デジタル化が進む中でも、日々の暮らしとって欠かせない存在である紙。その紙に「折り紙」、「彫刻」、「切り絵」と異なった手法で制作する、3名のアーティストによる展覧会が千葉県の市原湖畔美術館にて開かれている。三者三様の作品の見どころとは?
「ORIGAMI ART」を切り開く作家、布施知子が折り紙で築いた自然の風景
パーツを組み合わせてつくる「ユニット折り」の第一人者であり、「無限折り」や「コイル折り」など独自に開発した折りの作品で知られる布施知子。《むくむくとねじねじ》とは、「平らに畳みたい」という思いから生み出された折り方によって作られた、すべて平らに畳むことのできるユニークな作品だ。会場では白い「むくむく」が首を少し曲げた生き物のように立ち上がり、床一面には水色や黄色など色のついた「ねじねじ」が実に300本も横たわっている。布施が色のついた「ねじねじ」に用いたのは3種類の四角形。それらが円錐や螺旋などの幾何学模様をつくり出しているが、しばらく目にしていると「むくむく」が里山、「ねじねじ」が川のせせらぎのようにも見え、美術館の周辺に広がる自然の景色と重なって映るのも魅力といえる。
宇宙から地表を眺める。安部典子が紙と光で生み出した地層とは?
フリーハンドでカットした何百枚、何千枚の紙を重ね、切り込むという、彫刻的な表現を追求する安部典子は、本展において特殊照明作家の市川平とコラボレーション。《White Niget》(白夜)と題し、1999年からはじめた「地層プロジェクト」の新作を公開している。ここではユポ紙を切り重ね、高低差を生かして作り出した立体的な地層の反復をランダムに構成し、市川による照明のもと、テーブルの上にインスタレーションとして展開している。紙によって表現された大陸のように広がる地層は、繊細ながらもダイナミックなランドスケープを生み出していて、ぐるりと一周する太陽のような光の動きをたどっていると、宇宙から地表を俯瞰している気分を味わえる。クレーターのような穴が無数に点在しているからか、地球を離れた月面を連想させるのも面白い。
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切り絵が光とともに天から降り注ぐ。柴田あゆみの《いのちの詩》
ニューヨークの教会にてステンドグラスの美しさに出合い、独自に切り絵をはじめたという柴田あゆみは、9メートルの吹き抜けに切り絵を糸でつなぎ合わせた《いのちの詩》を展示している。細かな紙片は単純な円というよりもバルーン状に切り出されていて、光とともにシャンデリアのように吊るされながら、まるで生命の源が地の底から噴き上がるような光景を築き上げている。この他、幅5メートルにも及ぶ《あまのいわとひらき》と《羽衣》も、繊細な切り絵の手業に驚くとともに、幻想を誘うようなすがたに見惚れる美しい作品だ。「紙は古来、人々がさまざまな思いを託す神が宿る『依り代』でもあった」とする本展。紙が織りなす神秘の世界を、『かみがつくる宇宙―ミクロとマクロの往還』で体感したい。
『かみがつくる宇宙―ミクロとマクロの往還』
開催場所:市原湖畔美術館
●千葉県市原市不入75-1
開催期間:開催中〜2025年1月13日(月・祝)
https://lsm-ichihara.jp/