はっぴいえんどから後の歌謡曲まで、長年、細野晴臣と活動をともにしてきた松本隆。互いの世界を広げ合う、唯一無二の関係だ。50年以上にわたり創作をともにしてきた松本に、細野はどういう存在なのか聞いた。
音楽の地平を切り拓いてきた細野晴臣は、2024年に活動55周年を迎えた。ミュージシャンやクリエイターとの共作、共演、プロデュースといったこれまでの細野晴臣のコラボレーションに着目。さらに細野自身の独占インタビュー、菅田将暉とのスペシャル対談も収録。本人、そして影響を与え合った人々によって紡がれる言葉から、音楽の巨人の足跡をたどり、常に時代を刺激するクリエイションの核心に迫ろう。
『細野晴臣と仲間たち』
Pen 2024年1月号 ¥990(税込)
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バーンズ、エイプリル・フール、ヴァレンタイン・ブルー、はっぴいえんどの4つのバンドで細野と活動をともにしてきた松本隆。はっぴいえんど解散後は作詞家としての活動を本格化させ、たくさんのヒット曲を生み出してきた。
日本の歌謡史を代表する作詞家である松本が詞を書き始めたのは、細野の勧めによるものであることは知られた話だ。50年以上にわたり創作をともにしてきた松本に、細野はどういう存在なのかと聞けば、「親友かな」と笑う。
ふたりが出会ったのは、松本が高校を卒業した春のこと。当時松本が所属していたバンド、バーンズのベーシストとして細野を勧誘したことがきっかけだ。
「細野さんは僕の2歳上で、大学生。『立教大にベースの天才がいる』と聞いて電話をして、原宿の喫茶店で初めて会ったんだ。細野さんは20歳だったけど、話すことがすべて自信満々で、達観したおじいちゃんみたいだった(笑)。『ロックをやるには髪の毛が短すぎる』と言われたのを覚えてる」
それからふたりは、数々のバンドで一緒に音楽をつくってきた。なかでもはっぴいえんどは「ロックと日本語を融合させたバンド」として若者の間で人気となり、その多くの歌詞を手掛けた松本も次第に評価を高めていく。はっぴいえんど解散後、ふたりはそれぞれのキャリアを重ねていくが、80年代になるとヒットチャートを舞台に再び仕事をともにすることに。以降、作曲・細野、作詞・松本で生み出されたポップスの数々は、現在まで愛され続けている。
「歌謡曲で最初に一緒につくったのは、イモ欽トリオの『ハイスクールララバイ』。フォーライフミュージックの後藤由多加社長が『曲は誰につくってもらおうか?』って言うから、『細野晴臣に頼んでくれ』って。そうしたら、細野さんが引き受けてくれたわけ。細野さんはアメリカのヒット曲が好きだったから、歌謡曲も書けるはずだ、と。それに、ヒット曲の世界に細野さんが入ってくることが、日本の音楽にとっていいことだとも思ったんだ。そうやって、はっぴいえんどとは違う“細野・松本”の表現が始まったんです」
既にYMOで人気を博していた細野による作曲という話題性もあいまって、『ハイスクールララバイ』は大ヒット。細野の職業作曲家としての才能をも知らしめることとなった。松本に、細野と共作した歌謡曲で特に好きなものを聞くと、松田聖子のあの名曲が。
「『天国のキッス』。あんなにも明るいポピュラーソングを書ける細野さんは、やっぱりすごいと思うよ。それに、そういう細野さんの新しい側面を引き出した松本もすごい(笑)。『ガラスの林檎』も思い出深いね。僕は歌詞を先に書いて、そこに曲を乗せてもらうことが多いんだけど、細野さんが『たまには曲を先につくりたい』って言うんだよ。でも夜中に電話がかかってきて、『やっぱり歌詞が欲しい』って(笑)。スタジオに走って行って、急いで書いたよ」
バンドメンバーとして、作詞家として、友人として。長きにわたり細野と並走してきた松本にとって思い入れが強い細野作品は、やはりはっぴいえんどの曲だそう。
「ふたりで目黒のスタジオで録音した『風をあつめて』も素晴らしいけれど、『夏なんです』も捨て難いね。あの歌詞は、僕の母方の実家がある群馬の伊香保温泉の風景を描いたものなんだ。僕は夏休みになると毎年1カ月、伊香保に預けられていて。その風景を描いた歌詞に、細野さんが曲を付けた。細野さんは歌詞に対して『難しくてよくわかんない』なんて言うけれど、ああいう曲で表現できるところ、やっぱり天才だよ。僕の歌詞の最大の理解者なんだよね。僕の歌詞を本当に愛して、大事にしてくれていると感じる。細野晴臣、大瀧詠一、筒美京平がそうなんだけど、大瀧さんと京平さんは亡くなってしまった。だからいまは、細野さんだけだよね」
Column:松本隆が選ぶ、細野晴臣の3songs
「しんしんしん」(収録:『はっぴいえんど』)
インタビューで触れた「風をあつめて」「夏なんです」以外から選ぶなら、細野・松本で好きなのはこの曲。
「風の谷のナウシカ」(収録:「風の谷のナウシカ/風の妖精」)
映画では使われなかったけれど、思い入れがあって、タイトルに“ナウシカ”を残したんだよね。
「終りの季節」(収録:『HOSONO HOUSE』)
描かれているのは60年代に一緒に行った車中泊の旅の思い出では?と想像している。そうであれば嬉しい。
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