K-POPはアイドルグループ以外もアツい! 2024年、聞き逃せない韓国大衆音楽20選<前編>

  • 文:soulitude
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K-POPに興味を持つ者ならば、自然と韓国の大衆音楽シーン全体にも関心が向くはずだ。あるいは、もともと音楽愛好家であり、K-POPアイドル以外の韓国音楽に興味を抱く者もいるだろう。しかし、どこでも容易に情報が手に入るアイドル音楽に比べ、他ジャンルの楽曲は日本では相対的にアクセスしづらいのも事実。興味があっても多くの優れた楽曲を聴き逃してしまうことは少なくない。

2024年は、アイドル音楽以外にも数多くの素晴らしい韓国音楽が登場した。ここで紹介する20曲の中に一曲でも心に響くものがあれば、それをきっかけにさらに広大な韓国音楽の世界へと足を踏み入れてほしい。筆者の趣味も反映されてはいるが、いずれの楽曲も日本の音楽愛好者に胸を張って推薦できる。選曲はヒップホップ、R&B、ポップ、オルタナティブ、エレクトロニック、ロックなど幅広いジャンルから選び、2024年にリリースされたアルバム収録曲に限定した。気に入った曲があれば、ぜひアルバム全体にも耳を傾けてほしい。まずは、<前編>10曲を紹介する。

1. CHS「One Summer Day(feat. mei ehara)」

CHS「One Summer Day (feat. mei ehara)」(2024.08.11)

「誰もが夢見る真夏の海が、私たちの音楽の中にあります」と語るCHSは、「夏を奏でるトロピカル・サイケデリック・グルーヴバンド」だ。「One Summer Day」は、夏の日の美しい思い出を描いたアルバム『熱夜陽星』の収録曲。本曲には愛知県出身のシンガーソングライター・mei eharaがボーカルとして参加し、日本語の歌詞が使われているため、日本のリスナーにも親しみやすく感じられるだろう。MVには映画『犯罪都市』シリーズで日本でも知られる俳優パク・ジファンが登場し、真夏のロマンを鮮やかに映し出している。

アルバム『熱夜陽星』を聴く

2. SUMIN, Slom「WHY, WHY, WHY」

SUMIN, Slom「WHY, WHY, WHY」(2024.07.18)

「ネオK-POP」という方向性を掲げたソロ活動で音楽性を確立し、aespaやBTSといったK-POPアイドルの楽曲も数多く手掛けてきたSUMIN。そして、『SHOW ME THE MONEY』シリーズで名を馳せたプロデューサーSlom。二人は長年にわたる音楽パートナーだ。2021年にリリースされ高い評価を得た『MINISERIES』に続く本作『MINISERIES 2』のテーマは「別れ」。Slomの精緻なプロダクションとSUMINの魅惑的なボーカルは、すでにその完成度が証明されており、安心して再生ボタンを押すことができる。

アルバム『MINISERIES 2』を聴く

3. HYUKOH, Sunset Rollercoaster「Young Man」

HYUKOH, Sunset Rollercoaster「Young Man」(2024.07.03)

HYUKOHは今年、台湾のバンドSunset Rollercoasterと共に4年ぶりとなる新アルバム『AAA』を発表し、日本ツアーも行った。『AAA』は、ロックからジャズ、ゴスペルまで多彩なジャンルの要素を取り入れた豊かなサウンドに、愛やロマン、そして青春を讃えた一枚となっている。その中でも「Young Man」は、青春を象徴してきた彼らが、その後に訪れる未来への不安を素直に歌った楽曲だ。歌詞とは対照的に、明るく楽観的なメロディが印象的で、ユーモアと個性溢れるMVも見逃せない。

アルバム『AAA』を聴く

4. eAeon, Qim Isle, Jclef「BAT APT.」 

eAeon, Qim Isle, Jclef「BAT APT.」(2024.06.02)

ロックバンドやR&Bシンガーなど、それぞれ異なるフィールドで活動してきた「闇の名手」8人が集結した。彼らは、すべてが静まり返る日没後、美しい音だけを頼りに道を見つける「コウモリ」として描かれる。自らを“音楽に誰よりも真摯な音楽オタク”と称するeAeonQim IsleJclef、Kim Hanjoo、HWI、Cha、Mesaniの8人は、ジャンルの境界線を自在に行き来し、まったく新しいコンピレーション・アルバム『BAT APT.』を完成させた。多層的で執念に満ちた彼らの音楽性が、日本にひっそりと存在する別の「コウモリ」たちに静かに届くことを願う。

アルバム『BAT APT.』を聴く

5. Fisherman「3UPHORIA(feat. Wonstein)」

Fisherman「3UPHORIA(feat. Wonstein)」(2024.03.21)

韓国のHIPHOPサバイバル番組『SHOW ME THE MONEY』などを通じて、韓国のヒップホップやR&Bシーンに関心を持った人なら、Zion.TやGIRIBOYの名前は耳にしたことがあるだろう。プロデューサーのFishermanは、彼らが所属するレーベル「STANDARD FRIENDS」の一員だ。レーベルメイトのWonsteinを迎えたこの楽曲は、今年発表された2枚のアルバムのうち『DLC』に収録されている。高揚する感情を電子音で歪ませ、幾重にも重ねるという独創的なアレンジが際立つ一曲だ。 

アルバム『DLC』を聴く

6. O'KOYE「Yezzir(feat. ユン・ソクチョル)」

O'KOYE「Yezzir (feat. ユン・ソクチョル)」(2024.05.13)

プロデューサーThe o2とラッパーIKYOによるデュオ、O'KOYEは、今年デビューアルバムを発表するやいなや、ジャズとヒップホップを高度に融合させた音楽で高い評価を得た。彼らはジャズサウンドを単にサンプリングしたりコードを引用したりするだけでなく、演奏者たちとのインタラクションを通じて、ダイナミックで絶妙なシナジーを生み出している。この楽曲には韓国の著名なジャズピアニスト、ユン・ソクチョルが参加し、その存在感が楽曲全体を引き締めている。気に入ったら、ぜひアルバム全体にも耳を傾けてほしい。

アルバム『Whether The Weather Changes Or Not』を聴く

7. Rad Museum, Kid Milli「S/S(feat. DEAN)」

Rad Museum, Kid Milli「S/S(feat. DEAN)」(2024.08.20)

それぞれ存在感のあるヒップホップアーティストとR&Bアーティストによる見事な共演。『SHOW ME THE MONEY』などを通じて日本でも知られるKid Milliは、常にスタイリッシュで感覚的な作品を発表し続けてきた。一方、Rad Museumもリリースするたびに高い評価を受け、今やR&Bシーンで欠かせない存在となっている。二人によるコラボ・アルバムは、彼らならではの洗練されたサウンドに満ちている。特に「S/S」は、Rad Museumが所属するレーベル「you.will.knovv」を率いるDEANが参加し、その世界観をさらに引き締め、完成度を高めている。

アルバム『RAD MILLI』を聴く

8. キム・トゥットル「Esc (feat. Swervy)」

キム・トゥットル「Esc (feat. Swervy)」(2024.11.28)

김뜻돌(キム・トゥットル)は、新しい世代を代表するロックミュージシャンの一人。今春3月7日に日本でも公開予定の映画『ケナは韓国が嫌いで』に出演し、俳優としてもデビューを果たした。彼女は、超現実的なテーマを掲げたフルアルバム『天使インタビュー』において、夢幻的なシューゲイザーサウンドから力強いラップ、エレクトロニックまで、ロックサウンドを基盤に多彩な音楽表現を展開している。ラッパーSwervyとともに作り上げたこの楽曲のMVには、アルバムの最終章を飾る2トラックが収録されている。

アルバム『天使インタビュー』を聴く
 

9. YULEUM「True And Honest」

YULEUM『CICADA』FULL ALBUM(2024.10.17)

作詞、作曲、編曲、演奏、ミックス、マスタリングまで、すべてを自ら手掛ける才能あふれる15歳のアーティストYULEUM。彼は3年前、わずか12歳でラッパーSwingsの目に留まり、デビューを果たした。3年間の成長を経てリリースされた今作には、中学生でありながらミュージシャンとして活動している彼の状況から生まれる現実的な悩みが込められている。その驚異的な才能が輝く瞬間と、まだあどけなさの残る一面が交錯し、少年ならではの純粋さが心に響く。気に入ったなら、ぜひ最後まで映像を見届けてほしい。

アルバム『CICADA』を聴く
 

10. HYPNOSIS THERAPY「DON'T STOP」

HYPNOSIS THERAPY「DON'T STOP」(2024.10.25)

ラッパーJJANGYOUとプロデューサーJflowによるデュオ、HYPNOSIS THERAPYは、エレクトロニックミュージックを基盤に、ヒップホップ、メタル、アフロなど多様なジャンルを融合させ、“狂気じみた”音楽性を披露するユニットだ。その実験的なサウンドと高い完成度は海外でも注目を集め、今年はヨーロッパツアーも成功させた。また、彼ら特有の動物的なライブパフォーマンスでも知られている。MVから感じられる生々しいエネルギーに引き込まれたら、アルバム全体を通してさらなる爆発的な快楽を味わうことができるだろう。

アルバム『RAW SURVIVAL』を聴く

 

soulitude

日韓の大衆音楽事情を専門とするライター。日韓の音楽にまつわる記事の執筆やキュレーションなど、コンテンツ制作を行う。2022年から韓国大衆音楽賞とKorean Hiphop Awardsの審査員を務める。

 

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