フェラーリを手に入れるもうひとつの方法。認定中古車「フェラーリ・アプルーブド」という仕組み

  • 文:小川フミオ
  • 写真:Ferrari SpA
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フェラーリ・アプルーブドで販売するために点検・整備中の296GTB。写真:筆者

フェラーリ内部には、ちょっとした議論があるとか。新しいユーザーを増やして若返りを積極的にはかっていくべきか、昔からのユーザーを大切にすべきか……。

ユーザー側に立つと、オーナーになりたくても、フェラーリはおいそれと手に入らないブランド。そんな不満に対応しようと本社指導で始まったのが「フェラーリ・アプルーブド」だ。

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アフターセールス・マネージャーのファビオ・ニコレット氏による点検・整備の実演。写真:筆者

2024年10月、私はフェラーリ本社のあるマラネロ(ボローニャ空港からクルマで30分ほど)で、フェラーリ・アプルーブドの包括的な体験をする機会にめぐまれた。

フェラーリ・アプルーブドとは、プリオウンド(オーナーがいたクルマ)のフェラーリを対象にしたプログラム。各地のフェラーリディーラーが引き取り、本国が用意した201にわたる項目にわたって整備し、保証をつけて販売する。今回、プログラムが拡充したのがトピックスだ。

私がマラネロで見たのは、「296GTB」というモデルの点検・整備の風景。各国のメカニックを指導する立場にいる本社のメカニックが、ドライブトレイン、バッテリー、ブレーキ、といった機械類から、車体の小さなキズ(石はねなど)まで、ていねいに点検する様子を見せてくれた。---fadeinPager---

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素人では見通す小さな傷も見逃さない。写真:筆者

フェラーリを新車で注文するのは、ある意味、かなり骨の折れる作業だ。ほぼすべてがオーダーなので、たとえばシート表皮にレースカーでも使われる人工スエードのアルカンタラを、と考えると、カタログには100を超える候補が載っている、という具合。

「フェラーリ・アプルーブドは、注文の手続きが煩雑と感じている人にも向いています。購入する側のメリットは下取り車を出す側のメリットもでもあります。車両の状態がよく、私たちが用意する保証に入っていれば、下取り価格は当然高くなります」

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ヘッド・オブ・プリオウンドの肩書きをもつアンドレア・ショレッティ氏。写真:筆者

フェラーリでヘッド・オブ・プリオウンドの肩書きをもつアンドレア・ショレッティ氏はマラネロで説明する。フェラーリでは、新車から3年間はメーカー保証が付き(ハイブリッドモデルは5年間)、以降は任意で最長4年間の延長保証に加入できる(ハイブリッドは5年)。

「パワー15」という、内容がすこし簡略化されたプログラムもあり、エンジン車を対象に、エンジンを含めたドライブトレインのみが保証対象になる。こちらは4年めから加入でき最長15年。

いま、「パワー・ハイブリッド」と本国で呼称されるハイブリッドモデルを対象にした最長16年のプログラムも準備中という。2024年7月に発表されたのが、このプログラムである。

「ハイブリッドのバッテリーはユーザーが気になるところでしょう。フェラーリ・アプルーブドでは性能チェックを怠りません」とショレッティ氏。 ---fadeinPager---

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フィオラノ・テストトラックは、フェラーリの走行テストに使われている。

冒頭で私は「包括的な体験」と書いたが、今回フェラーリでは、しっかりと整備されているアプルーブドであれば所期の走りはしっかり堪能できますよ、とフィオラノ・テストラックでのドライブ体験を用意してくれた。

フィオラノは、フェラーリファンにはおなじみ。フェラーリが車両のテストに使うコースで、複雑なコーナーが組み込まれたコースを走り抜けるには、ステアリングとサスペンションを中心とした操縦性とともに、優れたブレーキ性能と加速性能が要求される。ドライバーのテクニックは言うまでもないけれど……。

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フェラーリ・アプルーブドは新車に遜色ない走りを体験させてくれる。

私が乗ったのは「SF90ストラダーレ」と「296GTB」。ともにハイブリッドモデルだ。ひとことで言って、驚きの速さ。どちらのモデルも公道で乗ったことは何度かあるものの、サーキットは初体験。

「SF90ストラダーレ」はモーターも駆動に使うので、加速力がものすごい。あっというまに速度が上がる。強力なブレーキを装備しているので、フィオラノのように、短いストレートでも時速200kmを超えるし、その先に連続して現れるカーブをこなしていくのも得意科目だ。

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前輪をモーターで駆動する全輪駆動の「SF90ストラダーレ」の加速は印象的。

「SF90ストラダーレ」は、どちらかというと快適志向のGTなる印象を持っていたけれど、超をつけてもいいような高性能のスポーツカーだと知れた。

「296GTB」は後輪駆動で、モーターが必要に応じてトルクを上乗せする。軽快な身のこなしが身上で、適度な腕前のドライバーが飛ばすには「SF90ストラダーレ」より経験を必要としそう。だんだん慣れていくのが、「296」のドライバーの楽しみと考えてもいい。---fadeinPager---

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マイルドハイブリッドのV6搭載の「296GTB」は軽快感が素晴らしい。

フェラーリ・アプルーブドで入念にチェックされたこれらのクルマは、そういうわけで、ドライブを堪能させてくれた。

フェラーリでは、ハイブリッドシステムの駆動用バッテリーも保証に含めているが、さらにその先、ずっとハイブリッドモデルに乗っていられるように、同じ規格のバッテリーを自製していくのだという。

フェラーリ・アプルーブドの特長にはもうひとつある。20年以上”良好な状態”を維持したモデルのために、「フェラーリ・クラシケ」なる、車両の公式認証プログラムが設定されている。

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20年以上良好な状態で維持されたフェラーリ車は「フェラーリ・クラシケ」認証申請の対象になる。

「車の歴史的地位を維持して売却時に価値を高めるだけでなく、オーナーは長期にわたってスペアパーツの恩恵を受け、最も権威のある公式イベントに参加できるようになります」(フェラーリHP)。これがフェラーリ・クラシケ認証のメリット。---fadeinPager---

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「クレシケ」認証がとれた自分のフェラーリをフィオラノでインストラクター付きで走れるイベントもあった。

「クラシック・フェラーリが集まるイベントを見ると、参加者はみな実に楽しそうです。そこに加わっていただくことも、フェラーリ・アプルーブドを使えば、そんなに難しくないのです。15年経った458シリーズを買って5年間維持すれば、フェラーリ・クラシケ認証に申請できますよ」とショレッティ氏。

参考までに、「296GTB」を見ると、新車のベース価格が約4,300万円で、先述したようにさまざまな仕上げをしていくので、価格はどんどん上がっていく。一方、日本のフェラーリ・アプルーブドのサイトで、このモデルをチェックすると、走行距離500kmしか走っていない23年登録の個体が4,510万円で出ている。

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マラネロのフェラーリディーラーでも「フェラーリ・アプルーブド」を扱っている。写真:筆者

ユーザーを「ファミリー」と呼ぶフェラーリの世界に入っていこうという人には、フェラーリ・アプルーブドで手に入れるクルマは、ガソリン車だろうとハイブリッド車だろうと“お値打ち”なのだ。

そういえば、マラネロの工場には「Se lo puoi sognare, lo puoi fare」なる、エンツォ・フェラーリによる文言が大きく掲げられていた。「夢みていれば叶う」といった意味だそうだ。アプルーブドの世界にも通じる言葉だと感じた。