時計ブランドのCEOたちは、いまどのモデルを推すのか? 自身のブランドのアイデンティティを表象する1本について語ってもらった。
Pen 2024年12月号の第1特集は『100人が語る、100の腕時計』。腕時計は人生を映す鏡である。そして腕時計ほど持ち主の想いが、魂が宿るものはない。そんな“特別な一本”について、ビジネスの成功者や第一線で活躍するクリエイターに語ってもらうとともに、目利きに“推しの一本”を挙げてもらった。腕時計の多様性を愉しみ、自分だけの一本を見つけてほしい。
1.ロンジン/CEO マティアス・ブレシャン
過去といまの架け橋となる、伝説的ダイバーズ
ロンジンのマティアス・ブレシャンCEOが挙げた「ロンジン レジェンドダイバー」は、今年で誕生から65周年を迎えた。「これは単なる腕時計ではありません」とブレシャンは語る。
「豊かな歴史を体現しながら現代のユーザーの期待に応える、過去といまの架け橋となる存在です。私たちは1938年に防水機能付きプッシュボタンを備えたクロノグラフの特許を取得し、58年にはブランド初のダイバーズウォッチを発表しました。さらにその翌年に、インナー回転式ベゼルとふたつのねじ込み式リューズを備えた画期的なスーパーコンプレッサーケースを導入した、初代のレジェンドダイバーのアイコニックなデザインが誕生したのです」
先人が築いたレガシーに敬意を表しつつ、それを現在に受け入れ、未来へと進化を続ける。
「現行モデルは初代の精神を忠実に受け継ぎながら、シリコン製ヒゲゼンマイや非磁性素材を導入し、COSC認定のクロノメーターを取得するほどの精度を誇るなど、現代の技術革新でそのクオリティに磨きをかけています」
水中探検用に専用設計された本格的な機能やデザインは、いまやダイバーや冒険家、時計愛好家たちに支持されるだけでない。新作では、従来の36㎜と42㎜というケースサイズに39㎜という新たな選択肢が加わった。さらに、時代の感性を取り入れたスタイリッシュなグリーン文字盤をはじめ、豊富なカラーバリエーションを追加。こうしたデイリーユースに応える幅の広さが、より多くのファンの共感を得るのである。
「私にとってロンジンがつくる腕時計は単なるアクセサリーではなく、レガシーであり、ストーリーや思い出とともに受け継がれていくものです。私の目標は、すべてのロンジンの時計が性能と精度だけでなく、感動的な体験を提供できるようにすることです。ユーザーには、自分らしさを反映した腕時計を選んだという誇りと自信を感じてほしいのです」
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2. ハミルトン/CEO ヴィヴィアン・シュタウファー
時計づくりの創造性を広げる、映画との出合い
ハミルトンは、映画産業との結びつきも深い。ヴィヴィアン・シュタウファーCEOが挙げた一本は、映画『インターステラー』のために製作された時計を再現した「カーキ フィールド マーフ 42㎜」だ。
「映画のストーリーを紡いでいく非常に重要な役割を担っているという意味で、気に入っています。また、ブランドを象徴する“ アドベンチャー” と“ エモーション” というふたつの要素が入っていることもふさわしいと思いました」
映画との協業は、オリジナルモデルの製作、現行モデルからの選択、所蔵するヴィンテージの提供という3つの方法で対応する。だが、いずれも映画制作側に費用を払って商品を登場させる「プロダクトプレイスメント」ではない。
「私たちが参画するのは、時計が映画にリアリティをもたらすものでありたいから。そして映画という夢を具現化するクリエイティビティは、私たちの時計づくりにもいいフィードバックがあります。ハミルトンはこうだ、という枠組みから解き放ってくれるのです」
顧客の声を大事にするのもハミルトンらしさだろう。
「マーフはファンの強い要望から生まれました。私たちは、いつも多くのお客様に励まされながら時計づくりに励んでいます」
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3. オリス/CEO ロルフ・スチューダー
独立系ならではの先端テクノロジー
独立系ブランドとしてオリジナリティの高い時計づくりを貫くオリスは先端テクノロジーを用いた独創性の高いモデルも近年注目される。ロルフ・スチューダーCEOが挙げた「プロパイロットX キャリバー400 レーザー 」もそんな一本だ。
「スイス連邦工科大学ETHチューリヒ校と共同開発したレーザー処理によって、純粋なチタン製の文字盤に、色素をまったく使わず反射のみによって色彩が生まれる効果を実現しました。これは時計業界初の技術です」
蝶の羽や玉虫の色から発想を得た生物模倣を原理に、自然界の美しさを再現した唯一無二の一本だ。こうしたテクノロジーに注目する理由についてこう語る。
「オリスは120年にわたる時計づくりの歴史があり、そこで培われた価値観に沿いつつ、現代を生きる人々のニーズに応えなければなりません。そのためにはテクノロジー然り、現在のカルチャーにも関心を向け、新しいものを生み出していかなければなりません。我々は独立系ブランドであるからこそ、進路を自由に決めることができ、会社や製品、従業員の未来のために長期目線で投資できます。一方で、ブランドを後世のためによりよく、強くしていくという大きな責任も伴うのです」
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4. ティソ/CEO シルヴァン・ドラ
時代の感性と技術革新で、日常に高品質を
ティソは、長い歴史において多彩な技術やデザインを発表し、日常に寄り添うスイス時計を提示し続ける。そのブランドアイデンティティの象徴としてCEOのシルヴァン・ドラが挙げたのが、「ティソ PRX パワーマティック 80」だ。
「1978年のアーカイブをベースに、現代の時計製造のノウハウを注ぎ、着け心地にもこだわりました。2021年のクオーツモデル発表以降、機械式、クロノグラフ、小径モデルなど、要望に応え、コレクションを拡充しています」
文字盤に新しく採用したグラデーションカラーはブラックからメタリックブルーへと変化するユニークな色合いだ。
「創業時からの“Innovators by Tradition”(伝統に根ざし、伝統を打ち破るイノベーター)という哲学を象徴する一本です。先進的な技術開発と熟練した職人技を追求する一方、求めやすい価格帯を両立し、最高品質の腕時計を世界に普及させたいと思います」
さまざまなスポーツの公式計時を果たすティソは、今年から日本のバスケットボール界を代表する河村勇輝選手をサポート。
「彼の真摯な姿勢や強い意志に共感しました。さらなる活躍とともに、ティソを多くのお客様に知っていただきたいですね」
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