ニートのパンツオーダーから古着、ショールームまで、丸ごと一棟「にしのや」大潜入!【着る/知る Vol.188】

  • 写真・文:一史
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右 にしのや代表でニートの創設デザイナーの西野大士。左 ニートハウスのショップスタッフ、北條雄大。ともにニートのパンツを着用。北條さんのパンツはシルク生地でイタリアのカルーゾが仕立てた特別モデル。

写真右の西野大士の服装は、上半身が古着でパンツは新品のニートのもの。レザーシューズはイギリス最高峰のエドワード・グリーンだ。白ソックスは西野さん流の足元の定番。
カジュアルな古着を着るなら、パンツは仕立ての美しいものを。ニートのデザイナーであり、PR業務も行う会社「にしのや」代表でもある西野さんのファッション観には確かなスタイルがある。それは日本の大人男性を洒落させる着こなしの秘訣。
「ボロボロのTシャツやサンダル姿でも、パンツを上品にすれば見栄えがよくなります。パンツはそれほど重要なアイテムなのです」
その彼が2024年11月末に東京・千駄ヶ谷のビルを丸々一棟使い、オフィスと店を兼ねた新拠点をつくった。様々なブランドのショールームも同居する「東京大人スタイル」の発信基地。西野さんとスタッフたちの気取らない人柄にも惹かれて集まるファッション関係者と一般客とが交差する、地下1階から4階までのユニークな建物の全貌をお届けしよう。

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新設したセミオーダー専用サロン

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ニートハウス地下1階がオーダー専用サロン。当面は予約不要で、客は好きなタイミングでオーダーを検討できる。

「ようやくオーダーの専用部屋をつくることができました」
そう語る西野さんが最初にオープンさせた東京・神宮前の店は、スペースの都合上で既製品販売とオーダーサロンとが同一フロアにあった。西野さんが抱えていたモヤモヤした思いが今回の移転で解消されたようだ。
ニートのパンツが好きな人は、既製品を購入する層とオーダーする層とにわかれるらしい。新「ニートハウス」は1階が既製品販売で、地下がオーダーサロン。階段で2フロアを簡単に行き来できる。オーダーだけを目的にする人は落ち着ける専用部屋が嬉しいだろう。

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オーダー用に揃えた個性的な生地の一部。「この生地で太いパンツにしたらどうなる?ワークパンツなら?」といった仕上がりをイメージする過程が楽しい。
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固く分厚いデニム生地でオーダーできるのがニートの強みのひとつ。縫製工場での扱いが難しく、対応するテーラーショップは少ない。

既製品のニートに約1万円ほど足された43,000円からオーダーできるリーズナブルさもこのサロンの強み。セミオーダーシステムで、ベースになる型は現在11型。ペインターやカーゴショーツなどのワークタイプにも対応する。ウエストサイズは細かくわけた14サイズ展開で、既製品が合わない体型の人にも好評だ。仕上がりは40日前後が目安で、制作期間が短いのもメリットだ。
さらに西野さんの発想が活きているのが、個性的な生地が充実していること。モードなイメージも軍モノふうも思いのままだ。
「オフィスが同じビル内にあるのがサロンの運営に役立っています。お客様のなかには『数年前のパンツを愛用している。セットアップで着たいから同生地でジャケットをつくれないか』といったご要望の方もいらっしゃいます。生地の在庫を自分がオフィスにいるときならすぐ調べてお答えできるようになりました。店と連動した体制が整ってきています」

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ニートには本格的なお台場仕立てのジャケットもあり、セミオーダー価格は85,000円から。肩パッドをなくすなどの細かなリクエストにも対応。

値ごろな価格も含め「直営店だからこそできる」と西野さん。
「オーダーパンツもニートと同じ日本の一流工場で仕立てていただいています。実はその工場はコロナ禍で仕事が激減したときも、ニートが発注を続けたことに恩を感じていただいているそうです。デニムのようにミシン針の調整がたいへんな生地でも縫ってくれたり、特別価格で仕事していただけるのも、約10年間ニートを続けて信頼関係を築けたからこその成果と考えています」

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ニートのパンツは太いテーラード仕立て

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ニートハウス店長の石崎 威が手に持つのはニートの既製品。スニーカーも似合うドレスパンツ。¥39,600

ニートのパンツの基本形は、ウエストにタックが入り全体の幅が太いワイドタイプ。型により形は様々だが、最初に購入するニートならアイコニックな太めが最良かもしれない。店の1階フロアで既製品を扱い、店長の石崎 威が厳選した推しのパンツを並べている。
イギリスふうにトラウザーズと呼びたくなるクラシックな仕立てがニートの標準。うるさ方も満足する高級な構造とディテールを採用している。その一方で生地には遊び心がたっぷり。伝統のテーラリングの世界にただ従うのでなく、反骨心のあるオリジナルにするのが西野さんのやり方だ。その絶妙なさじ加減がモード好きをも魅了する大きな理由に違いない。

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古典的なボタンフロント、前を安定させる天狗パーツ、ウエスト内側を覆うロゴ入りマーベルトといった本格ディテールを備える。
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腰回りにゆとりのある左右2本ずつのインタックパンツ。アウトタックよりも上品に見える。中央のループは、ベルトのバックル美錠を差し込み中央位置に固定させるパーツ。

西野さんがパンツブランドをつくったきっかけは何なのだろうか?
「PR担当者として勤めていたブルックスブラザースを退社した14年頃に、自分が穿きたいパンツがほしくて考案しました。フリーランスでファッションブランドのPR業務をやっていたときです。初期の発想は好きなニューバランスのスニーカーやビルケンシュトックのサンダルに合うパンツでした。自転車に乗るライフスタイルに合うこともテーマのひとつ。当時はこうした動きやすくカッコいいパンツが市場になかったんです。そこで自分がデザインしてつくっていくことに」
カジュアル古着の格上げに使いやすいドレッシー&モダンな太いパンツ。ゆったりしたパンツは、脚が短く頭の大きな標準体型の日本男性によく似合う。ルーズな服装の流行とも合致して、「こんなパンツがほしかった!」と服好きに認知されていった。

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上階のショールームとオフィス

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オフィス上階に上がる階段の踊り場。スニーカーを花瓶としてつくり直すブランドのSHOETREEを活用した空間づくり。
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3階ショールーム。日本ブランドのヘリル、ウティから、イタリアのレザーブランドのチンクワンタまで約30ブランドを取り扱う。

新拠点のビルの2、3階はショールーム「にしのや」。多様なブランドのPRを請け負っている。シーズンを先取りするサンプル服をスタイリストに貸し出したり、商談や展示会の場にも活用。商品化される前のニートの最新コレクションもここに並ぶ。移転前のワンフロアから2フロアへと拡大して、よりゆったりと服を見せられるようになった。
ファッション周辺の人たちで賑わうショールームの存在は、ニートの知名度を上げるのにも大いに役立っただろう。つくり手の顔が見える服には思い入れが深くなる。この場で西野さんの楽しい話を聞きながら手に取り、「ニートを穿きたい、ニートを人に紹介したい」そんなファンが増えていったに違いない。

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最上階となる4階の仕事場にて。生地見本を貼り付けた右の壁は、26年春夏のニートを構想しているボード。

きれいな太陽光が差し込む、真っ白な天井部屋が西野さんのメインの仕事場。とはいえ全国でポップアップショップを開催したり、古着の買付けも多い彼らの部屋は荷物でごったがえしている。ニートのデザインボードもありクリエイション好きならワクワクする空間だが、「荷物搬入も発送も自分たちでやりますので、引っ越した直後ですしぜんぜん整理できてないんです。お見せするのが恥ずかしいですね」と照れくさそうだ。
年2回開催している古着販売イベントのときに限り、一般客もショールームフロアに行ける機会がある(古着ショップに姿を変える)。にしのやのビル空間を体感したい人は、このタイミングを狙ってはいかがだろうか。

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ニートハウス、パンツに合うセレクト古着

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神宮前から千駄ヶ谷に移転オープンしたニートハウス。この土地で働くアパレル関係者や近隣に住む人たちの往来が多い通り沿い。
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24年12月現在、店に並んでいるアウターとシャツ。西野さんらしいアメカジやトラッドが品揃えのベース。

歩行者が多い道路に面したニートハウスの1階は、古着とニートの販売フロア。 古着をより目立たせるディスプレイがユニークだ。古着をこよなく愛する西野さんらしい店構えで、品揃えのテーマは以下の通り。
「古着セレクトの基準は、『ニートに合う古着』です。自分で買い付けたものや元私物も一部ありますが、多くは古着ディーラーを通じて購入した品になります。まず僕がよいと思ったものを仕入れ、そのあとに店長の石崎がさらにセレクトしていきます。お客様にお届けする服ですから接客するスタッフの意見も大切と思い、2重の目線で選んでいます」

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アウターやテーラードジャケットからチラ見せするのに便利なポップな服もずらりと。新品のソックス類などのグッズも販売中。
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古着のなかには西野さんの私物だったものも。その私物も最初からの古着や新品購入品など様々。

ニートも古着と同様に、ここに合うものに絞って展開されている。全ラインナップを眺めたい人は、東京・有楽町の「阪急メンズ東京」6Fのニート売り場に行こう。全コレクションの取り扱いをコンセプトにした店で一見の価値ありだ。

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少数先鋭の、チームにしのや

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住宅地が多い街のムードと自然に溶け込むニートハウス。千駄ヶ谷の近隣住民も顔を覗かせる店になりつつある。
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にしのやビルのレギュラースタッフたち。前段右 北條雄大、左 カン ボンウォン、後段右 大出弥寿久、中央 西野大士、左 石崎 威。

「お洒落=気取ること」でないライフスタイルを地で行く西野さん&にしのやスタッフたち。扱う古着もカジュアルなら、彼らの人柄もカジュアル。ショールームは服を借りるスタイリストが困ったときの駆け込み寺であり、ファッションメディアは行くたびに新しい発見を持ち帰れる情報収集の場でもある。
電車なら千駄ヶ谷駅をはじめ、北参道駅や代々木駅からも徒歩圏内だ。店では世界に1本だけのニートをオーダーでき、厳選された既製品も手にできる。個性豊かな古着を見るだけでもワクワクしてしまう。ネット全盛の時代に実店舗に行く楽しさを教えてくれるニートハウス&にしのや。東京メンズシーンに“居心地いい場所”を提供する、なくてはならない存在だ。

ニートハウス

東京都渋谷区千駄ヶ谷1-6-11
営業:11時〜19時(平日)、12時〜19時(土日祝)
TEL:090-3335-2110
MAIL:info@neathouse.store

ニートハウス
https://neathouse.store/
にしのや
https://nishinoya-pr.com/

 

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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