A24最新作、世間の夢に現れたオジさんのセレブ生活から炎上への転落(⁈)『ドリーム・シナリオ』ほか【今月の映画3選】

  • 文:森 直人(映画評論家)
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今月のおすすめ映画①『ドリーム・シナリオ』
世間の夢に現れたオジさんの、セレブ生活から炎上への転落

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1995年の『リービング・ラスベガス』でアカデミー主演男優賞に輝いたニコラス・ケイジだが、やがて最低賞を競うラジー賞の常連に。しかし近年は再浮上。『ドリーム・シナリオ』ではゴールデングローブ賞ミュージカル/コメディ部門の主演男優賞にノミネートされた。

ニコラス・ケイジ演じるポール・マシューズは進化生物学の教授。地元の大学で教鞭を執り、妻やふたりの娘とともに平凡な暮らしを送っていたが、ある日突然、ポールが世界中の他人の夢の中に現れ始める――。

あの人気スタジオ、A24がまたもやユニークな快作を放った。監督はノルウェー出身のクリストファー・ボルグリ(1985年生まれ)。SNS時代の承認欲求を主題にした『シック・オブ・マイセルフ』で注目された新進気鋭だが、今作は名声の魔力をシュールに展開させ、思いがけず有名人になってしまうオジさんの数奇な運命を奇想天外に描く。絶品の不条理コメディだ。

やがて「皆の夢の中に出てくる人」としての影響力だけに目をつけたPR会社が、ポールにCM出演の話などを持ちかける。当初は自分の研究職に関係ない依頼や反応に戸惑うポールだが、まもなく事態は一変。夢の中のポールがさまざまな悪事を働き出したのだ。瞬く間に大炎上して汚名を着せられ、あらゆる場所でキャンセルの対象に。幸福だった家庭も崩壊に向かう。

セレブ生活から悪夢のような日々へ。確かに現代は誰もが自分の評判を容易にコントロールできない世の中になった。その混乱に翻弄される役として、オスカー受賞から低迷期まで波乱のキャリアを経験したニコラス・ケイジはうってつけ。『アダプテーション』なども連想させるペルソナやアイデンティティをめぐる悲喜劇に、ケイジの抜群の演技力が発揮された。

トーキング・ヘッズのライブ映画『ストップ・メイキング・センス』でデヴィッド・バーンが着たオーバーサイズのスーツに絡めたポールと妻のエピソードなど、泣き笑いの味わい。製作にはケイジ本人や『ミッドサマー』など、続けてA24と組むアリ・アスター監督も名を連ねる。

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© 2023 PAULTERGEIST PICTURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『ドリーム・シナリオ』

監督・脚本/クリストファー・ボルグリ
出演/ニコラス・ケイジ、ジュリアンヌ・ニコルソンほか
2023年 アメリカ映画 1時間42分 11⽉22⽇より新宿ピカデリーほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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今月のおすすめ映画②『ロボット・ドリームズ』
セリフがなくともグッとくる、孤独な犬とロボットの心温まる友情

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© 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

大都会ニューヨークの片隅で暮らす孤独なドッグと、彼の友達になったロボット。だが夏の終わり、離れ離れになったふたり。彼らは無事再会できるのだろうか? セリフが一切ないまま感動が押し寄せる展開は、まるでチャップリンのサイレント映画のよう。監督はスペイン出身のパブロ・ベルヘル。世界中の映画祭で絶賛され、第96回アカデミー賞の長編アニメーション映画賞ノミネートも果たした。切なくも心温まる破格の傑作アニメーションだ。

『ロボット・ドリームズ』

監督・脚本/パブロ・ベルヘル
2023年 スペイン・フランス映画 1時間42分 11月8日より新宿武蔵野館ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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今月のおすすめ映画③『動物界』
人間が動物化していく奇病が蔓延!差別や分断を描いた異色スリラー

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© 2023 NORD-OUEST FILMS - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINÉMA - ARTÉMIS PRODUCTIONS.

フランスで観客動員100万人を超える大ヒットとなり、第49回セザール賞で最多12部門にノミネートされた話題の異色スリラー。人間が動物化していく謎の奇病が蔓延する近未来が舞台。突然変異の恐怖に直面した父親と息子の絆を描く。ゾンビ映画の変奏といえるボディホラーな設定には、差別や分断、共生の難しさといった社会風刺の要素が詰まっている。独創的ビジュアルも鮮烈な進化形エンターテインメントだ。『寄生獣』とも比較したくなる。

『動物界』

監督・脚本/トマ・カイエ 
出演:ロマン・デュリス、ポール・キルシェほか
2023年 フランス映画 2時間8分 11⽉8⽇より新宿ピカデリーほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

※この記事はPen 2024年12月号より再編集した記事です。