デザインの目利きが選ぶ民藝品とは? 「ヴァーグ」の柳原照弘が語る、余白こそが民藝の魅力だ

  • 写真:中島光行
  • 文:猪飼尚司
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日々なにげなく使ったり、飾って楽しんだり。使い方はさまざまに、民藝は暮らしの中にある。デザイナーとして活動する一方で、神戸にスタジオ兼ギャラリー「ヴァーグ」を持つ柳原照弘に、お気に入りのアイテムや楽しみ方を聞いた。

2025年は、「民藝」という言葉が誕生して100年目となる記念の年だ。そしていまもなお、世代を超えて多くの人が民藝に魅了されている。いま私たちが日常の中で出合う民藝の姿とは? 日々の暮らしに寄り添ってくれる、その魅力にフォーカスしたい。

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李氏朝鮮の収納家具

農家で使われていたと思われる棚は、多様な組手で不揃いなパーツを器用に組み合わせたつくり。李朝家具としてはかなり厚手で丈夫な無垢板を使った珍しいタイプ。ものを置き続けたせいか、天板は少し歪んでいる。

デザイナーとして活動する一方で、神戸にスタジオ兼ギャラリー「ヴァーグ」を持つ柳原照弘。ヴァーグを訪れると、いたるところに置かれた趣のある民藝の品に目を奪われる。数々の名品を所蔵する一方で、現代における民藝との接し方に戸惑いを覚えた時期もあったと、柳原は話す。

「民藝運動が起こった100年前と現代とでは、社会環境もライフスタイルも大きく異なります。民藝に触れるたびに『いまの時代に使えるもの、使いたいものとはなんだろう』と繰り返し頭の中で考え続けてきました」

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右:大麻布でつくられた角袋 
丹精を込めて織り上げた反物の端を再利用した穀物入れ。反物を斜めに折り合わせることで、底に縫い目が現れないパターンを採用。シンプルながら、構造をより丈夫にし、内容物が漏れないようにする工夫が感じられる。
左:李氏朝鮮のオープンシェルフ 
垂直・水平の部材が交差する仕口を三角形に取っているのが特徴的。構造を支える上下の棚の厚みに対し、中央の棚板はかなり薄いものを選択。堅牢性を高めるために渡した背面中央の角材がアクセントで効いている。

受け継がれる民藝の現状と、自分が生活する環境にある大きなズレとはなんだろう? その理由を知るために、柳原はバーナード・リーチ本人が挽いた器から、無名の職人が手掛けた李朝家具や大麻布の衣まで、時代を超えた民藝の品々を入手。実際に自分の暮らしの中で使うことで、民藝が示す本質に近づこうと試みた。

「自分で多様に使いこなしていく中でわかったのは、美しい民藝は、素材や構造、用途のつながりがとても自然で、無理がないということ。時間が経過した後でも、手仕事の跡を追うと、当時どのようにつくり、使っていたのかが明確に見えてくるんです」

環境と生産、生活と消費が一体となった民藝。これに似た存在として、柳原はイタリアの食材、パスタを例に挙げる。

「ひと口にパスタと言っても、本国に行くと数え切れないほどのバリエーションがある。でも元をたどればそのかたちや製法は、地域ごとに採れる食材と料理の特性によって決まっている。このように素朴で本質的なものづくりは、それぞれの環境に沿うように自然に成長した形跡がうかがえます」

さらに民藝は、機能性だけがポイントではないと続ける。たとえばリーチの器は、使い勝手がいいものとは正直言い難いが、どのように盛り付けたら食事がおいしく見えるか、より美しいセッティングになるかを考える指標になる道具だと柳原は話す。

「使い続けながら、生活の空間や状況に応じて、それぞれが自由な物語を描き出すことができる。この余白こそが民藝の魅力であり、現代のデザイン思想にも活かすことができる視点だと思います」

ヴァーグでは、ガラスケースには入れず、棚やテーブルの上に展示。さらに、併設のレストランでは、実際に料理やドリンクを入れて、サーブすることもある。

「実際に触れてこそわかる感覚を、ここでみなさんと共有できればと思っています」

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バーナード・リーチの器
20年ほど前に国内で購入したバーナード・リーチの貴重なコレクション。ピッチャーはレストランの水差しとして、また、セント・アイヴスの窯で焼かれたタイルはコースターとしてヴァーグで実際に使っている。

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柳原照弘
デザイナー


Teruhiro Yanagihara Studio主宰。プロダクトデザイン、インテリアデザイン、ブランドのディレクションなど包括的な提案を行う。神戸とフランス・アルルに持つスタジオ兼ギャラリーを含む世界5カ国の拠点から、国や文化の境界を越えたプロジェクトを手掛ける。

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