全国各地にて数多くの展覧会が開催される2025年。上半期においては、県立クラスにて日本最後発となる鳥取県立美術館(倉吉市)がオープンするほか、大阪・関西万博の開催にあわせ、大阪市立美術館にて大規模な国宝展が開かれるなど、注目の展覧会が続く。会期順に紹介する。
1.『パウル・クレー展 ── 創造をめぐる星座』@愛知県美術館【1/18〜3/16】
20世紀初頭にドイツで活動したパウル・クレー(1879〜1940年)。当初、銅版画などを手がけるものの、カンディンスキーやマルクらと出会い、ドローネーの作品に感化されると、1914年に訪ねたチュニジアにおいて《チュニスの赤い家と⻩色い家》といった色彩豊かな作品を描きはじめる。
第一次世界大戦で「青騎士」の仲間を失ったクレーは、ナチスの台頭によって美術学校を解雇され、スイスに亡命を余儀なくされるなど、極めて困難な人生を歩む。それでも線と色彩によって光を呼び起こし、抽象のなかに生命のエネルギーを描き出すと、子どもの絵のような無邪気さと哲学的な思索が融合したような作品で観る者の心を強く惹きつけてきた。
愛知県美術館にて開かれる『パウル・クレー展 ── 創造をめぐる星座』では、スイスのパウル・クレー・センターとの学術協力のもと、バーゼル美術館のほか、国内各地の美術館からクレーの作品が50点以上が集結。《窓のあるコンポジション》といった代表作のほか、《ハマメットのモティーフについて》、《周辺に》などの日本初公開となる作品が展示される。
またカンディンスキーのほか、マッケ、マルクなどクレーと交流のあった芸術家の作品も紹介。仲間たちと刺激を与え合い、夢を共有することもあったクレーの生涯と多面的な芸術を明らかにする。戦時中に行われた自作の切断と再構成など、自らも徴兵を受けて従軍した経験のあるクレーが、戦争から受けた影響についても紐解かれる。
『パウル・クレー展 ── 創造をめぐる星座』
開催場所:愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
●愛知県名古屋市東区東桜1-13-2
開催期間:2025年1月18日(土)〜3月16日(日)
https://static.chunichi.co.jp/chunichi/pages/event/paulklee_aichi/
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2.『ヒルマ・アフ・クリント展』@東京国立近代美術館【3/4~6/15】
カンディンスキーやモンドリアンらに先駆け、抽象絵画を創案したといわれる画家、ヒルマ・アフ・クリント(1862〜1944年)を知る人は、アートファンの中でも多くないかもしれない。スウェーデンに生まれたアフ・クリントは、王立芸術アカデミーで学んだ後、神秘主義思想に傾倒。親しい4名の女性とグループ「5人 (De Fem)」を結成して交霊術を行うと、その体験を通して独自の抽象表現を生み出していく。
交霊の集いにて神智学的教えについての絵を描くようにと告げられると、1906年から1915年にかけて「原初の混沌」、「エロス」、「白鳥」など自ら構想した「神殿のための絵画」を193点も制作した。そして81歳にて世を去るまで活動を続けるも、作品はほとんど展示されることなく手元に残されてきた。
アジアで初めての大回顧展となる『ヒルマ・アフ・クリント展』では、画家の存命中、また死後も長くほとんど展示されることのなかった約140点の作品を公開。アフ・ クリントの今日的な評価を決定づけた代表的シリーズ「神殿のための絵画」を中心に、ノートやスケッチなど絵画以外の資料も展示し、制作のインスピレーションの源を探っていく。
1980年代以降、いくつかの展覧会で紹介されたアフ・クリントが一躍脚光を浴びたのは、2013年にストックホルム近代美術館からスタートした回顧展でのこと。100万人以上も動員したほか、2018年にはグッゲンハイム美術館 (アメリカ)で開催された回顧展でも60万人以上の動員を記録。「美術史を書き換えさせる力がある」とも評され、世界を虜としたアフ・クリントの圧倒的な作品世界が、ついに東京でヴェールを脱ぐ。
『ヒルマ・アフ・クリント展』
開催場所:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
●東京都千代田区北の丸公園3-1
開催期間:2025年3月4日(火)~6月15日(日)
https://art.nikkei.com/hilmaafklint/
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3. 開館記念展『アート・オブ・ザ・リアル時代を超える美術-若冲からウォーホル、リヒターへ-』@鳥取県立美術館【3/30〜6/15】
鳥取県立博物館から美術部門が独立し、2025年3月、初の県立美術館として倉吉市にオープンする鳥取県立美術館。世界的建築家、槇文彦が率いた槇総合計画事務所の設計による美術館は、山陰最大級の寺院跡として知られる大御堂廃寺跡を臨み、陽光あふれる開放的な空間を特徴としている。また館内には5つの常設展示室と企画展示室だけでなく、3層の吹き抜けスペースの「ひろま」や、屋外での活動も可能な「創作テラス」などが整備される。
アートを地域社会にひらき、つながりを作り、確かなものとして根付かせることを目指す同館のブランドワードは「OPENNESS!(オープンネス)」。県立クラスの美術館としてはほぼ日本最後発でありながら、鳥取からアートで未来を切り開くために誕生する、いま最もホットで話題を集める美術館だ。
開館を記念して行われる『アート・オブ・ザ・リアル 時代を超える美術ー若冲からウォーホル、 リヒターへ』では、ともに鳥取県の出身である前田寛治の「写実」や、初期の辻晉堂(つじしんどう)の彫刻的リアリズムなど、鳥取県のコレクションの特性である表現における「リアル」に着目する。
江戸時代から現代まで、洋の東西を問わず、油彩画、日本画、彫刻、写真などの多様なジャンルの作品約180点を通して、何が「リアル」であるのかをめぐる美術家たちの創作の軌跡を辿っていく。2022年に同館の収蔵品として新たに購入され、県民の中で賛否の議論を起こしたアンディ・ウォーホルの『ブリロ・ボックス』もいよいよお披露目となる。
『アート・オブ・ザ・リアル時代を超える美術-若冲からウォーホル、リヒターへ-』
開催場所:鳥取県立美術館 企画展示室、コレクションギャラリー1・2
●鳥取県倉吉市駄経寺町2-3-12
開催期間:2025年3月30日(日)〜6月15日(日)
https://tottori-moa.jp/
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4. 特別展『蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児』@東京国立博物館【4/22~6/15】
江戸の吉原に生まれ、貸本業から身を起こし、一代で傑出した出版業者に成り上がった蔦重こと蔦屋重三郎(1750〜1797年)。経済的な活況を帯びるものの、飢饉や火山の噴火などが続き、幕府の統制が厳しくなる時代において、社会状況の変化をつぶさに捉えた蔦重は、黄表紙や洒落本といった文芸のジャンルにおいて数々のベストセラー作品を送り出す。
また狂歌の隆盛に合わせて、狂歌師や戯作者とも親交を深めながら、武家や富裕な町人、人気役者や絵師と関わると、浮世絵師のなかでも特に名高い歌麿や写楽を見出し、プロデュースしたことでも知られている。ネットワークを縦横無尽に広げながら、さまざまな分野を結びつけた、江戸のメディア王ともいえる人物だ。
特別展『蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児』では、本のみならず、優れた作者を育て、新たな時代を作り上げた蔦重の全体像を約250点の作品にて紹介。時間を追って蔦重の出版活動をたどるほか、蔦重が発掘した歌麿や写楽をはじめとする18世紀末の浮世絵黄金期の名品を一堂に展示する。写楽のデビュー作として知られ、大首絵の傑作である《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》も見逃せない。
さらに2025年に放送される蔦重を主人公とした大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」(NHK)ともタイアップ。蔦重の活躍した天明・寛政期(1781〜1801年)の江戸の街を彷彿させる再現展示も行われる。人々が楽しむものを追い求め、稀代のプロデューサーであり、マーケターでもあった蔦重のバイタリティーに満ちた生き様を、江戸時代にタイムスリップした気分で味わいたい。
特別展『蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児』
開催場所:東京国立博物館 平成館
●東京都台東区上野公園13-9
開催期間:2025年4月22日(火)~6月15日(日) ※会期中、展示替えあり
https://tsutaju2025.jp/
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5. 大阪・関西万博開催記念 大阪市立美術館リニューアル記念特別展 『日本国宝展』@大阪市立美術館【4/26~6/15】
2025年4月の大阪・関西万博の開催に先立ち、3月に開館以来初めてとなる大規模改修を終え、リニューアルオープンを遂げる大阪市立美術館。万博とリニューアルの2つのビックイベントを記念して行われる『日本国宝展』は、大規模な国宝展としては公立館として初、そして大阪にて初めて開かれる国宝展だ。
第1部では、大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」にちなみ、日本美術の造形にみるデザインに注目。今日のデザインの観点から捉えても古びない本阿弥光悦の《舟橋蒔絵硯箱》や尾形光琳の《燕子花図屏風》などを展示する。煌びやかで装飾的な画面が広がる、長谷川等伯の《楓図》も必見の作品といえる。
また狩野永徳の《唐獅子図屏風》といった日本美術の巨匠たちの作品をはじめ、「いにしえ文化きらきらし」と題し、最小の国宝である金印《漢委奴國王》も公開。さらに「祈りのかたち」として、平安仏画の傑作である《孔雀明王像》を展示するほか、かつて誰もが教科書で目にした《伝源頼朝像》や刀剣に甲冑の名品、肖像彫刻の最古の例にして傑作として名高い《鑑真和上坐像》が期間限定にてお目見えする。
第2部で公開される大阪ゆかりの国宝にも注目したい。古墳時代に大陸からの玄関口でもあった大阪は、長く日本の中心として発展してきた歴史と文化を有する都市。よって社寺には多くの国宝の宝物が所蔵され、藤田美術館に代表されるように実業家らは貴重な文化財を蒐集し、海外への流出や破壊・盗難から守り、今に伝えている。『日本国宝展』にて国宝のオールスターを愛でながら、大阪の文化的な底力を体感したい。
大阪・関西万博開催記念 大阪市立美術館リニューアル記念特別展 『日本国宝展』
開催場所:大阪市立美術館
●大阪府大阪市天王寺区茶臼山町1-82(天王寺公園内)
開催期間:2025年4月26日(土)~6月15日(日)
※会期中、一部の作品は展示替えを行います。
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/kokuhou2025/