いま、ワイン業界のみならず世界的に話題となっているのが、建築家・藤本壮介が手掛けたシャンパーニュ・メゾン「ルイナール」の新しいパビリオン「ニコラ・ルイナール・パビリオン」だ。最古の老舗シャンパーニュ・メゾンの新たな試みをレポートする。
ルイナールは、16世紀の高僧、ドン・ティエリー・ルイナールの甥にあたるニコラ・ルイナールが、当時話題となっていた”泡のワイン(シャンパーニュ)”の可能性とその製法の手ほどきを伯父から受け、1729年に創業された。シャルドネは清らかさに満ちた品格ある味わいで、ワインの専門家や愛好家から「シャルドネハウス」と称さるほど厚い信頼を得ている。
ルイナールはなにより伝統を守り、”折り目正しさ”を感じさせる老舗だが、一方で、革新的なメゾンとしても知られる。気候変動に対応する持続可能な栽培や醸造に早くから取り組んできた。また、芸術とも縁が深く、1896年には、当時の主 アンドレ・ルイナールアンドレ・ルイナールがアール・ヌーヴォーの旗手、アルフォンス・ミュシャにシャンバーニュブランドとして初めてポスター制作を依頼している。近年では国際的なアーティストとのコラボレーションを実施するなど、芸術とともにあるメゾンでもある。
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新パビリオンのイメージは、シャンパーニュの泡
そして今年、メゾンの歴史に壮大なアートが加わった。それが11月1日、シャンパーニュ地方の街・ランスに位置するメゾンの庭にオープンしたパビリオン「ニコラ・ルイナール・パビリオン」だ。スタイリッシュながらどこか温かみを感じる建造物は、藤本壮介によるもの。インテリアデザインはグエナエル・ニコラ、庭の設計を担当したのはランドスケープ・アーティストのクリストフ・ゴートランだ。250年前の面影を残すメゾンとも調和を見せ、その伝統とモダニティの融合は、創設当時から現在までの時の流れを思わせる。印象的なのは、なんといってもパビリオンのデザインの美しさだ。
シャンパーニュの泡をイメージして設計したという藤本はこう話す。
「グラスから立ち上る泡の中から生まれたような建築にしたいと思いました。その上で心がけたのは”東洋と西洋、伝統とモダンの融合”でした。私が日本人であることから、西洋建築のシンメトリーではなく、東洋のちょっとした崩しも取り入れたかった。それは屋根の部分に感じていただけると思います。また、外観のガラスには白いグラデーションを入れていますが、これもシャンパーニュの泡をイメージしたもの。内側から見ると、フォギーで幻想的。ここには古いメゾンも映り込み、まるで夢の中にいるような感覚を楽しんでいただけると思います」。
ガラス越しに見えるのは、手入れが行き届いた緑のガーデンとアーティストたちがルイナールのために制作したアート。確かに、自然とアート、過去と現在が交錯し、そして調和する唯一無二の場所と言える。
パビリオンの中にあるのは地下セラーとブティック、そして軽食が楽しめるシャンパーニュバー。パビリオンの完成により、一般のシャンパーニュ愛好家との距離がぐっと縮まった。
最上級キュヴェの新ヴィンテージが誕生
同時に、この記念すべき年にリリースされたのが、メゾンが誇る最上級キュヴェの新ヴィンテージ「ドン・ルイナール 2013」だ。(日本では2025年に発売予定)2013年という年について、最高醸造責任者のフレデリック・パナイオティスはこう語った。
「2013年をひと言で表すなら”晩熟な年”。気温が低くて開花が遅れ、ブドウはスローに、ゆっくり育ちました。その分、夏の天候は好ましく、十分な日照量と乾燥した気候で、雨量とのバランスに恵まれました。結果として、ブドウは美しい酸を湛え、傑出した年となりました」。
グラスから立ち上るのは豊かで奥行きのあるアロマ。レモンやベルガモットなどの柑橘やマンゴーの甘い香り、アイリスなど花のフレグランスが際立っている。透明感に満ちた凛とした酸味と繊細な果実味は、「ルイナール」のブラン・ド・ブランならではの魅力だ。どこか”光”を感じさせるような味わいは、パビリオンの印象と共通し、”ルイナールそのもの”を物語っている。こちらは、日本国内では、2025年に順次発売される予定だ。