本を読む人が減っていると言われるが本当にそうだろうか。
年間700本の書評を書き、これまでもさまざまな読書術を提案してきた著者が、大人になってからの「読書」の効用について改めて問いかける。手軽に必要な情報を入手する利便性なら、スマホで事足りるだろう。大人になると、仕事のために必要な本を読む「成果を生むための読書」になりがちだけれど、むしろ、わかりやすい収穫は期待できない「浪費の読書」が人間を豊かにするという。
タイトルに「入門」とあるけれど、本を読むことから遠ざかっている人や読む本がコスパ重視になっている人がわざわざ読書術の本を手にとって読むだろうかという疑問が湧くかもしれない。しかし、運動は苦手、そんな時間はないと言っていた人が大人になってから筋トレにハマった事例を、私たちは山ほど目にしている。それを習慣として取り入れることで、日常にどんな変化がもたらされるのか。そこに気づくことができれば、読書のハードルもぐっと下がるはず。この本は、その基本を指南する手引書でもあるのだろう。
“浪費の読書”が、人間を豊かにする
古今東西「本を読むこと」についての多様な考察が引用されているのが楽しい。たとえば、翻訳家の青山南は著書『本は眺めたり触ったりが楽しい』(筑摩書房刊)で「ハワイに行くたび、海辺で読書する人たちが気になる」と述べる。ハワイに来る人たちはそんなにも本好きが多いのだろうか。いや、そんなはずはない。本は、恐らく日光浴をするための口実。「なにかを得なければ」と躍起になる必要はないのである。
NO MUSIC,NO LIFE。音楽ライターでもある著者は、タワーレコードのキャッチコピー同様、本だって別になくたっていいもの、でもあったほうがより生活や気持ちが楽しくなる。いま風にいうならQOLを上げてくれる手段だと思えばいい。読み方だってもっと自由でいいと説く。電車の中でスマホを見る代わりに本を開く。朝、布団の中で10分だけ読む「寸止め読書」から始めればいい。NO BOOK,NO LIFE。ルーティンに流されるだけの日常をちょっと変えてみたい、そんな人に読む楽しさの幅を広げてくれる1冊だ。