職人技術がアートを生む、カルティエの工房を訪ねて

  • 文:髙田昌枝(パリ支局長)
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木造の構造が手仕事の温かみとリンクするアトリエ。中央の吹き抜け空間には、天井から自然の光が注ぐ。職種別にそれぞれのフロアで作業する職人たちをつなぐのは、大きな階段。異職種同士のコミュニケーションから、新しいクリエイションが生まれる。 photo : © Cartier

カルティエの美しきタイムピースをつくり上げる職人技術は、スイス、ラ・ショー・ド・フォンに置かれた工房にある。設立から10周年を迎えた「メゾン デ メティエダール」を訪ねた。

17世紀の農場を買い取り、「メゾン デ メティエダール」に

フランス国境に近い、スイス・ジュラ山脈の麓の町ラ・ショー・ド・ フォンは、17世紀の昔から時計製造が営まれてきたウォッチメイキングの聖地。以前からこの地で時計の製造を続けてきたカルティエは、2001年にメゾン最大となる生産拠点を建設した。ジュネーブやパリのチームからデザインを受け取り新しい時計のコンセプトを行うデべロップメント部門、微細な部品を組み立てていく製造部門、複雑時計やヴィンテージのレストレーションを行う部門も擁するこのマニュファクチュールは以来、カルティエのウォッチメイキングの中心地となった。

この近代的な工場の隣に残されていた17世紀の農場をカルティエが買い取ったのは、2011年のこと。18カ月をかけ、周辺の伝統建築から改修した建材を使ってリノベーションした1500㎡は、古くから伝わるサヴォワールフェールを継承し、保護し、革新する目的を持った「メゾン デ メティエダール」に生まれ変わった。

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17世紀に建てられたベルン様式の農家が職人たちを迎えるメゾン デ メティエダールになった。屋根の中央はガラス張りになり、全フロアを通してあかりを取り込む吹き抜けに。 photo : ©Cartier

 建物の中央部は天井まで抜ける吹き抜け構造で、天窓から差し込む自然の光が各階を照らしている。伝統の構造と外観を守り、内部を現代的に改修した建物は、手工芸の技を司るアトリエにふさわしい姿を見せる。1847年にジュエラーとして誕生したカルティエだが、1904年には「サントス」、17年には「タンク」を生み出し、時計の世界でもゆるぎない地位を築いているのは周知の通り。

「マニュファクチュールとメゾン デ メティエダールが隣同士にあることで、最先端の技術とクラフツマンシップを同じ場所で組み合わせ、歴史と革新を融合させることができます。カルティエは、ジュエラーの目を持つと同時に、最高級の精度と専門技術をもって時計製造に取り組んでいます。メティエダールは両者が融合する場所なのです」と時計製造部門の総責任者であるカリム・ドリシは語る。

「カルティエの特性はデザイン文化。時代を超えても古びることのない、優れた耐久性のあるデザインを生み出すことです。この目標を達成するために、技術がデザインを引き立てるのです」

 

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南側の1階は、かつて住居だった構造を活かし、暖炉のあるアットホームな接客スペースに。 photo : © Cartier

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職人たちが働くアトリエは、大きな階段で結ばれている。 photo : © Cartier

 

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9人の時計職人が手掛ける、伝統的なサヴォワールフェール

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グラニュレーションは古代エトルリア生まれの技法。細く引き延ばして小さくカットした金属を、熱によって大小の球体に加工するもの。カルティエではエナメルにも取り入れている。 photo : © Cartier

ハイウォッチの世界に欠かすことのできない手工芸のサヴォワールフェールだが、自社にメティエダールの専門職人たちを抱えているメゾンは少ない。ファインウォッチのアトリエでは、9人の時計職人が、時に500個もの微細なパーツからなるスケルトンや複雑時計を組み立てている。1人の時計師が、ひとつのピースを一貫して手掛け、シリアルナンバーによって組み立てた時計師にたどり着けるシステムだ。金属を加工し、貴石をセットするジュエラーとジェムセッターが働くアトリエ。微細な木片や藁、マザーオブパール、ジェムなどを組み合わせ、微妙な色のニュアンスでダイヤルにモチーフを組み上げていくマルケトリ部門。プリカジュール、クロワゾネなどさまざまな特殊技法を操るエナメル部門。特定のクリエイションのニーズに応えるために、外部の優れた職人も定期的に招く。そのオープンな姿勢も、内部の職人たちに刺激を与えているのだ。 

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ジュエラーが金属を操り、セッティング職人が石をセットするジュエリーウォッチの製作。パンテールの頭部は研磨され、エメラルドの瞳とオニキスの斑点、ダイヤモンドがセットされる。 photo : © Cartier
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ワイヤ状にした金属を融合させ、透かし格子のモチーフをつくる、フィリグラン。このパンテールのダイヤルにはゴールドとプラチナのフィリグランにダイヤモンドが加えられている。 photo : © Cartier
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グラニュレーション。熱を加えられてビーズ状になったゴールドは一粒ずつ配置され、レーザーで融着させていく。カルティエは2013年以来、この伝統的な技法を習得し、受け継いでいる。 photo : © Cartier


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伝統だけではない、革新的な技法でクリエイションに命を吹き込む

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トレンブリングセッティングやマルケトリがダイヤルを彩る「バロン ブルードゥ カルティエ セルティ ビブラン」(中央)や「ロンド ルイ カルティエ エクラ ドゥ パンテール」(左)、眩いジュエリーウオッチなど、メゾン デ メティエダールから生まれるタイムピースたち。 photo : © Cartier

ここでは伝統が継承され、保護されるだけではない。新しいフォルムやデザインを創造するために、新旧の技術を探し、組み合わせ、革新するべく、エンジニアや科学者からなるイノベーションチームが存在している。たとえば、ベネディクト派修道士の技術を取り入れたエナメル技法、ゴールドペーストのグリザイユは、イノベーションチームの発見から生まれたもの。ゴールドビーズが手首の動きに合わせて流れ落ち、パンテールの姿が現れる「レヴェラシオン ドゥヌ パンテール」は、デザイン、イノベーション、職人が手を携えて実現したマスターピースだ。

ドリシは言う。

「エナメル グラニュレーション技法では、エナメル技法とジュエリーメイキングの技術を結びつける必要がありました。『クッサン』は、イノベーションチームと職人たち、特にジュエラー、ジェムセッター、研磨職人たちの密な対話の賜物です。メゾン デ メティエダールがなければ、これらのクリエイションに命を吹き込むことはできなかったでしょう」

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藁、クリスタル、サファイア、ゴールド、マザーオブパールなど、さまざまな素材の小片124個を組み立ててパンテールを描いた、マルケトリのウォッチ。 photo : © Cartier
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マザーオブパール、サファイア、ダイヤモンドのパヴェセッティングにブルーのエナメルをプラス。「クロコダイル」ジュエリーウォッチのベゼル部分。 photo : © Cartier
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具象的なゼブラはマルケトリ、抽象的なキリンのモチーフはゴールドのグラニュレーション。異なる技法を組み合わせたカルティエらしいデザイン。 photo : © Cartier

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