日々なにげなく使ったり、飾って楽しんだり。使い方はさまざまに、民藝は暮らしの中にある。デンマークのコペンハーゲンにアトリエを構えるデザイナーのセシリエ・マンツに、お気に入りのアイテムや楽しみ方を聞いた。
2025年は、「民藝」という言葉が誕生して100年目となる記念の年だ。そしていまもなお、世代を超えて多くの人が民藝に魅了されている。いま私たちが日常の中で出合う民藝の姿とは? 日々の暮らしに寄り添ってくれる、その魅力にフォーカスしたい。
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コペンハーゲンにあるセシリエ・マンツのアトリエを訪れた際、彼女がコーヒーカップを載せて運んできたトレイは、どこかしら見覚えのあるものに似ていた。
「これは日本の蚤の市で買った、お櫃の蓋。間違った使い方だとは思いますが、理にかなった丈夫なつくりでとても美しいかたち。お気に入りの民藝のひとつです」
陶芸家の両親に連れられ、初めて日本民藝館を訪れたのは3歳の時。その後も来日するたびに同館を繰り返し訪れている。
「民藝には共感を持っていますが、デンマーク語にはそれに相当する言葉がなく、柳宗悦とは生きていた時代も土地も違うため、その本質がきちんと把握できているのかは定かではありません。でも、自分が気に入って手に取るもの、身の周りに置いているものすべてに共通しているのは、『適切な機能性』だと思います」
前述のトレイのように、過ごす環境が変わったとしても、正しくつくられたものは時代を超え、使う背景を鮮やかに描き出す。
「余計な文脈を加えず、使われることだけを素直に目指したものは、50年、100年経ってもそのピュアさが際立ちます。名も知らぬ誰かがそれを一生懸命につくった様子を感じ取れるだけでも幸せで、心穏やかになります」
セシリエが語る機能性とは、ユーザーにとっての使い勝手を示したものではない。素材のあしらいや工法の選定など、製造過程の妥当性も含まれる。
「素材選びや歩留まりのよさに無駄がなく、道具としての目的と素直に合致しているかも、美しいものづくりには大切なこと」
たくさんのものの中から個々人が自由に選択し、暮らしのしつらえが考えられる環境が整った社会で、デザイナーとして自身がどのようにふるまうべきか。この時に、民藝が示す「適材適所」の感覚は、大きなひとつの指針となると、セシリエは語る。
「拡大解釈かもしれないけれど」
という前置きを加えた上で、民藝は古物やハンドメイドなどだけに限定されるのではなく、日常的に私たちが使用する工業製品の中にも存在している感覚だと話す。
「焼き菓子の型や調理道具、気軽に水やワインを注ぐ簡素なグラスなど、便利に使い回すことができて、少し手荒に扱っても壊れない。意識せずともずっとそばに置いている、慎ましやかな道具で、私は愛情を持って、こうしたものたちを〝ネオ民藝〞と呼びたいです」
正しくつくられ、使われるものは錆びることなく、愛され続ける。民藝から感じ取る「適材適所」の感覚を胸に、これからも暮らしに必要とされるものをつくり続けたいと話してくれた。
セシリエ・マンツ
デザイナー
1972年、デンマーク生まれ。ヘルシンキ芸術デザイン大学交換留学を経て、97年、デンマーク王立芸術アカデミー卒業。98年、コペンハーゲンに自身のスタジオを設立する。家具、食器から照明、電化製品まで、幅広くデザイン。日本企業との協業も多数手掛ける。
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