深層心理を呼び覚ます、日本初公開のインスタレーションは必見! エスパス ルイ·ヴィトン大阪でウラ・フォン・ブランデンブルクの個展が開催中

  • 文:Pen編集部
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ざわざわと心の奥底がくすぐられる──。インスタレーションから映像、水彩画、壁画、コラージュ、パフォーマンスまでさまざまなメディアや表現方法を介して、無意識下の深層心理を呼び覚ます稀有なアーティスト、ウラ・フォン・ブランデンブルクの個展が、エスパス ルイ·ヴィトン大阪で5月11日まで開催中だ。

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『CHORSPIEL』(2010年) Courtesy of the artist and Fondation Louis Vuitton, Paris © Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

19世紀末の「象徴主義」に傾倒する、神秘的な演出

ロンドンのテート・モダンやパリのポンピドゥー・センターなどに作品が所蔵され、国際的な評価を得ているウラ・フォン・ブランデンブルク。1974年、ドイツ・カールスルーエに生まれ、現在はパリを拠点に活動している彼女は、ドイツを代表する現代アーティストのひとりであり、ヴェネチア・ビエンナーレや横浜トリエンナーレといった国際アートフェスへの出展のほか、パレ・ド・トーキョーやデンマークのオーフス現代美術館など世界有数の美術館やギャラリーで個展を開催してきた。2024年は京都のヴィラ九条山にてレジデント・アーティストとして滞在制作を行っている。

そんなフォン・ブランデンブルクは、映像やドローイング、壁画、オブジェ、インスタレーションなど領域を横断した創作活動を展開することでも知られる。なかでも、映像やビデオはフォン・ブランデンブルクが作品制作によく用いる手法だ。その多くに心霊写真や、催眠術から精神分析への変遷、タロットカード、秘密結社などのモチーフが登場し、現実と仮想の境を曖昧にしていく。

そこには、19世紀末のフランスを起源にヨーロッパで興った象徴主義(サンボリズム)の影響を見て取れる。自然主義の反動から目に見えない世界や概念を視覚化した芸術運動で、詩、文学、音楽、絵画など広範囲に及ぶ。当時を代表する作家として、詩人のシャルル・ボードレールやポール・ヴェルレーヌ、アルチュール・ランボー、音楽の世界ではクロード・ドビュッシーやリヒャルト・ワーグナー、絵画においてはギュスターヴ・モローやグスタフ・クリムトなどが挙げられる。それらの作品には近代的な科学や機械万能主義への抵抗や反発が色濃く反映されており、内に秘めた苦悩や夢想を言葉や絵画を用いて象徴的に表現しようとしたのである。

フォン・ブランデンブルクは、この“見えないもの”への想像力を改めて受け入れることで、神秘主義的な側面や「総合美術(Gesamtkunstwerk)」が抱いた理想を現代に蘇らせたといえる。

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『CHORSPIEL』(2010年)。渦のように巻いた垂れ幕を進んだ先にビデオインスタレーションが展示されている。 Courtesy of the artist and Fondation Louis Vuitton, Paris © Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

今回、エスパス ルイ·ヴィトン大阪で展示されるのは、日本初となるふたつのビデオインスタレーションだ。

2作品のうちのひとつ『CHORSPIEL』(2010年)は、「垂れ幕」に投影されたモノクロのフィルムだ。スウェーデンの森で撮影されたワンショットの長回し映像には、パフォーマンス、演劇、絵画それぞれに特徴的な表現が活人画の形式で融合されており、さらにギリシャ悲劇のコロス(劇の状況を説明したりする合唱隊)の要素も加わる。そこに映る家族(!?)のやり取りは、まるで死者との交信、あるいはあの世とこの世をつなぐ境界でのひと時のようにも思える。

白と黒のコントラストが際立つ抽象画が描かれた「垂れ幕」は渦巻状になっており、観客はそのなかを進んだ先で映像を見ることになる。風でかすかに揺れる垂れ幕が、映像作品そのものが持つ「不安定さ」や「不気味さ」、神秘的な世界観を、いっそうに助長するのである。

映像を見終え、渦巻き状を遡る帰路は、往路と違う世界かのように感じられるから不思議だ。それはまるで、彼岸から此岸へと帰還するような──。

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ル・コルビュジエの「サヴォア邸」で撮影された無声映画

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『SINGSPIEL』(2009年)  Courtesy of the artist and Fondation Louis Vuitton, Paris © Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton
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『SINGSPIEL』(2009年)  Courtesy of the artist and Fondation Louis Vuitton, Paris © Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

「垂れ幕」はフォン・ブランデンブルクの作品に繰り返し登場する要素だ。劇場から本物の緞帳を借りてきて舞台に取り付けたり、色とりどりのキルトを使用したりとさまざまだ。ドイツのハンブルク美術大学に進学する前に舞台美術を学び、いまなお演劇の世界に強い愛着を持つ彼女が用いる「垂れ幕」は、彫刻と絵画の性質を併せ持つ。そして、展示空間をかたちづくったり区切ったり、時に映像が投影される空間へ導く通路としての役割にもなる。

もうひとつの『SINGSPIEL』(2009年)は、18世紀後半のドイツで上演されていたオペラの形式を参照した無声映画にフォン・ブランデンブルク自身が歌う2曲が組み込まれた作品。ル・コルビュジエが手掛けた名作「サヴォア邸」で撮影されたもので、全長62mもの垂れ幕と映像で構成されている。

フィルムには、さまざまな年齢層の人々が集う家族の食事風景や、野外劇場での奇妙なパフォーマンスが描き出されるが、観客がその場に居合わせているかのようなモキュメンタリーの手法で、カメラは建物の中を移動していく。この主観的な映像は、「垂れ幕」の中を迷路のように進む我々自身の意識を顕在化させ、錯覚させるような効果を生んでいる。

また、会場でビデオインスタレーションの前に置かれた椅子は、実は映像の中で使われているのと同じもの。それに気づいた瞬間に、映像の世界を擬似体験するような、メタ認知を呼び起こすような不思議な感覚に陥ることだろう。

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『SINGSPIEL』(2009年)  Courtesy of the artist and Fondation Louis Vuitton, Paris © Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

今回の展示は、現代アートとアーティスト、そしてそれらのインスピレーションの源となった重要な20世紀の作品に特化した芸術機関である「フォンダシオン ルイ・ヴィトン」が、所蔵コレクションを公開する「Hors-les-murs(壁を越えて)」プログラムの一環として行われている。

かつて近代化の中で見過ごされてきた、あるいは抑圧されてきた根源的な要素にも光を当てた本展。ウラ・フォン・ブランデンブルクの世界観を存分に体感できるまたとない機会なので、ぜひ訪れてほしい。

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ウラ・フォン・ブランデンブルク●1974年ドイツ生まれ。カールスルーエで舞台美術を学び、演劇の世界を経験した後、ハンブルク美術大学に進学。インスタレーションや映像、水彩画、壁画、コラージュ、パフォーマンスなど、多様な表現方法を用いるのが特徴で、異なる媒体を互いに呼応させながら、展示空間に合わせて構成している。 © Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

ウラ・フォン・ブランデンブルク「Chorsingspiel」

開催場所:エスパス ルイ·ヴィトン大阪
開催期間:開催中〜2025年5月11日(日)
開館時間:12時〜20時
休館日:ルイ·ヴィトン メゾン大阪御堂筋に準する
www.espacelouisvuittontokyo.com/ja/osaka