「みんげい おくむら」店主・奥村忍がウェブを通じて共有する、民藝の面白さとは

  • 写真:吉田 塩
  • 文:猪飼尚司
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日々なにげなく使ったり、飾って楽しんだり。使い方はさまざまに、民藝は暮らしの中にある。国内外の民藝を幅広く紹介するウェブショップ「みんげい おくむら」の奥村忍に、お気に入りのアイテムや楽しみ方を聞いた。

2025年は、「民藝」という言葉が誕生して100年目となる記念の年だ。そしていまもなお、世代を超えて多くの人が民藝に魅了されている。いま私たちが日常の中で出合う民藝の姿とは? 日々の暮らしに寄り添ってくれる、その魅力にフォーカスしたい。

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元は美容室だったスペースを改装した事務所。オープンシェルフに並ぶ器は、時代、地域ともにバラバラだが、「いまいちばんのお気に入り」というのが共通ポイント。

国内外の民藝を幅広く紹介するウェブショップ「みんげい おくむら」の奥村忍。自宅から徒歩圏内にあるオフィスでは、友人を招いて頻繁に食事会を開催することから、大きなキッチンカウンターを設置。すぐ脇の使い勝手のいいステンレス製のオープンシェルフには、お気に入りの民藝の器がずらりと並んでいる。

「たくさんの工業製品に囲まれた都心のマンション暮らしでも、温もりを感じる手仕事は塩梅よくミックスしていけるものです。暮らしすべてを民藝にする必要はありません。その人のスタイルに合わせた付き合いができるはずです」 

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瀬戸本業窯の皿
左:江戸後期に瀬戸で誕生した「馬の目皿」は、庶民に親しまれてきた日用の器。どっしりと重みがあり、躍動感あふれる渦巻き模様を現代に受け継ぐ。 右:同じ瀬戸で江戸時代につくられたもの。現在このニュアンスを出すことは難しいと、奥村は語る。

器好きの母の影響で幼少期からさまざまな焼き物に触れてきた奥村だが、自ら民藝に興味を持ったのは、会社員時代に大阪へ赴任した時のこと。

「会社にあてがわれたのがマンスリーマンションで、すべてが備え付け。そこには自分の好きなものがひとつもありませんでした。少しでも心が休まりほっとするものを手元に置きたくて、週末が来るたびに、民藝店や作家の工房を訪ねるようになっていきました」

この体験が高じて、自ら民藝店を営むようになったという奥村。実店舗を持たず、オンライン限定で販売し続けるには、明確な理由が存在する。

「同世代の人は民藝店にあまり足を運ばない。いまの時代、ウェブの力を借りれば、より広く人と交流し、民藝の魅力を伝えることもできる。そう思いながらウェブだけで活動しています」

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アジア諸国の茶道具
銅製のやかんは、四川省でカジュアルにお茶を楽しむ喫茶施設「茶館」で使われていたもの。細い注ぎ口が特徴的。茶則は中国の骨董で、茶器は丹波窯の平山元康。片口の白い茶海は小鹿田焼の坂本創。4つ並んだ茶杯は中国・景徳鎮、石の建水と茶器の下の石皿はインドから。

一方で、つくり手のもとを直接訪ね、その暮らしぶりに触れながら、出来上がるものを自分の目で確認することは、オープン当時からの決まりごとにしている。

「ワインのテロワールのように、 本来は土地の素材、暮らしぶりの違いが、地域ごとの特徴を持つものづくりとなる。暮らしが均質化した日本のいまでも、そんな『土地を表現する美しいもの』があることを僕は伝えたいんです」

民藝運動が始まった100年前と社会背景は大きく異なり、生活者のみならず、つくり手の暮らしも大きく変化した。民藝も大きく注目される存在となり、作家の動向はSNSを通じていち早く検索・拡散される時代。柳宗悦らが見た民藝と現代の民藝とは確かに違うものかもしれないと奥村は感じている。

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松田共司のうつわ(読谷山焼北窯)
右、左:大嶺實清(おおみねじっせい)に師事した後、沖縄の読谷北窯を開いた松田共司。双子の兄、米司ほか4名の親方と共同で窯を運営する一方で、個人としての作陶も積極的に行い、その腕の確かさと意志に心を動かされると話す。奥村は現在、松田共司の作陶集を編纂中。2025年には刊行される予定だ。

そんな時、あるきっかけから訪れ始めた中国内陸部で、日本のひと時代前のような暮らしから生まれている民藝の精神を纏った、圧倒的に美しい布や器と出合ったという。

「想像を絶する広さの国土を持つ中国は、地域格差がいまだに色濃い。沿岸部の都市が驚異的な発展を遂げる一方で、内陸部にはのどかな暮らしの風景と素朴なものづくりがわずかながら残っています。産業の発展と暮らしの変化を止めることはできませんが、素朴な暮らしが残る辺境エリアなら、その日常を支える実直な道具がまだつくられているだろうと信じて訪ね歩いています」

中にはつくり手の思惑どおりにできなかったものや市場では売りにくいものにも巡り合う。

「困っている時はお互いさま。生まれてきたものをポジティブに捉え、多くには受け入れられなくとも、必ず好きな人がいるはずという姿勢で提案していきたい」

店を始めてから今年で15年。忙しく世界を駆け回りながら、仕事を続けていられるエネルギーの源は、「民藝が好き」という気持ちにほかならないと奥村は語る。

「経験を重ねるほどに好きなものも増えて、気持ちを共有したくなる。『これは面白い!』と思うものを紹介した時に、お客さんから反応がもらえるだけでも嬉しくなっちゃうんですよね」 

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奥村 忍
みんげい おくむら店主


1980年、千葉県生まれ。慶應義塾大学卒業後、商社で輸入業務、メーカーでバイヤーを経験。2010年に独立し、ウェブショップ「みんげい おくむら」をオープンする。ていねいな現代の手仕事、素朴な暮らしの道具を探し求め、国内外のものづくりの現場を訪ねている。

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