「見えない力」をすくい取り、人の知覚をゆるやかに開く『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子 ―ピュシスについて』が開催

  • 文:住吉智恵(アートプロデューサー)
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『Piano Solo: Belle-Île』のためのスケッチ 2024年

空間にただよう磁力や電流、空気、埃、水、温度といった事象の「見えない力」をすくい取り、人が感受できるかたちに変換する作品で国際的に注目される毛利悠子。優美なグランドピアノからバケツやペットボトルまで、さまざまな素材を組み合わせたインスタレーションや彫刻は、愛嬌のあるムーヴメントとそれらが発する微かな音や光によって知覚をゆるやかに開く。

本展は、近年数多くの国際展に参加し、現在開催中のヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表に選出された毛利による国内初の大規模個展だ。空間に合わせてアップデートされる既存作品のほか、石橋財団のコレクションからインスピレーションを得た新作を展示。さらにインプロヴィゼーション(即興演奏)をキーワードのひとつに、現代音楽の実験的要素である「エラー」や「フィードバック」を組み込んできた毛利の観点で財団のコレクションを選出。モネ、マティス、クレー、ブラック、デュシャン、コーネル、藤島武二らの作品群が、動きや音を伴う毛利作品と併存することで新たな表情を見せるはずだ。

毛利はこれまで都市を複雑で曖昧なエネルギーが循環する生態系と捉え、その隅々に「はみ出してくる自然」と人間との関係を探ってきた。システムでは制御しきれない、そんな予測不能な〈バグ〉に直面した時、人は力を発揮し、副産物を生むことがある。そこには「物理的なエネルギー循環とともに、生と死の力学や祈りといった無意識レベルの筋が通っている」と彼女はかつて語っていた。

精密でありながらどこか有機的で、懸命な動きを見せる毛利の作品は、効率主義からの脱却を求められる現代社会で弛たゆまず力まず生き抜くための「微力だが非力ではない」エネルギーを可視化し、私たちを勇気付ける。

『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子̶ピュシスについて』

開催期間:11/2~2025/2/9
会場:アーティゾン美術館
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時(金曜は20時まで) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(11/4、1/13は開館)、11/5、12/28~1/3、1/14 
料金:一般¥1,500
www.artizon.museum/exhibition/detail/575

※この記事はPen 2024年12月号より再編集した記事です。