世界で一台のロールスロイスをつくれる、プライベートオフィスに潜入!

  • 文:小川フミオ
  • 写真:Rolls-Royce Motor Cars
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ソウル市内のビルの12階にある「プライベート・オフィス・ソウル」。

ロールス・ロイスが「プライベートオフィス・ソウル」を開設。自分だけのクルマが欲しい顧客のためのこのサービスを、2024年11月に韓国まで見にいった。

ロールス・ロイスは、本社のある英国グッドウッドでは以前より顧客向けにビスポーク(特別注文)サービスを展開。同様のサービスを提供する「プライベート・サービス」を2022年にドバイ、23年は上海、そして24年にニューヨークとソウルでオープンした。

オープンといっても、目立つ看板もなく、ひっそりと存在を隠すかのようにビジネスを展開している。ソウルには、地元をはじめ、日本やアジア各地から顧客が訪れているそうだ。

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目立たないドアが逆に特別感をかもしだしている。(写真:筆者)

「ロールス・ロイスは通常でも4万4000色の車体色を用意するなど、特別なクルマが欲しい顧客のためのサービスを展開しています。さらに一歩踏み込んで、より個人的な思い入れや、創造性を極めていきたいなどのご希望がある顧客のために開いたのがプライベート・オフィスです」

ソウルでのメディア向け説明会の席上で、ロールス・ロイス・モーター・カーズのクリス・ブラウンリッジ最高経営責任者は、上記のように語った。---fadeinPager---

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ロールス・ロイス・モーター・カーズのブラウンリッジ最高経営責任者。

「顧客には、ビジネスや趣味、家族からペットまで、自分が強い思い入れをもっている要素をロールス・ロイスにとり入れたいという希望をもっている方もいて、年々増えているように感じています」

たとえば、とブラウンリッジ氏が例を挙げたのが、ドバイのプライベート・オフィスが、真珠をビジネスにしている一家から受けたオーダー。

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ドバイで手掛けた「パール・カリナン」の塗色は特別色で耐候性など入念にチェックしたそう。

「お父様の90歳の誕生日に、真珠をモチーフにしたカリナンを贈りたい、というのが希望でした」

ボディカラーはパールローズという特別な色で、内装も、前席にはその父親が好きなカシミアグレーメインで使い、後席は顧客に真珠を見せるときに載せるクッションをイメージしたアーデンとレッドで仕上げた。

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マザーオブパールが埋め込まれた後席用ピクニックテーブル。

車内の金属パーツはマザーオブパールのような光沢を持たせ、極め付けは家族から提供を受けたマザーオブパールを1351個ずつ、左右にはめこんだ後席用ピクニックテーブルだ。

「私たちの仕事は、聴き、そして提供すること。そう心得て顧客に対応しています」。そう話すのは、英国本社からソウルオフィスに転属したリージョナル・ビスポーク・デザイナーのジェイムズ・ロバート・ベイズン氏だ。---fadeinPager---

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ソウルでのベイズン氏(左)とクライアントエクスペリエンス・ビスポーク・マネージャーのジェフリー・チョイ氏(右)。

オフィスには、各国の販売店から紹介された顧客がやってくる。そこでベイズン氏を筆頭に常駐スタッフが対応する。

「仕事はコンサルティングのよう」と説明される通り、顧客の要望に耳を傾け、「こういうものがお望みですか?」とスケッチを見せるなどしてイメージを固めていく。何度も何度も打ち合わせを重ねるそうだ。

「世界各地にプライベート・オフィスを設けているのは、単語ひとつとっても、ニュアンスは文化によって異なるためです。地域の文化を理解することで、より正確に顧客の望みをかなえることができるのです」

ベイズン氏は、ソウルにオフィスを設けた理由をこう語る。さらに「もちろん、アジアといっても広く、日本の顧客と韓国の顧客のテイストが異なることは承知しています」と付け加えた。

IMG_1572.jpeg注文を受けると何度も話し合いを重ね、スケッチやコンピューターイメージで顧客のイメージを固めていく(写真はピーコックをイメージしたもの)。
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クジャクのイメージというリクエストに応えての提案。

日本向けに、ロールス・ロイスのビスポーク(特別注文)部門が手掛けた“作品”として、かつて私は錦鯉の愛好家のために仕上げたピクニックテーブルを見せてもらったことがある。

美しい紅白(白地に緋模様をもつ品種)が泳いでいる池を俯瞰で眺めたような絵が描かれていて、後席に座ってテーブルを出すと、乗車中、紅白を眺めていられる仕上げだ。

「単なるクルマではなく、乗り手自身を表すオブジェクトなのです」と、ブラウンリッジ最高経営責任者。---fadeinPager---

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ソウルのオフィスは白木やハンジ(韓紙)を使って落ち着きを表現。

自分を表すロールス・ロイスを実現した後、もしなんらかの理由で手放すとき、特別な車両に中古車市場はあるのだろうか。その質問に、「もちろんあります」とベイズン氏。

「仕上げを見ていただければ、クルマというよりアートピースだと理解していただけるでしょう。もっとも、ビスポークを注文する顧客は、100台など膨大なクルマのコレクションを持っているので、いちいち中古車市場のことを考えなくてもよいようです。

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23年に「コーチビルド」で特別な車体がデザインされた「アメジスト(紫水晶)スウェップテイル」。

ロールス・ロイスは、特別なデザインでつくってくれる「コーチビルド」、メーカーが手掛ける1台だけの仕様「ワンオブワン」、ごく少量生産の特別仕様「プライベートコレクション」、そして限定の「コクレションカー」とビスポーク車両に力を入れている。

第二次大戦前は、高級車はエンジンを載せたシャシーのみが販売され、顧客はそれを購入したのち、自分が選んだ車体製造業者、いわゆるコーチビルダーに持ち込んだものだ。傑作と称される車両がまさにアートピースのように残されている。 

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キッキングプレートのプラックが自分だけのロールス・ロイスであることを示している。

プライベート・オフィスは、ここで紹介したように、またちがうかたちでのビスポーク。オーナーの人生を車両に込めていくという在り方がユニークなのである。