【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『メランコリーで生きてみる』
怒り、絶望、悲嘆など、生きていれば、避けることが困難な多くの壁に直面することになる。それらと向き合うには、「メランコリー」という感情に落ち着けることが重要だと、著者は主張する。辛いことを「仕方がない」「そりゃたしかに」と受け止める寛大さだ。
メランコリーな人は小さなことに喜びを見出す術を知っているので、なにごとにおいても「たまにはうまくいくかもしれない」と細やかに期待できる。裏を返せば、この世に確実なことなどないと理解している。著者が強調するのも、まさにその部分だ。不快なことが多い世の中だからこそ、あえてメランコリーを復権させる必要があるというユニークな発想である。重苦しいイメージがあるこの単語に明確な役割を与え、もっと語りやすいものにしようというのだ。
メランコリーな人が優れた知性の持ち主だと言えるのは、数えきれない失意の種と、人生にたまにある素晴らしいこととの“ちょうどいい折り合い”を上手に見つけているからなのだという。その証拠に、子どもは面白いことがあれば声を上げて笑うが、悲しいことの多さを知っているメランコリーな大人は、もっと深みのある声で笑う。また、メランコリーな人は内向的であるケースが多いが、その理由は、基準を外交的な人に置いていることにあるともいう。さらにいえば、メランコリーな人が誠実でいられるのは、自分が不純な人間であることをよくわかっていて、その罪深さを知り尽くしているからだそうだ。
著者が指摘するように、朗らかさが求められる環境や消費社会において、メランコリーな人は苦しむ可能性もある。だが生きていく以上、私たちは現実を受け入れる必要がある。そういう意味において、メランコリーという概念が欠かせないのだ。
※この記事はPen 2025年2月号より再編集した記事です。