「鏡は人を内省させる」 KYOTOGRAPHIEとのコラボによる、オリヴィア・ビーの写真展は必見!

  • 文:富田大介(明治学院大学文学部芸術学科准教授)
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アメリカの写真家オリヴィア・ビーの個展が京都で開催中だ。「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」と「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」との共同開催により、京都祇園のギャラリー「アスフォデル」にて、ビーのこれまでにない写真が展示されている。11月16日までと会期も残りわずかなため、まだ見ていない人はぜひ、この貴重な機会に訪れてほしい。

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photo: Olivia Bee(以下同)
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京都の私鉄各線の駅から近く、アクセスのしやすい祇園のギャラリーASPHODEL(アスフォデル)で、アメリカの人気写真家オリヴィア・ビーの展覧会が開かれている。この個展は少し風変わりで、ビーがここ数年撮り続けたダンスフェスティバルの写真が──インスターレーションのように──設えられている。

ギャラリーに入ると、正面の大きなモニターへ体が吸い寄せられる。その映像にはフェスティバルで踊られる作品が紹介されている。このフェスティバルは、「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル(Dance Reflections by Van Cleef & Arpels)」が催す祭典で、これまでにロンドンや香港、ニューヨークにおいて開かれてきた。今回、日本では京都と埼玉が連携し、二都市で開催。すでにフェスティバルは終盤に入ったが、10月の初めから11月の半ばまでの約6週間、おもに欧州から第一線のアーティストが集い、「いま見るべき」作品が公演されている。

さて、目をその右の壁に移せば、主催者ヴァン クリーフ&アーペルのダンスに対する考え方や、フェスティバルへの思いを窺い知れる。これまでのメセナのイメージを変える「ダンス リフレクションズ」、その推進力の源を察することができるだろう。左の壁を向くなら、そこには大きなパネルで写真展の経緯や概要が記されている。ビーの写真による本展のタイトルは、邦題で『その部屋で私は星を感じた』、英語ではI felt the stars in that room。「星」はダンサーの最高位を指す「エトワール」の意か。“star”が複数形なのは示唆的だ。

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2階にあがると、部屋の設えが劇場っぽいことに気づく。暗い舞台のなかでライトにあたるダンサー=写真たち。サイズもカラーも違う。視線を奥へと誘う強い色があったりもする。鮮やかなものも仄かなものも。濃やかなもの、荒いものも。その違いや移ろいは、私たちの「見る」という経験のうちにある時間性そのものなのかもしれない。知覚はしているけれども自覚していない、そんな光の運動をカメラは捉えている、というのか。ビーはまた、レンズのプリズム作用から生じたスペクトルや、踊りの軌道を可視化した流動性などを写真に映したりもしている──エティエンヌ・ジュール・マレーの実験的な写真を思い起こす人もいるだろう。

この2階には日本でのフェスティバルにはプログラムされていないが、ロンドンや香港で公演をしたアーティストの舞台写真も置かれている。有名なところではアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルの『Fase』(ロンドン、2022年)や、ジゼル・ヴィエンヌの『Crowd』(香港、2023年)など。新進気鋭の振付家、カテリーナ・アンドレウの『BSTRD』(ロンドン、2022年)の肖像写真にも目を留めてもらいたい。

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3階に行く階段は真っ白だ。部屋も白い。あがるや左に「大きな写真」、と思いきやそれが向かいに置かれた巨大写真の写し=鏡であることを知る。自分がそこに映っているからだ。その鏡は人を内省させる。この場にいる自分というものを見つめさせる。自身がここにおいてどういう存在なのかと。それはきっとこの部屋に写しとられた幾人ものダンサーたちが経た真理なのだろう。この部屋は(2階の)劇場舞台の裏側を伝えようとしている。稽古の時間、創作の時間、本番の舞台袖の時間etc.。ダンサーたちは、そこで自分の身体を調整したり、精神を研ぎ澄ませたり、気持ちを落ち着かせたり。

3階の部屋の写真は多様で、ダンスマットのうえに来てしまった天道虫を救おうとする──それが自然で──美しい手の写真まである。この空間に浸っていると、空へつながる天井窓にも気づき、心が次第に安らいでくる。床にカバンをおいて座っている人もいる。ラフな気持ちになると、あの最初に目にした鏡と向かいあう一枚ものの写真に近づきたくなってくる。それは外の木々に通じるイメージで、緑を背景におよそ等身大の踊り手が写しとられている。階段の脇のひとりしか通れない通路で、その被写体に我が身を重ねあわせよう。ダンサーを撮り、写真を部屋に設える人の気持ちがなんとなくわかる。

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オリヴィア・ビー『その部屋で私は星を感じた』

開催期間:開催中〜11月16日まで
会場:アスフォデル
京都府京都市東山区末吉町99-10
休館日:月曜 入場無料
www.dancereflections-vancleefarpels.com/ja/exhibition/i-felt-the-stars-in-that-room