アール・デコの空間と鉄とガラスが時を超えて響き合う。『そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠』が開催中!

  • 文&写真:はろるど
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1933年に朝香宮家の自邸として建てられ、アール・デコ様式の建物で知られる東京都庭園美術館。現在、開催中の『そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠』では、主に鉄とガラスを素材とする青木野枝と三嶋りつ惠の2人のアーティストが、光に着想を得て制作したさまざまな作品を公開している。

鉄を素材とする青木野枝とガラスを用いる三嶋りつ惠。その制作と魅力とは?

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青木野枝『ふりそそぐもの/朝香宮邸ーII』2024年(本館1階大食堂)/円形や球体が主要な構成要素である青木の作品。この作品ではリング状の形をたくさん連結させたりして面を作り、大きな球体へと展開させている。なお照明はパイナップルやザクロをあしらったルネ・ラリックの手によるもの。

活動初期より一貫して、鉄を素材に抽象的な彫刻を製作してきた青木。工業用の鉄板を溶断して円や線のパーツを切り出し、それらを巧みに繋ぎ合わせる作品は、鉄という重厚な素材でありながらも、軽やかな浮遊感を放ち、時に雲や植物、細胞などを連想させるようなかたちを作り出している。また鉄を接合することで生まれる繋ぎ目や線からは、生命や自然のつながりを思わせるのも魅力だ。一方でヴェネツィア・ムラーノ島の工房にて、ヴェネチアン・グラスのガラス職人とのコラボレーションによって制作を続ける三嶋は、無色透明なガラスによって、光の輪郭を描き出す有機的なフォルムの作品で知られている。ガラスという固体の素材に、流動性や生命感が感じられるのも特徴といえる。

アール・デコ様式の室内空間と作品が織りなすハーモニー

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三嶋りつ惠『光の海』2024年(本館1階大広間)/三嶋の作品は置かれる空間に応じてさまざまな表情を見せる。1点のみで展示されることもあれば、今回のように複数の作品を組み合わせて集合的に並べることも多い。

アンリ・ラパンが内装設計を担当し、宮廷時代にはダンスパーティーが開かれていた本館1階の大広間を飾っているのは…?それが三嶋の『光の海』と題したガラスのインスタレーションだ。ここで三嶋は天井の格子状のフレームに配された40個の電球照明に着目すると、約40点にも及ぶさまざまな形状のガラス作品を並べている。白い光に煌めくガラスを目にしていると、かつてのパーティーの賑わいが目に浮かんでくるかのよう。そして大広間に隣接し、窓から庭園の景色も望める大客室では、青木が半球型の『ふりそそぐもの/朝香宮邸ーI』を展示。ルネ・ラリックのシャンデリアやマックス・アングランによるエッチング・ガラス扉といった、アール・デコ様式の装飾と見事に調和している。

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「植物」をテーマにした作品も! ウィンターガーデンも公開中

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三嶋りつ惠『光の場』2019年(本館2階広間)/宮廷時代にはピアノが置かれ、家族のくつろぎの場であった広間。一つ一つのガラスの粒が輝石のように瞬いて、まるで光のシャワーのようだ。

 

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青木野枝『ふりそそぐもの/朝香宮邸ーⅢ』2024年(本館2階若宮寝室) 青木野枝は鉄に向き合うと、鉄を溶断する時にあらわれる内部の「透明な光」から多様なインスピレーションを得て制作を続けている。窓から差し込む自然光が赤い色ガラスを照らしてきらきらと輝く。

かつて家族のプライベートスペースだった本館の2階へ。幾何学花模様の照明柱が美しい階段上の広間では、三嶋が2万2千個も連なる小さなガラスビーズを吊るした『光の場』を見せていて、ソファに腰掛けながら光の粒が辺りを照らし出す様子を楽しめる。これに続く二面彩光の明るい空間が特徴な若宮寝室では、青木が鉄とガラス、銅線を用いた『ふりそそぐもの/朝香宮邸ーⅢ』を展示。張り出し窓や宮内省内匠寮技手によるユニークな照明と呼応しつつ、室内空間へ木々が林立するかのような光景を生み出している。このほか本館では展覧会によっては閉じられることの多い、3階のウインターガーデンも特別に公開中だ。太陽の明かりが燦々と降り注ぎ、黒と白の市松模様が広がる空間に、青木と三嶋の「植物」をテーマとした作品が新たな生命の息吹を誘っている。

ホワイトキューブから庭園へ。さまざまな光との出合い

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青木野枝『ふりそそぐものー赤』2024年(新館ギャラリー1) 鉄と組み合わせて石鹸、卵などの素材も用いる青木。近年は切り抜いた鉄の中にステンドグラスに使われる色ガラスをはめ込んだ大型のインスタレーションも制作している。

本館の重厚な佇まいとは一転し、鮮やかなホワイトキューブの広がる新館ギャラリー1では、青木が空間全体を用いた本展最大のインスタレーション『ふりそそぐものー赤』を公開。さらに庭園でも三嶋の朝露のような『RUGIADA』が樹木の中へ隠れるように吊るされ、ガラスの中に屋外の風景を写り込ませている。「鉄は透明な金属 そしていつも内部に透明な光をもっている」(青木)と言い、「私のガラスは無色透明です そして周りの光や色をとらえて解き放つのです」(三嶋)とする2人のアーティスト。歴史的な装飾空間を舞台に、鉄とガラスが時を超えて響き合う『そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠』にて、さまざまな光との出合いを果たしながら、生きていることの喜びを感じたい。

『そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠』

開催場所:東京都庭園美術館 本館+新館 
●東京都港区白金台5–21–9
開催期間:開催中〜2025年2月16日(日) 
https://www.teien-art-museum.ne.jp/