消費者の9割がAI生成画像を受け入れ難い? 金融サービス業界ならではのビジュアルコミュニケーション【後編】

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    1469952055,shih-weiGettyImages

    前半では、金融サービス業界におけるビジュアルトレンドを考察してきました。堅苦しい印象が強いかもしれない金融サービス業界においても、サステナビリティやDE&Iといったビジュアルトレンドを反映したビジュアル選択が行われているようです。後半では、「生成AI画像」に対する消費者意識調査を踏まえながら、金融サービス業界で消費者の共感を得られるビジュアル選択のポイントについて解説します。

    金融サービス業界では、生成AI画像が受け入れられていない?

    金融ブランドではさまざまな社会的トレンドが重視されている一方で、実際のビジュアルコミュニケーションという点を見ると、人間がカメラで撮影した「本物」のビジュアルが使用されることが好まれていることがわかりました。

    消費者のビジュアルに関する意識調査「VisualGPS」によると、金融サービス業界において、「生成AI画像を受け入れる」と回答した日本の消費者は9%(世界では15%)にとどまりました。金融サービス業界や製薬業界のような「より真剣さが求められる」業界では、AIの利用に対して慎重であるべきとされる傾向が強く、特にAIへの信頼がもともと低い人々の間ではその傾向が顕著です。一方で、旅行業界のような「より理想的・夢のある」業界では、AIに対する懸念が比較的少ない傾向にあります。

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    1795402710,Fly View Productions,iStock

    AIロボットより、人間のアドバイザーを信頼する

    興味深いことに、金融サービス業界においては人間同士のコミュニケーションに信頼をおいていることもわかりました。VisualGPSによると、日本の消費者の7割以上が、「AIを活用したアドバイザー(ロボアドバイザーなど)よりも人間のファイナンシャルアドバイザーを信頼する」と回答しています。実店舗を持つ金融機関に対してより信頼性が高い可能性があることがわかりました。

    消費者の信頼を得ることは、金融サービス業界にとって特に重要です。「商品やサービスを購入するかどうかを決定する際に最も重要なことが『信頼性』である」と答えているのが、世界全体では6割であるのに対して、日本では8割に上っています。消費者がそのブランドの商品・サービスを購入したいと考えるのは、信頼できる評判を持ち、アクセスしやすく、人対人のカスタマーサービスを提供する企業です。

    特に日本では、「信頼できる評判を持っていること」や「自分の価値観や信念と一致していること」が、他の国々と比べても重要視されています。このような背景から、日本の消費者にとっては、真正性や人間同士のつながりを強調したビジュアルが今後も重要であり続けるでしょう。

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    1178270193,Yoshiyoshi Hirokawa,GettyImages

    消費者からの信頼を得られるビジュアルとは

    AIなどのテクノロジーは金融サービス業界でも取り入れている一方、人間同士のコミュニケーションにより信頼性をおいていることがわかりました。では、ビジュアルコミュニケーションとして、日本の消費者から信頼を得られるビジュアルをどう選べばいいのでしょうか。日本では、“本物”の画像や動画が信頼を築く上で重要だという意見が大多数です。日常的で親しみやすい人々や、瞬間を見せるリアルで未加工のビジュアルに加え、製品やサービスが生活にどのように溶け込むのかを示すことで、購買意欲を刺激します。

    (1)リアルな人間の温かみを、そのままの不完全さで表現しましょう
    人々は、不完全さや人間生活の微妙なニュアンスを価値あるものと捉えています。それはAIでは簡単に再現できないものです。より個性的な人間体験の物語を表現し、人間の多様性や不完全さを祝福しましょう。

    (2)驚きのある物語を伝えましょう
    最も印象に残るビジュアルは、見た人が共感を得るものです。最も記憶に残る方法はストーリーテリングを通じた繋がりを生むことなので、「まだ見たことのない物語や予想外のストーリーをどのように見せられるか」を考えてみてください。例えば、男性は一般的に「お金を管理する役割」として描かれ、女性は「買い物を通じてお金を使う役割」として描かれることが多いという固定観念を打ち破りましょう。最新のVisualGPS調査結果によれば、日本の女性の68%が家庭の銀行業務、投資、住宅ローン、または保険に主に責任を持つか、責任を共有していると答えています。こうした現実的で、あまり見られないビジュアルストーリーを示しましょう。

    (3)インクルーシブな表現を構築しましょう
    どのような物語を語るかについて具体性を持つことが力になります。本物で立体的に感じられる人々を描いたビジュアルを選びましょう。iStockでダウンロードされたビジュアルの傾向を見ると、日本では障害を持つ人やLGBTQ+コミュニティの人々を描いたビジュアルは1%未満であり、60歳以上の人々が財務を管理したりお金を使ったりしている姿を描いたビジュアルは5%未満です。こうした人々のリアルな生活を描くことで、より多くの人々が自分のような共感を持てるビジュアルを見つけられるようになります。

    (4)プロフェッショナルな撮影を通じて信頼を築きましょう
    アーティストやフォトグラファーなどプロフェッショナルによって制作された画像には、本物らしさへの信頼が生まれます。つまり、ビジュアルのつくり込みが重要であり、それが信頼性を高めます。

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    1363806965,thianchai sitthikongsak,GettyImages

    永井有紗

    iStock/Getty Images シニア コンテンツ スペシャリスト

    10代からコンセプチュアル・アートと写真に強い興味を持ち、個人で写真家とコラボレーションをして作品を制作する。大学時代にiStockの撮影にモデルとして参加したことをきっかけに、2021年にゲッティイメージズに入社。以来、ゲッティでAPAC全域の才能あるクリエイターとのコラボレーションやコンテンツの制作に携わり、特にストーリー性のあるリアルな作品づくりを行なう。23年からは子を持つ親として、いままでとは全く違う世界の視野を勉強しながら作品制作に取り入れている。

    永井有紗

    iStock/Getty Images シニア コンテンツ スペシャリスト

    10代からコンセプチュアル・アートと写真に強い興味を持ち、個人で写真家とコラボレーションをして作品を制作する。大学時代にiStockの撮影にモデルとして参加したことをきっかけに、2021年にゲッティイメージズに入社。以来、ゲッティでAPAC全域の才能あるクリエイターとのコラボレーションやコンテンツの制作に携わり、特にストーリー性のあるリアルな作品づくりを行なう。23年からは子を持つ親として、いままでとは全く違う世界の視野を勉強しながら作品制作に取り入れている。