名だたるスイス時計の名門でも「独立系」と呼ばれるブランドは限られている。そのひとつがジラール・ペルゴだ。現代の時計産業においてグループに所属しない意義や価値はどこにあるのか。そして目指すあり方とは? 来日したパトリック・プルニエCEOに、新作や日本との深い絆、そしてブランドへの思いについて伺った。
マニュファクチュールとしての長い歴史
ジラール・ペルゴは、1791年にジャン=フランソワ・ポットがラ・ショー・ド・フォンに創業した時計工房を源流に、1856年に時計師コンスタン・ジラールと妻マリー・ペルゴの名からブランド名を名付けた。2世紀以上の歴史を誇るスイス最古のマニュファクチュールのひとつだ。
2022年にケリンググループから独立し、再び独立ブランドとしての歴史を歩み始めた。
「長い歴史を持つブランドにとって、独立性は大事です。それは長期の展望を持つことが許されるということ。事業の方向性や製品開発、顧客との関係性もそうです。時計を通して、経営陣や時計師、そして協業するパートナーがいて、当然時計を身につけてくれる顧客の方たちがいる。その信頼の円環を築くことでこれからも長い歴史が続くのです」
展開させるプロジェクトにも、「自分たちで自分たちの船を漕いで走らせているようなもの」という自信と充足感を感じさせる。
「ジラール・ペルゴが大切にしているのは、まずクオリティ、つぎにエクスクルーシブであることです。私たちは、流行を追いかけるファッションブランドではありません。私たちの目標は、時の試練に耐える高品質の時計を製造することで、ブランドの歴史を尊重することです」
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美しき藍色が物語る、日本との長く強い絆
ジラール・ペルゴを語る上で、日本との歴史的なつながりを欠かすことはできないだろう。1800年代半ば、スイス時計の多くが海外へと販路を拡大する中、ジラール・ペルゴが目指したのは極東の日本だった。大役を担ったのがペルゴの実弟であり、時計師のフランソワ・ペルゴだ。かくして1864年の日本とスイスの通商条約締結とともに、ジラール・ペルゴは日本に初上陸したスイス時計になったのだ。
今年は両国の国交樹立160周年に当たり、これを記念した2本の限定モデルが発表された。人気の「ロレアート」をベースに、用いられたのが日本の伝統色である藍色だ。
「ロレアート 藍色 ジャパン リミテッド エディション」は、サンレイモチーフのギョーシェを施した文字盤を美しいブルーのグラン・フー エナメルで仕上げる。
このフランケ装飾と呼ばれる伝統的なエナメル技法は、ジラール・ペルゴにおいても特別なモデルにしか採用されないエクスクルーシブな仕様だ。「クラシックな装飾ですが、あえてエレガントスポーツウォッチに組み合わせたところはやっぱりジラール・ペルゴらしいと思いませんか」とプルニエは微笑む。
もう一本の「ロレアート クロノグラフ 藍色 ジャパン リミテッド エディション」は、自社キャリバーGP3300を搭載し、ロレアートコレクションでは稀少なチタンケースを組み合わせる。
軽量性に加え、チタンの渋銀にワントーンのブルー文字盤がシックに映える。「派手さを控え、見せつけようというものではない、ひそやかな美しさがあります」と話す。
いずれの仕様も稀少性が高く、日本への深いリスペクトが伝わる。そのジラール・ペルゴを日本にもたらしたフランソワの墓は横浜の外国人墓地にあり、命日には毎年多くの時計愛好家が花をたむける。藍色はその深謝の証であり、日本とジラール・ペルゴの強い絆を象徴するのである。
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先陣を切る進取の精神によって時を超える
歴史あるマニュファクチュールであるジラール・ペルゴは、自社ムーブメントをエボーシュとして他社にも供給してきた。それは独立系の経営基盤を支える一方、分業を中心に成り立つスイス時計産業の一翼を担った。そしてその将来を見据え、先進技術にも取り組んできた。
1971年に発表したスイス初の量産クオーツ時計もそのひとつ。クオーツ市場は日本製に席捲されたものの、ここでジラール・ペルゴが設定した32768Hzの振動数はその後、世界標準として採用されたのである。
新作「キャスケット 2.0 チタン&ゴールド」は、76年に発表されたLED表示のデジタル時計を再現する。その名はハンチング帽を意味し、液晶面を覆う庇部分から時計愛好家の付けたニックネームが後に正式名称になった。そして一昨年の再発もまたファンの熱望に応えてのことだった。
復刻に当たっては、新たなムーブメントを初代モデルにも換装できるように設計している。いつまでも時計を愛用してもらいたいという願いとともに、先進的なスタイルは時を超えるのだ。
いまやブランドアイコンとなった「ロレアート」では、38mm径ケースのセージグリーンとミッドナイトブルーが新たに登場した。現在42mmを中心にしたサイズ展開だが、38mmの新作は22年のコッパーカラーに次ぐ。遡れば1995年にコレクション初の自動巻きを搭載したモデルが36mmであり、そのオリジナルのプロポーションに近づき、小降りサイズも注目度が高い。ロレアートに関しては、来年50周年を控え、意欲作を準備中とのこと。期待はさらに高まる。
今後の展望を語るプルニエの腕にあったのは「ネオ コンスタント エスケープメント」。
「いちばん気に入っているのは、常に私にブランドのコミットメントを思い起こさせてくれることです。それは、ジラール・ペルゴの本領はやはり複雑時計ということ。これも20年間かけて開発し、独創的な技術と機能を両立し、しかもコンテンポラリーです。7日間安定したトルクは心拍のように感じ、エコロジー発想に基づく省エネ設計でも私たちは先陣を切ってきたと思います。常に先端を行くという、それがラグジュアリーウォッチではないでしょうか」