日本のイメージングブランド「kyu」が、日常の瞬間を簡単に記録し、思い出として残すことを目的としたカメラ「kyu camera」を発表した。このカメラが持つ「前代未聞の設計」とは。
「Just Enough」の哲学が生んだ、極限のシンプルカメラ
kyu cameraは必要最低限の機能を持つ「Just Enough」をコンセプトとしたカメラだ。「思い出は特別な加工や演出なしでも、そのままで価値がある」という考えのもと、従来のカメラが持っていた過剰な機能を削ぎ落とし、「ワンボタン操作で9秒間の動画を残す」「1日に撮影できるのは27回まで」というシンプルな体験にフォーカスした。
この「9秒間」という時間設定は、kyu cameraの開発者の一人Iori Andoによると「日常の一瞬を切り取り、特別なものとして心に刻むのに最適な長さ」なのだという。
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大切な9秒間を、アプリが自動的に思い出に
そして、kyu cameraの体験は、専用アプリ「kyu app」との連携によって完成する。
撮影後のデータは、カメラのメモリ部を直接iPhone(今後Androidにも対応予定)に接続することでアプリに転送され、1日分最大27回の「9秒」の積み重ねが、アプリ上での自動編集により思い出のVLOGとして整えられる。
Spotify連携にも対応しており、好きなBGMを動画に追加することで、より自分らしい演出も可能だ。
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思い出はSNSに「シェアしない」。クローズドな基本設計
kyu cameraのユニークさはターゲットユーザーにも及ぶ。
それは「日々の小さな瞬間を大切にする人々」だ。仕事や生活に追われつつも、ふとした瞬間に「美しさ」や「特別さ」を感じ、その瞬間を記録しておきたいと願うユーザーに寄り添う。
その思想は、SNSに対するスタンスにも表れており、kyu cameraおよびkyu appは、SNSへの動画共有を良しとしない。親しい人たちとの思い出の共有に特化するため、SNSシェア時には画面全体にぼかしがかかる仕様となっているのだ。
9秒間、1日最大27回の動画。SNSシェアが難しいサービス設計……。そのどちらも、時代と逆行するかのようだ。しかし、1ショットを大切にする限られた撮影回数、SNS公開を意識しない撮影は、大切な人たちとの思い出を、より深いものにしてくれるのではないだろうか。
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傷もよしとする「使い込むためのデザイン」
一期一会を大切とするコンセプトは、デザインとしても具現化されている。
プロダクトデザインは、キヤノンの元カメラデザイナーである松浦泰明氏。丸みを帯びたコンパクトな形状は、ポケットやバッグに自然と収まるよう設計されており、カメラを生活に溶け込むかたちで持ち歩けるように工夫されている。
さらに興味深いのは、使い込むことによる傷もよしとする「経年変化」を前提としたアルミ素材の採用だ。動画として思い出を残すだけでなく、ユーザーがkyu cameraとともに年月を重ねるごとに、ボディにその歴史が刻まれていく。使い込むほどに愛着が増し、カメラ自体が「思い出の一部」になるデザインなのだ。
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kyu cameraは「思い出」の価値を問いかけるか
kyu cameraの開発者たちは、思い出の価値は「誰と、どの瞬間に、どれだけの時間をかけて振り返るか」で決まると考えている。
単なる記録デバイスではなく、思い出をつくるカメラ。そして、「思い出の価値」を、我々に問いかけるかもしれないカメラだ。