【Penが選んだ、今月の音楽】
『72 Preludes ショパン/スクリャービン/矢代秋雄:24の前奏曲』
今年で26歳になる藤田真央は2017年にクララ・ハスキル国際ピアノ・コンクールで優勝、2019年にチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で第2位を獲得。反田恭平と並ぶ、日本人若手ピアニストの筆頭格として知られる。当初から巨匠指揮者に気に入られ、海外での演奏活動も盛んだったが、2021年11月にソニークラシカルとワールドワイド契約を果たし、録音が世界に向け発信されはじめた。
第1弾のリリースは、『モーツァルト:ピアノ・ソナタ全集』という若手らしからぬ内容だったが、ドイツの権威ある音楽賞「オーパス・クラシック賞2023」でYoung Artist of the Yearを受賞し、大評判に。現在は欧米を中心に演奏を行っており、文字通り世界の檜舞台で輝いているピアニストなのである。
そんな彼がモーツァルトに続いて世に問うたのが、『72Preludes(72の前奏曲)』という新譜。バッハに倣いながらも『24の前奏曲』という独自のアイデアを最初に実現したショパン、その影響を受けたスクリャービンと矢代秋雄の同名作を並べた独自のプログラムだ。三者三様の作品だが、藤田は各曲の個性を十分に引き立てつつ、ショパンでは24曲をひとつの作品として聴かせる構成力もあって、短い曲だろうと一瞬たりとも飽きさせない。まとめて24曲が演奏される機会は決して多くないスクリャービンでは、ショパンでは控えられていたセンチメンタリズムが爆発。それでも幼稚に聴こえないのは、藤田の清廉なピアノの音色のおかげだろう。東京藝術大学の作曲科教授だったが46歳で早逝してしまった矢代。彼が15歳で作曲した前奏曲集は2022年に初出版。藤田が19世紀の作品と続けて演奏すると、秀才というイメージの強い矢代が紛れもない天才少年だったことも痛感させてくれる。
※この記事はPen 2024年12月号より再編集した記事です。