“韓国のあいみょん”から「歌王」チョー・ヨンピルの11年ぶりのアルバムまで…2024年リリースの聴き逃せない韓国大衆音楽20選<後編>

  • 文:soulitude
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K-POPに興味を持つ者ならば、自然と韓国の大衆音楽シーン全体にも関心が向くはずだ。あるいは、もともと音楽愛好家であり、K-POPアイドル以外の韓国音楽に興味を抱く者もいるだろう。しかし、どこでも容易に情報が手に入るアイドル音楽に比べ、他ジャンルの楽曲は日本では相対的にアクセスしづらいのも事実。興味があっても多くの優れた楽曲を聴き逃してしまうことは少なくない。

2024年は、アイドル音楽以外にも数多くの素晴らしい韓国音楽が登場した。ここで紹介する20曲の中に一曲でも心に響くものがあれば、それをきっかけにさらに広大な韓国音楽の世界へと足を踏み入れてほしい。筆者の趣味も反映されてはいるが、いずれの楽曲も日本の音楽愛好者に胸を張って推薦できる。選曲はヒップホップ、R&B、ポップ、オルタナティブ、エレクトロニック、ロックなど幅広いジャンルから選び、2024年にリリースされたアルバム収録曲に限定した。気に入った曲があれば、ぜひアルバム全体にも耳を傾けてほしい。<後編>10曲を紹介する。

<前編>はこちら

11. HANRORO「H O M E」

HANRORO「H O M E」(2024.5.27)

2022年にデビューして以来、瞬く間にさまざまな音楽祭や授賞式でその名を轟かせ、大きな注目を集めたHANRORO。丸みを帯びた可愛らしいイメージと青春の物語を描いたロックを歌うことから、一部では「韓国のあいみょん」とも称されるアーティストだ。2024年リリースのEPに収録された「H O M E」は、「燃え盛る私の家」という歌詞からもわかるように、爆発的で力強いサウンドが印象的なロックトラックだ。奇怪で不気味な雰囲気のMVは、楽曲の持つ空気感をさらに増幅させている。

アルバム『HOME』を聴く

12. HWI「Your My Past Lives」

HWI「Your My Past Lives」(2024.09.06)

哲学的な歌詞と精巧なサウンドが融合した、2024年韓国で最も注目すべきエレクトロニック・ポップ。前編で紹介した注目の音楽集団「BAT APT.」のメンバーでもあるHWIは、ディストピア的な現実の中で希望を探し求める過程を、感覚的な音楽と映像で描き出している。本曲は、現代美術家ナム・ジュン・パイクのパフォーマンスショー『Good Morning Mr.Orwell』40周年を記念した『Big Brother Blockchain』特別展で初公開された。また、日本のアーティストMiho Hatoriがリミックスバージョンを発表したことでも話題になった。

アルバム『humanly possible』を聴く

13. イ・スンユン「Anthems of Defiance」 

イ・スンユン「Anthems of Defiance」(2024.10.24)

シンガーソングライターのイ・スンユンは、実力派無名アーティストを発掘する番組『シングアゲイン - 無名歌手戦』を通じて名を広め、その知名度を純粋に自身の音楽的な糧として昇華させ、多くの印象的な作品を次々と発表している。2023年にはすでに日本でライブを行い、圧倒的なパフォーマンスで高い評価を得た。本曲では、我々がロッカーに求める反骨精神と熱い叫びを惜しみなく披露し、「雑音が君の主旋律をすべて奪いに行く」という痛快な歌詞を力強く歌い上げてカタルシスを与える。

アルバム『YEOK SEONG』を聴く

14. CAMO「K-PACK」

CAMO「K-PACK」(2024.10.15)

優れたスキルとスタイリッシュなビジュアルを誇るCAMOは、Awichとの共演を通じて日本でもその名を広めた。トレンディなトラックにマッチする洗練されたメロディが際立つ本曲は、リスナーをミックステープ『Yours Truly』へと誘う。「カネ」から「コリア」「キムチ」まで多義的に解釈できる「K」のタイトルを活かし、キムチ工場をまるでアメリカの犯罪映画に登場する麻薬工場のように描いたユニークなMVも見事だ。さらに、実際にキムチ工場を経営するタレント、ホン・ジンギョンがカメオ出演したことも面白いポイント。

アルバム『Yours Truly』を聴く

15. PoPoMo(JINBO & Hersh)「2 Step」

PoPoMo(JINBO & Hersh)「2 Step」(2024.04.04)

ソウルミュージック好きなら絶対に聞き逃せないアルバム。10年以上にわたり活動を続け、BTS、BoA、SHINeeといったK-POPアーティストから、ヒップホップやR&Bなど幅広いジャンルのアーティストと共演してきたベテラン、JINBO the SuperFreakと、韓国のソウルミュージック・シーンで注目を集めるアーティストHershがタッグを組んだ「PoPoMo」プロジェクトは、国境を超えた「グローバル・ソウルミュージック」を標榜しており、日本のリスナーにもかなり身近に感じられる作品に仕上がっている。

アルバム『PoPoMo』を聴く

16. Fleeky Bang「火(feat. CHANGMO)」

Fleeky Bang「火(feat. CHANGMO)」(2024.10.03)

日本でも『SHOW ME THE MONEY 11』を通じてFleeky Bangの名前を知っている人は多いかもしれない。当時、ドリルジャンル(※)を本格的に追求する姿が強い印象を残した。その後も一貫してその方向性を磨き上げ、現在では韓国ドリルシーンを代表するアーティストとして堂々とその名を刻んでいる。2023年夏からの約1年間で、なんと3枚のフルアルバムをリリースするという驚くべき根性を見せた。本曲が気に入ったなら、Sik-Kなど他のラッパーたちとのコラボトラックもぜひチェックしてみてほしい。

(※)2010年代初頭にアメリカ・シカゴで生まれたトラップミュージックから派生したジャンル。重いビートや暴力的な歌詞、ダークな雰囲気が特徴。

アルバム『AKUMA』を聴く

17. The Deep「Sad Girls Club」

The Deep「Sad Girls Club」(2024.12.17)

エレクトロニック・ポップを届けるThe Deepは、韓国より海外でより多くの注目を集めている女性アーティストだ。きらめくガーリームードに満ちたタイトルからも想像できるように、このアルバムは女性たちだけのパーティーを思い起こさせる。キッチュなメロディとダンサブルなトラックの調和は、The Deepの成功の方程式とも言える。MVでは、ソウルのストリートフードを楽しむシーンから女性だけのホームパーティーへと続く構成が、アルバムのテーマとカラフルな世界観をストレートかつ愛らしく表現している。

アルバム『Electric Pink』を聴く

18. B-Free, Hukky Shibaseki「INDO」

B-Free, Hukky Shibaseki「INDO」(2024.06.28)

2024年リリースされたアルバムの中で、韓国のヒップホップファンの間で最も大きな反響を巻き起こした作品は、ラッパーB-FreeとプロデューサーHukky Shibasekiによるコラボ・アルバムだ。サンプリングをベースにしたHukky Shibasekiのロウなブーンバップビートは、特有のウィットに富んだ直感的なリリックを肩の力を抜いて吐き出すB-Freeのラップと完璧にマッチしている。タイトルは「人道」の韓国語発音に由来しており、ソウルの街を歩いたことがある人なら、誰もが共感できる歌詞も大きな魅力のひとつだ。

アルバム『Free Hukky Shibaseki & the God Sun Symphony Group : Odyssey.1』を聴く

19. Q the trumpet「gut」

Q the trumpet「gut」(2024.08.20)

Q the trumpetはトランペッターであり、シンガーソングライターとしても活動している。前編で紹介したO'KOYEのアルバムをはじめ、Crushやペク・イェリンなど、数々のアーティストの作品に参加していることでもよく知られている。「自分自身を研究する」というテーマを掲げたEP『研究日誌 2』に収録された「겉(gut)」のタイトルは、日本語で「上辺」を意味する。飾られた上辺の中に隠れた、本当の姿を見られたくないという率直な内容が込められている。ライブ動画では、彼のソウルフルなトランペットの演奏もたっぷりと堪能できる。

アルバム『研究日誌 2』を聴く

20. チョー・ヨンピル「그래도 돼(それでもいい)」 

チョー・ヨンピル「그래도 돼(それでもいい)」(2024.10.22)

韓国で「歌王」と称されるチョー・ヨンピルがリリースした20枚目のフルアルバム。1969年にデビューし、55年間にわたり活動を続けている彼は、1980〜90年代初頭に日本でも活動し、『紅白歌合戦』に4年連続で出場するなど、大きな人気を博した。本作は、彼の華やかなキャリアを締めくくる最後のアルバムになるという。NewJeansとのコラボでも知られるDolphiners Filmsが手がけた感動的なMVには、映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』や『グエムル 漢江の怪物』のシーンが挿入されており、豪華なキャストも見どころだ。

アルバム『20』を聴く

 

soulitude

日韓の大衆音楽事情を専門とするライター。日韓の音楽にまつわる記事の執筆やキュレーションなど、コンテンツ制作を行う。2022年から韓国大衆音楽賞とKorean Hiphop Awardsの審査員を務める。

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