バイオテクノロジー、ジェンダー、異なる生物間のコミュニケーションといった幅広いテーマを扱うマルチメディアアーティストのスプツニ子!。個展『Can I Believe in a Fortunate Tomorrow? – 幸せな明日を信じてもよい?- 』が天王洲のKOTARO NUKAGAギャラリーで開催中だ。長年メディアアートやテクノロジーの世界で活動を続けてきたスプツニ子! が考える人間とAIとの関係とは?
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テクノロジーで手に入れた“幸せ”への皮肉
会場入り口には、虹色に輝く雲がゆっくりと移り変わる巨大な映像が映し出されている。『Can I Believe in a Fortunate Tomorrow? 』と題された本作は、太陽の近くに通りかかった雲が虹のように七色を帯びて見える「彩雲」をAIによってシュミレートしたもの。続く『Drone in Search for a Four-Leaf Clover』は群生するクローバーの上を飛行したドローンによる映像をAIが解析し、四つ葉のクローバーを見つけ出すという作品だ。
「子どもの頃、四つ葉のクローバーを見つけると幸せな気持ちになりましたが、ドローンを飛ばして画像認識を使ってものすごいスピードで世界中の四つ葉のクローバーを見つけたら、それって幸せなのだろうか? ということを考えながらつくりました」とスプツニ子!は言う。幸せの象徴である四つ葉のクローバーや彩雲をモチーフにしたこれらの作品は、テクノロジーによって手っ取り早く“幸せ”を手に入れようとする現代への皮肉と捉えることもできる。「AIのつくった彩雲を見ていると、リアルで見るのとは別の次元でちょっと幸せを感じてしまうんです。きれいなんだけどAIがつくっていると思うとせつない。フェイクとリアルのはざまのせつなさを感じます」
3つ目の作品『Tech Bro Debates Humanity』では、ふたつのモニター上で議論を続けるふたりの男性が映し出される。「テック・ブロ(tech bro)とはシリコンバレーで働いているテクノロジー界隈の起業家やエンジニアたちのこと。彼らはしばしば白人男性で資本主義を崇拝し、テクノロジーですべてのものごとが解決できると信じている人たちです。私はMIT(マサチューセッツ工科大学)で教鞭をとっていたこともあり、テック・ブロは身近な存在でした。でも少数のエリートである彼らが未来の地球の行方を握っているという感覚に対してずっと違和感を感じてきた。そんな状況への風刺を込めてこの作品をつくりました」
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映し出される白人男性はすべてスプツニ子!の容姿や声を生成AIモデルによって「白人化」し、さらにイーロン・マスクやピーター・ティールといったテック・ブロ的思考を憑依させたアバターである。「議論のテーマはAIと人間の労働、これからの民主主義、未来の幸せなどです。自分の意思で選挙に投票していると思っていても実はハッキングされているのではないか? 人類が宇宙に進出して植民地化する理由は? などを語り合っています。アメリカ大統領選の投票日直前にこの作品を発表しましたが、制作中は自分の中にある漠然とした不安に深く向き合いました」
テクノロジーに明るい未来の希望を抱いていた時代から時を経て、人類はどこへ向かおうとしているのか。議論さえもがAIに支配されている可能性に危惧を抱きながらギャラリーの外に出て空を見上げると、雲の隙間からわずかな虹色のきらめきが見えた気がした。
『Can I Believe in a Fortunate Tomorrow? – 幸せな明日を信じてもよい?- 』
開催期間:開催中〜2025年1月25日(土)
休廊日:日、月、祝、2024/12/27〜2025/1/6
開催場所:KOTARO NUKAGA 天王洲
www.kotaronukaga.com