民藝は、100年を経ていまなお議論が続くことが面白いーー小鹿田焼 陶工・坂本創

  • 写真:中島光行
  • 文:山田泰巨
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歴史に敬意を払い、伝統を守りながらも自身の思いや技術を活かして挑戦を続ける現代のつくり手たち。彼らはどのように民藝を思い、対峙し、制作に活かしているのだろうか。

2025年は、「民藝」という言葉が誕生して100年目となる記念の年だ。そしていまもなお、世代を超えて多くの人が民藝に魅了されている。いま私たちが日常の中で出合う民藝の姿とは? 日々の暮らしに寄り添ってくれる、その魅力にフォーカスしたい。

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伝統を継承しつつ、変化を厭わずものづくりに挑む

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坂本 創(さかもと・そう)●小鹿田焼 陶工
1990年、大分県生まれ。佐賀県立有田工業高校セラミック科卒業後、鳥取県の名窯・岩井窯の山本教行に師事。2年の修業を経て家業の坂本工窯に入り、父とともに制作を行う。

柳宗悦が、「誰にも読めぬ地名がいまでは多くの人の口に上るまでに至った」と記した大分県日田市皿山の小鹿田焼。1705年の開窯以来、一子相伝の世襲制で長い歴史を築いてきた。そうした伝統を見据えつつ、自身の創作に挑むのが坂本工窯の坂本創だ。

小鹿田焼は1955年、国の重要無形文化財の指定を受けた。川の水を利用し、陶土を砕く唐臼の姿は昔から変わらぬものとして訪れた人々の心を動かす。土づくりから窯出しまで、いまも人の手でつくるところが小鹿田焼の魅力だと坂本も言う。ただ現状に強い問題意識も抱いている。

「歴史の継承や文化財指定によって小鹿田焼が守られている側面は大きいでしょう。僕も基本的にルールを守ります。ただ歴史を遡ると必ずしも文化財に指定される手法だけが正しいとは言えません。そこから逸脱したつくり手が幾人もおり、ときにルールを外れたことを明示すれば、極端に言えばなにをやってもいいと思います」

 

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坂本が作陶した器。蹴りろくろを回しながら表面に刻みを入れる「飛び鉋」、ろくろで回転させながら刷毛で模様を描く「刷毛目」など、小鹿田焼にはさまざまな魅力的な技法がある。 上から時計まわりに、七寸皿¥3,850~、四寸五分飯碗¥3,300~、五寸鉢¥3,080~、尺皿¥8,800~、六寸鉢¥3,960~、中央は五寸皿¥2,420

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歴史と向き合いながら、産地を守る方法を考え続ける

 

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坂本の作陶風景。菊練りから始まる作業は力強くもリズミカルに進んでいく。父・工(たくみ)と横並びの作業場では、音楽を聴きながら作陶することも多い。「小鹿田焼は人間本来のリズムがかたちになって表れているように思います。だからこそいまも人の心に届くのかも。そして、人間的な魅力も重要です」

坂本はいま、新たな窯を築いている途中だ。登り窯はもちろん使いながら、それとは別に、現代的な造りの窯を新設する。それにはいくつもの理由がある。以前のように大家族で馬力のある環境ではなく、数日をかけて登り窯で焼成することの難しさ。薪や灰の調達が年々難しくなっていること。そもそも登り窯の燃焼効率は現代的な窯に比べてはるかに悪く、今後の維持が難しい。幸い土に恵まれた土地で、それを継続的に採取する方法は近年進んでいると坂本は言う。歴史と向き合いながら、現実的に産地を守る方法を考え続けねばならないという。

そんな坂本に、民藝をどう捉えているかを尋ねると、「学ぶほどにわからなくなる」と言う。

「民藝はもはや文化のひとつ。僕たちの集落で活動する十数人のつくり手それぞれが別の答えを持っているでしょうし、僕自身も聞かれるたびに答えが変わってしまう。ただ生まれた時からこの環境に身を置く立場としては、続けていくことでそれに応えていくほかはない。なにより100年を経て、いまなお議論が続くことが魅力です。そこにある面白さは人それぞれで、その違いに触れることが楽しい。自分の中にある常識を壊してくれる人と出会うこともある。ものそのものではなく価値の共有に意味があるように思います」

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父の作品とともに登り窯で焼かれるのを待つ器の数々。小鹿田焼は現在9軒が作陶を行う。今後は減っていく可能性も高いと坂本さんは言う。しかし300年の中で5軒まで減ったこともあるといい、「長い歴史で見たらそれほど不思議な変化ではない」とも。

 

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登り窯での窯焚きは年に数度。窯から水分をなくすための火入れから、焼き上がりまで数日を要する。火のコントロールは難しく、最終的に納得のいく仕上がりになるのは6割程度という。

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また、小鹿田焼の若い陶工として注目されてきたが、それに続く若手も増えてきた。かつて閉じられていた集落が柳宗悦によって開かれたように、現在は移動と情報によってさらなる開かれ方が進んでいると坂本はみる。

「民藝が、いわゆる薄利多売寄りのシステムを維持し続けてきたことに難しさを感じています。先ほど触れたように、小鹿田は恵まれた環境ではあるものの、作陶に多くのコストを要するようになっています。同時にいまは、ものに魅力や価値を感じてくれる人々とつながりやすい仕組みがいくつもある。後輩たちにはなるべく多くの経験を共有することで、彼らがそこから選択していく手伝いをしたい。僕らの仕事はアウトプットしていくこと。他の産地の素晴らしい陶工に会いに行ったり美術館に行ったり、なにかを見つけてほしい。結局のところ、人が〝もの〞に出る。小手先の技術を学ぶのではなく、もっと懐の深いなにかを鍛えなければいけないというのは、僕自身にも言い聞かせていること。そうして受け継がれてきたものを後輩に届けつつ、小鹿田焼の歴史の歯車のひとつとして多少なりとも恩返しできたら、それほどうれしいことはないです」

いろいろ話しつつも無心で土に向かう時間が最も心穏やかでいられると坂本は笑う。その手が次なる歴史を築いていく。

 

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坂本工窯の作業場および販売所。作業場の天井近くに渡した板に次々と作陶を終えた器が並べられる。販売所には、新たな窯をつくるために解体した古い納屋から出てきたデッドストックも。その時々でラインアップが変わる。作業時は声をかければ見学も可能。著名な産地らしく、観光客も多く訪れる。左奥は自宅で、まさに職住一体。

 

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小鹿田の里の中心を流れる川の水を利用して、唐臼で陶土を砕く。臼を突く音とせせらぎが響き渡る姿が、柳やバーナード・リーチの心をもつかんだ。唐臼で砕かれた土は、その後いくつかの工程を経て作業場へ。集落内には各窯元に唐臼がある。小鹿田焼の土は力強い黒を特徴とする。だからこそ、釉薬や鉋を用いたユニークな紋様が映える。

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