2020年にスタートした、奈良県の古民家と地域土着の食文化の魅力を発信する「narrative gastronomyプロジェクト」。その中でも注目を集めているのは、24年に開業した奈良県を代表する観光名所である若草山の目の前に佇むオーベルジュ「VILLA COMMUNICO」だ。“奈良”にこだわり尽くした店に込められた思いとは。
VILLA COMMUNICOは、2022年・2023年『ミシュラン奈良特別版』で1つ星を獲得した、奈良県・東生駒のリストランテ「communico」を手掛けた堀田大樹シェフによるオーヴェルジュだ。
堀田は、奈良生まれ奈良育ち。VILLA COMMUNICOの前身である、リストランテcommunicoでも奈良県の食材を主役にした料理でグルマンたちを魅了するだけでなく、奈良県の食文化の発展に努めてきた。
そんな堀田にとって転機となったのが過日のコロナ禍。自身の店のみならず、飲食業界が大きな打撃を受けたことをきっかけに「奈良の食文化を担い、発展させていきたい」という思いが強くなったという。衣食住を総合プロデュースできる、オーベルジュという形態でオープンすることを決意した。
奈良の大地の恵みを感じさせる演出を
ディナーは、堀田のシグニチャーのひとつである薪火料理を主体に、奈良の食材をイタリアンと独自の手法で融合したコース料理を提供。「三輪手延べパスタ パプリカ 真蛸 赤紫蘇」「熟成士 昆野さんが手当した大和サーロイン40日熟成」など、地域の食材と独自の発酵・熟成技法を積極的に活用した一皿一皿は、どれも地の食材のさまざまな表情を引き出しており、視覚・味覚ともに楽しめる。
「僕の出身地である奈良もイタリアで修行したエミリアロマーニャ州も山に囲まれた地域。保存食の技術や、土地にあるものを工夫していかにおいしく食べるかということにとても情熱を燃やす人が多いんです。滞在中は気づかなかったですが、イタリアから奈良に帰って『いまあるもので調理するということの素晴らしさ』に改めて魅力を感じました。だから僕は、ローカルな新鮮な食材と組み合わせることで過去と現在と共存させるような、ひと皿をつくり上げることを目指しています」と堀田は語る。
レストランの入り口横にある貯蔵庫には、アンチョビをはじめとするイタリア食材から、自家製のドライハーブ、柿酢、オオイチョウダケといった奈良県で古くから親しまれている発酵食材が所狭しと陳列されていた。滞在中、堀田やスタッフがこまめに手入れをしている様子も印象的で、まさに「土地のものを活かす」という彼の信念が感じられた。
---fadeinPager---
ここでしか味わえない大和時間を過ごして欲しい
若草山の麓で土産物を扱ってきた歴史ある建物をリノベーションしたVILLA COMMUNICO。料理はもちろん、客室、ファブリック、アメニティに至るまですべて堀田がプロデュースした。
「リストランテ時代、県外から来てくださるゲストも多かったのですが、新幹線の時間を気にしながら料理を食べてもらうのが申し訳なく感じるようになって。奈良特有ののどかな雰囲気を“大和時間”というのですが、ここではそんな時の流れをゆったり感じながらゆっくり過ごしていただきたいです。独学ですが、服飾やデザインについて勉強していたのでその経験を活かして関係者の皆さんに協力いただいたことで、自分がゲストに提供したい空間が体現できたと思います」
---fadeinPager---
奈良を日本を代表する必訪アドレスにしたい
関西の他県と比べて、飲食店や宿泊施設が少ないので注目されにくいと言われてる奈良県についてどう思うか堀田に尋ねたところ、意外な発見があったという。
「オーベルジュの形態になって驚いたのが、県外と同じくらい奈良県出身の方がいらっしゃること。地元の方たちを巻き込みながらローカルプレゼンテーションを積極的にしていきたいです」
さらにこれからの展望について尋ねると、「吉野など、奈良を代表する土地にもオーベルジュをつくりたいですね。地域に根差した2泊3日くらいのガストロノミーツーリズムなどやってみたい」と語っていた。
今後も堀田を中心にさらなる活動の幅を広げるというnarrative gastronomyプロジェクト。奈良のガストロノミーを牽引し続ける彼の活躍に今後も目が離せない。