鮮やかに佇む鳥のアート、でも近づくと…驚きの仕掛けに「気づかなかった!」  

  • 文:青葉やまと
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ArtisticPhoto-Shutterstock

色鮮やかな鳥がリアルな筆致で描かれた、美麗な“絵画作品”の数々。

止まり木で羽を休めるオウムや、巣の上で獲物の魚を誇らしげに押さえ込むタカの仲間のミサゴ、そして小さな身体で飛翔するハチドリ……。どれも生き生きとしていて、今にも動き出しそうだ。

だが、どの作品も美しいだけでなく、ちょっとした“秘密”を隠している。ていねいな筆遣いで描かれたように見えるこれらの作品は、実はどれもカラフルな廃材を立体的に寄せ集めたアート作品だ。

作品を手がける米アーティストのトーマス・デイニンガー氏は、使われなくなった子供のおもちゃや文房具などの廃品を巧みに配置し、生き生きとした作品を生み出す現代美術家だ。

各グッズがもともと備えている色味を生かし、小さなパーツを複雑に立体的に配置。遠方から鑑賞したときに擬似的な混色効果を生み出し、油彩のようなタッチを成立させている。

鑑賞する角度を一歩ずらすと…

デイニンガー氏は作品の驚きの視覚効果を自身のInstagramアカウントで紹介している。ミサゴ(タカ)の作品は、油彩で描かれた荒々しいミサゴが巣の上でこちらを睨み付けており、背景は適度にぼかしのかかった森となっている。

しかし、カメラが左側へとゆっくり回り込むと、1枚の絵として私たちの脳が認識していた状況はゆっくりと崩壊してゆく。正面の鑑賞ポイントから1歩ずれると、途端に端正なミサゴの姿はぐにゃりと歪みはじめる。1羽の勇猛な鳥は、実は奥行き方向に幾層にも重なったガラクタで表現されていた。

トーンの組み合わせも巧みだ。風格ある焦げ茶と白の色彩でまとめられていたミサゴだが、カメラが寄ると、カラフルな子供のおもちゃの組み合わせであることが判明する。派手な黄色のスクールバスや熱帯魚のおもちゃなど、意外にも明るい色合いが取り込まれている。

一方、背景は実写の森をベースに、カメラのレンズによるぼかし効果がかかったものだ。主題のミサゴがあまりにリアルに表現されているため、実物の森と違和感なく融合している。

カメラが再び正面へ回り込むと、それまで乱雑に積まれた廃品の山にしか見えなかった塊が、再び秩序あるミサゴの姿に。画角が特定のポイントまで戻ると、寸分の狂いもなく描かれた美しく威厳ある鳥が再び姿を現す。

観る角度によって出現する隠し要素も

米インサイダー誌は、デイニンガー氏による一連のアート作品を「3Dコラージュ作品」として紹介している。見る角度によって全く異なる印象を与える、と記事は述べている。同誌によると作品の中には、隠し要素が仕込まれたものも存在し、「注意深く観察した者だけが発見できる」仕掛けになっているという。

制作にあたり、コンピューターなどで3次元空間での配置を計画するかと思いきや、そうではないようだ。デイニンガー氏はインサイダー誌に対し、「手元にある素材を使いながら、完璧な物を探し続けます。(素材との)ダンスのようなものです」と語る。

始めに簡単なプランを練るものの、いざ取りかかると即興で組み上げて行くという。米ファッション・アート情報誌のジェジューン・マガジンに対し、デイニンガー氏はこのように語っている。

「しばらく制作を続けていると、人工物の中に生き物(鳥、魚、昆虫など)のパーツや片鱗が浮かんできます。あらゆる所に、くちばしや翼、羽、爪が見えてくる。一種の逆・生体模倣といえるかもしれません」

美しさの奥に込められたメッセージ

斬新な表現手法による作品は、米西海岸のアート・マイアミなど数々のギャラリーで展示されてきた。

デザイン・アート関連のニュースを伝える「クリエイティブ・ブロク」によると、環境問題への警鐘も込められているという。作品には、ゴミ捨て場で廃棄物をあさる鳥やプラスチックを食べる鳥の姿を題材にしたものもある。

デイニンガー氏は、過去にチャレンジした世界一周サーフィンの旅の途中、南太平洋の離島でプラスチックごみを目撃。これをきっかけに、環境問題に取り組むようになったという。

美しさ、立体的な仕掛け、その奥に込められたメッセージと、3段構えで鑑賞者の心を揺さぶるアート作品になっている。

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