デザイン産業に注力するシンガポール、その特徴とは?【シンガポールデザインの現在地 01】

  • 文:猪飼尚司
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経済発展とともにアジアのデザインが急速に進化している。中でもシンガポールは、国を挙げてデザイン産業に力を入れている国のひとつだ。 

Neufolk - Mooncycle by Playpoint Singapore. Photo by AlvieAlive.jpg

シンガポールデザインウィークのイベント「Neuflok」での展示風景より。遊園地やランドスケープのコンサルタントを行うPlaypointが提案する「Mooncycle」は、スイングベンチに座って揺らすことで、肘掛けに置いたスマートフォンがチャージできるというもの。 ©AliveAlive

今回、今秋に開催された「シンガポールデザインウィーク 2024」にフォーカス。本記事ではまず、シンガポールデザインの発展の背景や、その特徴について論じてみたい。

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アジアのデザイン大国、シンガポール

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1936年竣工のショップハウスに新棟を追加したホテル「21 Carpenter」は、シンガポールでもっとも注目される建築集団、WOHAの最新作。東西の文字文化の融合と独特な気候を鑑み、縦横方向に穴を開けたパンチングメタルで外側を覆った。 ©Darren Soh

来年でちょうど建国60年を迎えるシンガポールは、国⼟720平方キロメートルと、ほぼ東京23区と変わらない⼤きさ。歴史も⼟地もないマレー半島南端の⼩国ながら、国際ビジネスのハブとしてなくてはならない存在に位置づけられ、アジアで最も将来性があると噂されている国だ。

急成⻑した理由は、東南アジアのちょうど中央に位置するという地理的利点を活かした貿易産業で⼒をつけ、その後も政府主導の徹底した経済政策と法整備によって、時代のニーズに応じてビジネスのしやすい環境をつくり上げたことが⼤きい。

そのため貿易や⾦融、サービスに加え、情報通信や医薬品、精密機器といった先端技術も成⻑。そしてここ数年にわたり、政府がもっとも⼒を⼊れているのがデザイン産業だ。

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1969年にジェームズ·W.フェリーが手がけ高校を大々的にリノベーション。オリジナルの趣を残しつつ、シンガポールのトップブティックやファインダイニングが入る現代的な複合商業施設に生まれ変わった「New Barhu」は2024年に完成した話題のスポット。 ©Finbarr Fallon

デザイン推進のための国家機関、Design Singapore Council(DSC)が軸となり、基礎教育にデザインプログラムを取り⼊れ、⼀般企業や公共機関に対してデザインの理解を促し、実践するためのプロモーションを展開。ローカルブランドを活性化し、デザイン企業やデザイナーの仕事⼒を強化する⽀援事業も⾏っている。

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シンガポールデザインの特徴とは?

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次第に存在感を⽰しつつあるシンガポールデザインの現在地は、秋に開催されるシンガポールデザインウィークで確認できる。今年開催された「シンガポールデザインウイーク2024」には、700組以上のデザイナーが参加。国⽴博物館やプラナカン博物館ほか、数々の芸術⼤学が建ち並ぶ⽂化地区「ブラス・バザー・ブギス」。マーライオンやマリーナ・ベイ・サンズなど⼈気スポットが集まるベイエリア「マリーナ」。世界的ブランドのブティックやデパート、ショッピングセンターなど、ファッションとショッピングの中⼼地「オーチャード」など、街全体が会場となって80以上のイベントを開催。のべ20万⼈が国内外より来場した。

Visitors At the Key Events In the Three Design Districts of Bras Basah.Bugis, Marina, and Orchard. Photos by AlvieAlive. (1).png

 

Official Opening of Singapore Design Week 2024 at the National Design Centre. Photo by AlvieAlive.jpg
「シンガポールデザインウィーク2024」の会場風景。

では、シンガポールデザインの特徴とはなんだろう? 複数の⺠族と⽂化が複雑に⼊り混じり社会を形成されている国家のため、国を代表するようなものづくりはこれだと限定するのは難しい。伝統と歴史に裏付けられる⼿仕事の技、各地の気候や⾵⼟が⽣きる豊かな地域性がデザイン思想と強く結びつく⽇本⼈の感覚からすると、少し⼼許なくも感じる。

しかし、現地のデザイナーたちの意識はとても⾃由で、先⾒的な感覚に満ちている。外国籍が4割を占め、中華系、マレー系、インド系などが混じり合う多⺠族社会のなかでは、厳格な様式や慣習の制限を受けることが少なく、⽣まれながらにして多様性を持ち合わせている。さらに英語が公⽤語のひとつであり、学校教育もほぼすべての授業を英語で⾏なっていることも⼿伝って、リアルな国際的感覚が⾝についている。

Para-Stool-by-Christian+Jade.-Photo-by-Mark-Cocksedge.jpg

同じところから生まれるのに組み合わされることのなかった、ゴム樹脂とゴムの木を用いた椅子「Para Stool」。Christian +Jadeの作品。  ©Mark Cocksedge

Parasitic Vessel 1 by Ivan Ho (Singapore). Photo courtesy of Ivan Ho.jpg
廃棄物から魅力的なオブジェをつくり、その間に存在する感覚の違いを探るシンガポールのIvan Hoの作品「Parasitic Vessel 1」。 ©Ivan Ho

新しい形や技術、スタイルがフォーカスされがちだが、シンガポールの気になるデザイナーたちは、より⼈の感覚や記憶、意識を丁寧に拾い上げ、新たな視点で捉え直し、再び⼈のもとに良きかたちでフィードバックしようとしている。

今年のデザインウィークがテーマを「People of Design」と謳ったことにも、デザインは単なるトレンドではなく、世の中のすべての仕組みであり、⼈が考え、つくり、伝え、存在し続けるものであることを考えさせてくれる。 

次回の記事では、今回の「シンガポールデザインウイーク2024」で見つけた注目のデザイナーを紹介したい。

SINGAPORE DESIGN WEEK

https://sdw.designsingapore.org