昏睡状態から目覚めたら39年の記憶を失っていた…ある男性の壮絶な人生「別人のような自分の姿に驚愕」

  • 文:宮田華子
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@TgLa7 – Xアカウントのキャプチャ画像

イタリア・ローマ在住の67歳の男性の告白が話題だ。

2019年2月6日、ルチアーノ・ダダモさん(当時62歳)はひき逃げ事故にあった。幼稚園でシェフとして勤務していた彼は、ゴミを捨てるために外にでたところを車に追突されたのだ。

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現在のルチアーノ・ダダモさん(67歳)。@rai - Youtubeアカウントのキャプチャ画像

すぐに病院に搬送されものの、搬送時には意識不明だった。しかし数日間に目を覚まし、家族を喜ばせた。

ところが喜びもつかの間、衝撃の事実が判明した。何と目を覚ました彼は、39年分の記憶をすべて失っていたのだ。目覚めた時、ルチアーノさんは2019年(当時)ではなく、1980年だと思いこんでいた。

自分の姿に驚き―戸惑いの日々

意識を取り戻したルチアーノさんは「母親に電話をかけてほしい」頼んだという。自身がすでに結婚し家族がいること、実年齢が62歳であることも分からなかった。そして何より、自身が39年分の記憶を失ったことを理解していなかった。

ルチアーノさんが憶えていた最後の記憶は、23歳だった1980年3月のものだった。自宅を出たときに強い衝撃を受け、目の前が真っ暗になったと記憶しており、それ以降のことは何も憶えていなかった。

 

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若い頃の写真。@rai - Youtubeアカウントのキャプチャ画像

しかし現実には62歳。白髪の自分を初めて鏡をみたとき「ホラー映画のようだった」と語っている。

妻や息子たちとの生活もまったく思い出せず、妻の記憶は「19歳の婚約者」のままだった。58歳となっていた妻は「見知らぬ人」にしか思えず、30歳の息子が状況を説明しても「何を変なことを言っているのだろう」と思うほどだった。子どもや孫がいるという現実を受け入れるまでに時間が必要だった。

妻は夫の記憶を取り戻すため、39年分の写真やビデオを見せ、家族と過ごした大切な瞬間を少しずつ思い出させようと試みている。現在に至るまで5年間治療も続けているが、記憶の回復は困難を極めている。

 

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アルバムを見ることで思い出そうとしている。@rai - Youtubeアカウントのキャプチャ画像

唯一思い出せたのは、2014年に孫が誕生したときの断片的な記憶だった。孫の名前、そしてベビーベッドにつけられたタグ(コウノトリの絵とナンバー)だけは思い出せたという。

39年後の世界との適応


現在67歳。12月で68歳となるルチアーノさんは、学校で管理人として働きながら、日常を取り戻そうとしている。そんな彼にとって最も大きな試練は、39年間の技術革新や文化の変化に順応することだ。スマートフォンやGBP搭載の地図の存在に驚きつつも、現代の生活様式を学ばなくてはならなかった。ローマの地図がスマホ画面に映し出され、音声で道案内をしてくれる― そんな地図やナビは、途中の進化を知らなければ魔法のように感じるのも当然だ。

 


目覚めてから5年。記憶の上では28歳なのだが…。

個人的な記憶の喪失に対処することも、大きなチャレンジだ。航空機に乗ったことがあること、パリを訪れたことがあることもまったく覚えておらず、妻から「一緒に行った」と説明されるたびに、自分の過去を「発見」している。また彼は長年、熱心なサッカーファンだった。しかしASローマの歴史的な優勝や、フランチェスコ・トッティの活躍の記憶を消し去って目覚めたため、それらの出来事を家族から聞いて学び直しをしているという。

この作業を過去5年、続けているのだ。

ひき逃げ犯は捕まらないまま

ルチアーノさんに追突した加害者はそのまま逃亡し、現在も特定されていない。よって事件は未解決のままであり、補償も行われていない。しかし彼は現実を受け入れ、家族と協力しながら新しい人生を歩む覚悟をした。「(自分は)人生の3分の1しか生きていない」と語りながらも、「闘い続ける」と前を向いている。

記憶の価値と生きる意味


ルチアーノさんは、1980年までの記憶と、目覚めた日以降の記憶を「生きた証」とし、これからの日々をより大切に過ごしたいと語っている。39年という大きな喪失を抱えながらも、彼は新しい人生を再構築し、家族や現代社会とのつながりを取り戻そうと懸命に生きている。

彼の記憶が早く戻ること、そして幸せな時間の記憶を今後積み重ねていけることを祈らずにはいられない。

 

【次ページ:動画あり】39年の記憶の欠落と共に生きていく。ルチアーノさんのインタビュー映像

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イタリア語の映像だが、Youtubeの自動字幕作成機能を利用すると日本語字幕で視聴できる。