⁈『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』ほか【今月の映画3選】

  • 文:児玉美月(映画文筆家)
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今月のおすすめ映画①『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』
ある男との出会いが生んだ、トランプという“怪物”の秘話

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若かりしトランプにしか見えないと評判のセバスチャン・スタンの演技にも注目だ。劇中で頭皮縮小手術や脂肪吸引手術を受ける生々しいシーンなどは、まさにメアリー・シェリーの名作古典『フランケンシュタイン』における“怪物の創造”というテーマを彷彿とさせる。

2024年11月に行われたアメリカ大統領選挙で、アフリカとアジアにルーツを持つ女性として初の大統領誕生が期待されたカマラ・ハリスと競り合い、再び大統領に返り咲くドナルド・トランプ。時期を同じくして、彼の人生にインスパイアされた映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』が世に送り出される。トランプの弁護士が上映阻止に動いたとも報道された今作は、彼自身を侮辱するような伝記映画ではなく、トランプのような人物が生み出されたアメリカの本質を探求することに主眼が置かれている。

物語は、トランプが悪名高い弁護士ロイ・コーンに出会うところから始まる。まだ何者でもなかった若きトランプは、手段を選ばないコーンから、常に攻撃的で決して負けを認めない姿勢を教わっていく。トランプにとってコーンは第2の父であるだけでなく、“創造主”ですらあった。この映画は、ふたりの男の関係に迫っていく。

本作の監督の座を射止めたのは、『ボーダー 二つの世界』(2018年)で数々の賞を受賞したイラン系デンマーク人であるアリ・アッバシだ。前作にあたる『聖地には蜘蛛が巣を張る』(2022年)では、女性のセックスワーカーが標的となった、イランで実際に起きた連続殺人事件を題材にした。事件の殺人犯である父から息子への負の連鎖がほのめかされ、“怪物”の誕生譚となっている点で『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』とテーマを共有する。

また、コーンはクローズドのゲイでもあった。アメリカでは1980年代初期、HIV/エイズが流行。当初この病気は男性同性愛者たちに多く見られたため、エイズ禍は性的マイノリティの可視化と権利運動にとって重要な歴史であり、今作はそんな時代を克明に記録してもいる。

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『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』

監督/アリ・アッバシ
出演/セバスチャン・スタン、ジェレミー・ストロングほか
2024年 アメリカ映画 2時間3分 2025/1/17よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

 

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今月のおすすめ映画②『ブラックバード、ブラックベリー、私は私。』
独身中年女性が初の性体験を経て、迎えた思いもよらぬ展開

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© - 2023 - ALVA FILM PRODUCTION SARL - TAKES FILM LLC

ジョージアの小さな村に暮らすエテロは、48歳にして初めて男性と性体験を持ったことがきっかけで、変化を迎えることとなる。結婚も恋愛もしていない中年女性を物珍しがる世間の眼差しにも負けず、ひとりの人生を謳歌するそのありさまと、若くなく痩せてもいない身体を堂々と露わにする本作は、女性を規範から解放するフェミニズム映画として私たちのもとに届けられる。そして映画の最後には、思いもよらない展開が待っている。

『ブラックバード、ブラックベリー、私は私。』

監督/エレネ・ナヴェリアニ
出演/エカ・チャヴレイシュヴィリ、テミコ・チチナゼほか 
2023年 ジョージア・スイス映画 1時間50分 2025/1/3よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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今月のおすすめ映画③『敵』
陰影の深い白黒映像によって綴られる、虚構と現実の境界線が曖昧な世界

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© 1998 筒井康隆/新潮社 © 2023 TEKINOMIKATA

『時をかける少女』などで知られる筒井康隆による老人文学の映画化。77 歳を迎えた元大学教授である儀助は、わずかな収入を得ながら預貯金の残りを計算して余生を送っている。慎ましくもていねいな古民家での暮らしを、亡き妻の信子、教え子の靖子、バーで出会った大学生だという歩美といった、彼を取り巻く女性たちが彩る。生者と死者、虚構と現実の境界線が曖昧になっていく儀助の世界が、陰影の深い美しい白黒映像によって綴られる。

『敵』

監督・脚本/吉田大八 
出演/長塚京三、瀧内公美ほか
2023年 日本映画 1時間48分 2025/1/17よりテアトル新宿ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

※この記事はPen 2025年2月号より再編集した記事です。