色彩が生み出す魅惑の世界へ。ポーラ美術館で開催中の『カラーズ ― 色の秘密にせまる』の見どころ

  • 文:はろるど
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箱根のポーラ美術館にて開催されている『カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ』。近代から現代までの美術家たちが獲得してきた「色彩」をテーマに、絵画や彫刻、インスタレーションなどの幅広いコレクションを紹介する展覧会だ。

印象派からドイツの抽象表現まで。名画でたどる色彩の歴史

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『カラーズ ― 色の秘密にせまる』展示風景 セクション 3「感覚と理論」 ワシリー・カンディンスキー、ロベール・ドローネー、モーリス・ド・ヴラマンク、 アンリ・マティス Photo: Ken Kato

『カラーズ』は、主に第1部「光と色の実験」と第2部「色彩の現在」の2部構成。第1部では、クロード・モネやピエール・オーギュスト・ルノワールといった印象派の画家から、ジョルジュ・スーラ、ポール・シニャックら新印象派の画家に加えて、フィンセント・ファン・ゴッホ、ポール・ゴーガンらの絵画が展示されている。それぞれの時代の最新の色彩論や研究を踏まえてつくり出された色彩の歴史を、絵画(平面)や彫刻(立体)によって読み直す試みだ。また新印象派が参照したシュヴルールによる「色彩の同時対比」を独自に解釈したロベール・ドローネーの抽象的で鮮やかな絵画や、ドイツで抽象表現を探究したワシリー・カンディンスキーの作品なども見どころとなっている。

戦後アメリカ抽象表現主義の作品が充実!

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『カラーズ ― 色の秘密にせまる』展示風景 セクション6「重なりとにじみ:形のない色」、セクション7「色彩の共鳴」、セクション8「アド・ラインハート」 ケネス・ノーランド、ジョアン・ミッチェル、ゲルハルト・リヒター、アド・ラインハート Photo: Ken Kato

ピエール・ボナールやアンリ・マティス、それにパブロ・ピカソらの絵画を経て登場するのは…?それが今回の展覧会のハイライトといえる戦後アメリカの抽象表現主義の作品だ。モーリス・ルイスやヘレン・フランケンサーラーらは、下塗りをしないカンヴァスに絵具を染み込ませるステイニングによって、画面から絵具の物質性を抜き取りつつ、色彩そのものを表現。ルーチョ・フォンタナは彩色した平面をナイフで切り裂くことで、抽象的な色面を物質のある物体へと還元している。さらにゲルハルト・リヒターは『抽象絵画(649-2)』に見られるように、幅広のヘラ状の道具を用いて絵具を塗り拡げながら、不透明な絵具のレイヤーによって「光、仮象」を意味する「シャイン」を表現している。---fadeinPager---

新収蔵品のベルナール・フリズやダン・フレンヴィンも見どころ! 

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『カラーズ ― 色の秘密にせまる』展示風景 セクション 7「色彩の共鳴」、セクション9「色彩と空間」  ベルナール・フリズ、ドナルド・ジャッド、桑山忠明 
※初公開作品 ベルナール・フリズ《Ijo》2020年(右から2番目)Photo: Ken Kato  © Bernard Frize / ADAGP, Paris, 2024 Courtesy of the artist and Perrotin

アメリカ抽象表現主義の作品の充実ぶりはこれだけにとどまらない。かつてモネの滞在したヴェトゥイユにアトリエを構え、明るく鮮やかな絵画を描いたジョアン・ミッチェルは、『無題(ヴェトゥイユのセーヌ河の眺め)』において、セーヌの水面を思わせるような厚い帯状のコバルトブルーや周囲を包む靄のような薄紫色を用い、色彩の響き合う抽象的な風景を表すことに成功。またベルナール・フリズの絵画は、絵具同士を編み物のように重ねながら、絵具から透過される白い下地の効果により、透明感のある輝きを放っている。さらに純粋な抽象絵画を探究し、わずかに階調を変えた黒い四角形を組み合わせた絵画を手がけたアド・ラインハートや、蛍光灯を素材にしたダン・フレイヴィンといったミニマリストたちの作品も見逃せない。

アルフレックスのソファ「マレンコ」とコラボ! 門田光雅に注目

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『カラーズ ― 色の秘密にせまる』展示風景 「Polychrome(多色性)と Polymorphism(多様性)」  門田光雅 Photo: Ken Kato

一方の第2部で紹介されるのは、日本や世界で活躍する現代のアーティストだ。草間彌生、ヴォルフガング・ティルマンス、流麻二果、山田航平、山本太郎らの作品が並ぶ中、鮮やかな色彩と素早く大胆なストロークによって抽象絵画を生み出す門田光雅の作品に注目したい。ここで門田は、絵画の代表作とともに、アルフレックス(arflex)のソファ「マレンコ」(MARENCO)を立体のキャンバスとして描いた作品2点を展示。激しく渦巻くようなストロークは波や風を思わせるが、静岡生まれの門田にとって海の景色を意識することもあるという。また色彩も石竹色や浅葱色といった日本古来の中間色をはじめ、パール系の合成顔料による淡い色彩を取り込むなど実にさまざまで、ひとつとして同じ表情を見せないのも魅力といえる。---fadeinPager---

杉本博司の「Opticks」シリーズから草間彌生の日本初公開作品も

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『カラーズ ― 色の秘密にせまる』展示風景 「無限の色彩」 草間彌生《無限の鏡の間-求道の輝く宇宙の永遠の無限の光》2020年 作家蔵 ©YAYOI KUSAMA Courtesy of Ota Fine Arts Photo: Ken Kato

会場では杉本博司がアイザック・ニュートンの著作『光学』をもとに制作した「Opticks」シリーズの作品を展示しているほか、草間彌生が《無限の鏡の間-求道の輝く宇宙の永遠の無限の光》を日本で初めて公開。実際に無限の鏡面の空間へと立ち入りながら、カラフルな水玉模様が万華鏡のように展開する光景を全身で浴びるように体感できる。野口弘子館長をして「あまた色あふれる時代にあえて色に向き合ってみたい」とする本展は、ポーラ美術館の極めて上質な美術コレクションを改めて堪能できるとともに、自身の中に眠る「本当の色」を呼び覚ますことのできるような展覧会だ。色を見て、感じる喜びを味わいながら、『カラーズ』にてあなたのお気に入りの作品を見つけたい。

『カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ』

開催場所:ポーラ美術館 展示室1、2、3、アトリウムギャラリー
●神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
開催期間:開催中〜2025年5月18日(日)
https://www.polamuseum.or.jp/