軽井沢の森の中に生まれた、シネマチックなタイムシェア別荘「セレンコレクティブ ELM:ザ・コーン」とは?

  • 写真:高木康行
  • 編集&文:佐野慎悟
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ザ・コーンは法規上の構造種別は木造であるものの、リビングに15m×12mという大スパンとパノラマなガラス窓を実現するために、梁をスチール材で補強した。

軽井沢の別荘地に立ち現れた、バウムクーヘンのかけらのようなユニークな形状の建築は、建築家・神谷修平率いるカミヤアーキテクツが手掛けたTHE CONE(ザ・コーン)という名の別荘だ。2023年の竣工以来、タイムシェア型の共同所有ヴィラ「セレンコレクティブ ELM」として、売主であるボルテックスにより運用されている。ボルテックスでは「セレンコレクティブ」シリーズとして、軽井沢 千ヶ滝にも「セレンコレクティブ MAPLE」を運営、販売している。

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竣工間近のザ・コーンを上空から捉えた写真。谷側(写真上方)に大きく開けたパノラマ・ビューが最大の魅力。photo by Takumi Ota

 

山間の傾斜地を利用した建築を考えるにあたり、カミヤアーキテクツ代表の神谷修平は、そこにある特徴的な地形をそのままデザインのベースとした。

「この土地には前の所有者が造成まで完成させた扇状の平地が残されていたので、その地形に抗うことなく、とてもシンプルな形状の建物をデザインしました。軽井沢はリゾート、ショッピング、食事、スポーツ、音楽、アートといった、多様なアクティビティが充実した街です。この豊かなライフスタイルを横断する“円弧”型のループをイメージした上で、その一部を抜き出して建物にしたものです」

斜面から谷側に向かって扇状にデザインされたザ・コーンは、屋根の傾斜も山側から谷側に向かって迫り上がっていく。このスピーカーのような形状によって、より一面の窓から望むパノラマの壮大さが強調され、屋内でくつろぎながらも、自然の中に溶け込んでいくような感覚が得られる。白く塗られた天井は反射板としての役割を担い、外からの光を部屋全体に行き渡らせる。

 

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●神谷修平 1982年、愛知県生まれ。2007年に早稲田大学大学院理工学研究科 修了。07年から16年まで隈研吾建築都市設計事務所に勤務。16年から17年まで文化庁研修制度で北欧へ。デンマークでBIG -BJARKE INGELS GROUPに勤務。帰国後17年にカミヤアーキテクツを設立。アート施設、住宅、店舗、商業施設、ホテルなどの建築プロジェクトやプロダクトデザインを幅広く手掛ける。https://kamiya-architects.com/

  

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前の土地所有者が残した平地の形状をそのまま利用して、扇形にデザインされたザ・コーンのテラス。

 

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火と石を囲み、原始的なくつろぎを味わう空間。

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無機質なスチールと温かみのある木材が互いの個性を引き立て合うキッチンのデザイン。

「シェフやバンドを招いてホームパーティを楽しんでもらうことを想定したザ・コーンでは、キッチンもパフォーマンスを披露するステージのようにデザインされています。私は建築家にならなかったらシェフになりたかったぐらい料理が好きだから、キッチンのデザインにも、細かい部分に使い手のことを考えたこだわりがあります。キッチンからリビングに向かって広がっていく建物の形状は料理の香りを部屋全体に送り届け、ホームパーティの雰囲気を盛り上げてくれるはずです」

リビングの中心に暖炉を設けたのは、ビャルケ・インゲルスに師事したデンマークでの経験から着想を得たものだと言う。

「デンマークでは10回ほど引越しをしていろんな家を見てきましたが、どこの家も光がとても綺麗で、何代も使い続けた家具を大事にするなど、華美な装飾よりも素朴で本質的な価値が求められているように感じました。さらにデンマークでは、昔から長い冬の間、家の中で火を囲んで家族、パートナー、友人たちと語らうヒュッゲ(居心地のいい空間と時間)という概念が大事にされてきました。そのコージーな雰囲気を意識しつつも、一方で空間のディテールには規律性や緊張感を保ち、研ぎ澄まされたシンプリシティを表現しました」

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リビングから左右に延びる、湾曲した廊下。
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寝室は2部屋用意されており、ゲスト・ファミリーとの親密なリゾート・ステイが愉しめる。

建築に用いられた木材や石材は全て国産のもの。風呂場には青森県産の十和田石、リビングの暖炉には信州産の安山岩の巨石が用いられた。

「暖炉はもともとレンガでつくる予定だったんですが、石切場で見た500万年前の地層から出た巨石に心を奪われて、急遽天然の石を使うことにしました。テーブルを囲む空間もいいですが、火と石を囲むという原始的な行為は心を落ち着かせてくれますし、規律性のある空間の中に不均一な自然物を持ち込む行為は、とても日本的でもあると考えました」

曲線のために先の見えない廊下は、歩を進めるたびに新しい景色が開けていく。薄暗い空間と開放感あふれる空間のコントラストが、過ごしていて実に心地いい。

「私は建築をデザインする時に、それに合わせて多くの場合映像も作ります。実際に行けなくても、そのデザインを追体験できることによって、いろいろな方々に建築の魅力を伝えることができると思っているからです。また、建築が出来た後に映像の撮り方を考えるのではなく、設計段階から映像的なアプローチを考えながらデザインを考えるようにしているんです。実際ユーザーも静止した視点ではなく一連の動作の中で建築と対峙していきますし、音も静止画では伝わりません。この物件をデザインするにあたって、薄暗い廊下からパッと視界が開けて、暖炉の向こうに雪景色が広がるという映像的(シネマチック)なシークエンスは、最初から決めていました」

敷地内に一歩足を踏み入れた瞬間から始まる、森の中のシネマチックなリゾート・ステイ。くつろぎの時間を過ごすうちに、ザ・コーンが魅せる美しい世界へ没入していく。

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サウナが併設された浴室。サウナには音楽ユニットのベジタブルレコードがこの場所だけのために制作したBGMが流れる。
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山側の裏庭には滝のある水景が作られており、鳥のさえずりと共に心地よいせせらぎの音がゲストを迎える。photo by Takumi Ota

問い合わせ先:ボルテックス
https://www.vortex-net.com/