去る11月28日、東京・六本木にこれまでにない体験ができる茶寮がオープンした。和菓子職人・藤田凱斗による出来立ての和菓子と茶のマリアージュをコース仕立てで味わえる「九九九」(くくく)だ。千利休への敬意が宿る空間で、全8品ずつペアリングで供される和菓子と茶だけのフルコースとは!?
六本木の東京ミッドタウンから国立新美術館へと向かう通り沿い、春になると桜並木が美しいエリアに「九九九」はある。ビルの2階の突き当たりの扉を開け、いざ足を踏み入れると、静謐な空気がそこには流れ、障子越しに漏れるやわらかな自然光がカウンターを優しく照らす。
ヒノキではなくあえて栗の木を用いたというカウンターには、炭火焼きと茶釜が備えられ、壁にはアンディ・ウォーホルの『花』が掛け軸のようにそっと飾られている。障子を引くと、奥にはまるで美術館の展示のように4つの茶器が並ぶ。
こちらの茶器は、千家十職のひとつで、400年以上の伝統をいまに紡ぐ樂家の歴代の作品だ。初代・長次郎から先代の15代・直入まで、樂家代々の作品が展示されている。
「九九九」は、オーナーの見冨右衛門が「茶の価値を高めたい」との想いから、和菓子とのコース仕立てのペアリングにたどり着いたという。その屋号は、日本が誇る茶の湯文化を大成し、「茶聖」と称された千利休への敬意が込められている(千からひとつ引いた数ということだそうだ)。
古来、身分の分け隔てなく茶を楽しむ大切な文化とされてきた「茶会」。現代ではごく少数の人が楽しむものとなってしまったが、この大切な文化をみなで分かち合い、唯一無二の体験を届けたいとの想いから「九九九」は生まれたという。
店内の空間は、見冨右衛門いわく「外から眺めた茶室」がコンセプトだという。茶室の要素を随所に取り入れつつも、壁の窓枠も裏側が見えるように備え付けられており、野点(のだて)のように気軽に茶を楽しめるようにと設計された。「いまの感覚で言えば、野外のBBQですね」と見冨右衛門は笑う。
テラス席で茶を楽しむようにくつろいでほしいと言いつつも、釜師の辻与次郎が手掛けた400年以上前の茶釜を用いたり、樂家代々の茶器を展示したりと、利休へのオマージュが宿るとともに細部まで美意識が徹底された空間は、ピンと背筋が伸びるような凛とした雰囲気もたたえる。
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「九九九」を取り仕切るのは、和菓子職人の藤田凱斗だ。高校生の頃に「全国和菓子甲子園」での優勝をきっかけに、本格的にこの道を志すようになったという。その技術と創造性に惚れ込んだオーナーが、当初は茶をメインに考えていたこの店を藤田のために和菓子をメインとする店に変更したというほどの腕前。
そんな藤田がこだわるのは、「食べていて疲れないこと」。毎月1日に更新される、二十四節気を意識したメニューは、全8品のコースが時間軸に沿って進むように工夫しているという。目の前で出来立てを提供するその和菓子は、温度や甘さ、食感の違いを巧みに調整し、時折、甘さの中に酸や塩気を感じさせるのが特徴だ。
一般的に店頭で販売される和菓子は保存のために砂糖を多く用いる傾向にあるが、つくり立てをいただく「九九九」のスタイルでは、砂糖の量を抑え小豆本来の味わいや甘さを引き出すことで、8品通しても口の中に甘ったるさが残らないように工夫がなされている。
最後に、茶にも少し触れておこう。まず、コースが始まる前にスターターとして玉露の氷出しが汲まれるが、それがとにかく絶品で、旨みがまさに凝縮されている。水出しではなく氷出しにしているのも、攪拌によって苦味が出ないよう、一滴一滴抽出するためだという。
ペアリングで出される茶のコースには、全国各地から厳選し「九九九」専用に合組した茶葉を使用。八女のやぶきたから、ミント煎茶、柚子ピールオイルをまぶしたものまで、さまざまな趣向を凝らしたオリジナリティあふれる一杯がいただける。旨みや香りを心ゆくまで堪能できる唯一無二のコースだ。夜には一品揃い(和菓子と茶のミニセット)のほか、茶葉を組み合わせたクラフトビールや茶を使ったオリジナルカクテルも用意している。
カウンター越しに実演される練り切りや、茶をたてる見事な手さばきなど、一つひとつの美しい所作に目を奪われるととともに、和菓子の温もりや手触り、繊細な口溶け、茶の蒸される香りなど、そのすべてが五感を刺激する。これまでの和菓子と茶の概念が変わるような、静かな感嘆がそこには生まれるはずだ。
九九九
住所:東京都港区六本木7-5-11 カサグランデミワ2F
営業時間:コースは15時〜と18時〜の2部制(火曜は18時〜のみ) ミニセットは21時〜23時(土曜15時〜23時)
定休日:日、月
Instagram:@999_kukuku