白井晟一の建築に息づく、精緻な木彫の植物たち――『須田悦弘』展が開催

  • 文:青野尚子(アートライター)
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『ガーベラ』1997年 木に彩色 東京都現代美術館蔵 賛美小舎 上田國昭氏・上田克子氏寄贈 © Suda Yoshihiro / Courtesy of Gallery Koyanagi 写真:田中俊司

建物の中の床や壁の上のほうに、唐突に花や雑草が取り付けられている。須田悦弘の木彫作品はあまりに精巧につくられていて、何度見ても彫刻なのか本物なのかわからない。渋谷区立松濤美術館で開かれる彼の個展は、都内の美術館では25年ぶり。須田のキャリアを包括的に振り返るものになる。

見どころのひとつは、近年では見る機会の少ない初期作品が多数展示されること。『朴(ほお)の木』は卒業制作としてつくられた。今回はまわりの空間を新たに制作する。

須田の最初の個展は1993年、銀座路上のパーキングメーター付近で開かれた。自作したリヤカーの中に1本のチチコグサモドキが展示されているというものだった。この作品は出品されないが、続く2回目の個展で発表された『東京インスタレイシヨン』は出品され、ふたつの個展に通底するコンセプトを想像することができる。こちらも銀座の駐車場で展示され、ドアを開けると細長い空間の奥に朴の葉と実が置かれているというものだった。「作品は権威ある空間に置かれるべき」といった固定観念にゆさぶりをかけ、アートが置かれる空間とはどのようにあるべきかを考えさせる。

近年では鎌倉時代の神鹿像など、古美術の欠損部分を補う「補作」にも取り組んでいる。一見、どこが欠けていたのかわからないほど巧みに補われた像は、須田の精緻な観察眼と超絶技巧を伝えてくれる。

会場は「哲学の建築家」とも評された白井晟一(せいいち)によるもの。曲線を多用し、ほの暗い階段室や回廊に置かれた鏡が人々の姿を映し出す独特の建物だ。通常は草木が生えることなどあり得ない場所に須田の作品が現れる。アーティストと白井晟一が音のない対話を交わす、そんな不思議な光景が見られる。

『須田悦弘』展

開催期間:11/30~2025/2/2
会場:渋谷区立松濤美術館
TEL:03-3465-9421
開館時間:10時~18時(金曜は20時、土曜は17時30分まで) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(1/13は開館)、12/29~1/3、14 
料金:一般¥1,000
https://shoto-museum.jp

※この記事はPen 2025年1月号より再編集した記事です。