「クマに荒らされた!」高級車の内装被害、実は着ぐるみの自作自演

  • 文:青葉やまと
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Mike Mareen-Shutterstock ※画像はイメージです

米カリフォルニア州で、保険金詐欺事件が発生。犯人グループはクマの着ぐるみを着用し、野生動物による被害を装って保険金を騙し取っていた。

全米日刊紙のUSAトゥデイによると、容疑者4名は今年1月28日、サンベルナルディーノ山地のレイクアローヘッドで、クマが2010年型ロールスロイス・ゴーストに侵入して内装を損壊したと保険会社に申告。証拠としてクマが車を荒らす動画を提出していた。

だが、動画はどこかおかしい。よく見るとこの“クマ”は、着ぐるみを着た人間だったのだ。動画に不審な印象を抱いた警察は、捜査の過程でカリフォルニア州魚類野生生物局の生物学者に動画の解析を依頼。過去の保険金申請事例も含め、3本の「クマの動画」を精査したところ、「明らかにクマの着ぐるみを着た人間だ」との鑑定結果を得たという。

その後の家宅捜索で、容疑者宅からクマの着ぐるみが発見された。同紙によると、クマが車両を損壊したと偽って保険金を請求した容疑で、警察はロサンゼルス近郊の男性3人、女性1人を逮捕。4人は、詐欺と共謀の容疑で起訴されている。さらに捜査を進めた当局は、同じ場所で別の2台の車両(2015年型メルセデスG63 AMGと2022年型メルセデスE350)についても、同様の手口で別の保険会社2社に補償を請求していたことを突き止めた。

押収された"凶器"は着ぐるみと偽爪…被害総額2180万円

米メディア各局は、カリフォルニア州当局が押収したクマの着ぐるみ写真を掲載している。それによると着ぐるみは、毛足の長い茶色の毛皮でできた、全身タイプのものだ。

頭部、胴体、手足のパーツに分かれて着用するようになっており、その横には別の押収品として、肉を裂くための「ミートクロー」と呼ばれる爪状の道具が置かれている。着ぐるみとミートクローを合わせ、容疑者らは高級車の内装に爪跡をつけ、野生のクマによる被害を偽装していた。

捜査の過程では、動画に映る“クマ”の外観が不自然だと指摘されていた。動画を解析したカリフォルニア州魚類野生生物局の生物学者は、「明らかに体に合っていない」と指摘している。一連の詐欺行為により、申請を受けた保険会社3社は総額約14万2000ドル(約2180万円)の損失を被ったとされる。

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仲間同士で偽装襲撃、同じ住宅地で3件続発

3つの事件の舞台となったのは、住宅地の一角にある同じ地点だ。捜査当局が入手した3本の動画には、いずれも“クマ”が車内に侵入して這い回る様子が記録されていた。ロールスロイス・ゴーストとメルセデスの2車種に関して申請された保険については、すでに保険金が支払われていた。容疑者らは同じグレンデール市に住む仲間同士だったという。

捜査当局は一連の事件を、「オペレーション・ベアクロー(熊の爪作戦)」と命名し調査していた。米CBSニュースによると、保険会社に提出された写真には、車の座席やドアパネルに付けられた表面的な引っかき傷が写っていたという。

「州内で茶色のクマは不自然」専門家が指摘

ニューヨーク・タイムズ紙によると、カリフォルニア州魚類野生生物局のティム・デイリー広報官は、動画に映るクマが不自然な動きをしていると指摘している。「着ぐるみがちゃんと体にフィットしていない」ほか、車内の傷跡や残された痕跡は、実際にクマが残すものとは異なると説明している。「本物のクマなら、もっと大きな荒らし跡を残すはずだ」という。

さらにデイリー氏は、カリフォルニア州では約100年前から茶色いクマは生息していないと補足。州内で野生のクマといえば、個体によっては濃い茶色や薄茶色の個体もいるものの、ほとんどは黒色の種だと述べている。

カリフォルニア州保険局の広報担当者は、クマの襲撃を装った保険金詐欺は前例がないとしている。同局はこれまでにも「突飛な手口」の詐欺を摘発してきたが、今回の事件は異色の部類に入るとしている。なお、容疑者4人のうち3人の男性は勾留が継続中だが、女性1人は5万ドルの保釈金を支払い、釈放されたことが分かっている。

野生のクマの生態について不勉強だった容疑者らによる、ずさんな保険金詐欺事件となった。

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脱ぎ捨てられた全身タイプのクマの着ぐるみ

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