全室露天風呂つき温泉ホテル「はつはな」、箱根の山を臨むハイエンドな暮らし<前編:宿泊部屋、夕食・朝食>

  • 写真・文:一史
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山中に佇むモダンホテルの最上階のベランダにひとり。
部屋に用意されたスペシャルティコーヒーを淹れてテーブルに置き、長い時間丸いソファーに横たわってました。
自家源泉の露天風呂にときおり手を入れ、湯の温もりを確かめつつ。
ベランダの外の景色は山、それだけ。
太陽の光が消える夜になると、樹木で埋め尽くされた山は昼間とはうって変わった闇の世界に。
耳に届く音も、山の下を這う川の流れと、風呂の湯の水音のみ。
部屋の光に誘われてか、ごくたまにやってくる小さな虫たちが愛おしく思えてくるひととき。

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ベランダにいて考え続けたのは、「このホテルの魅力をブログ記事でどうお伝えしよう?」ということ。
ホテル取材に来て、自身の“思い出”にまで高まった経験は初めてでしたから。
撮った写真を並べるだけで十分とも思いつつ、ビジュアルが良すぎるので(撮影者の腕の話ではなく)嘘っぽく見えそうな気も。
実はホテル内のどこも写真を遥かに上回る魅惑の空間なのですが。

ホテル側からご招待いただいた宿泊なことはここで申し上げておきましょう。
とはいえわずかに気になる点はしっかり述べていきますので。 

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記事は前編・後編の2回にわけてお届けします。
前編の今回は「宿泊部屋、夕食・朝食」。
後編は「館内、貸切風呂、大浴場」。
まずはホテルの概要から。

「はつはな」
箱根のターミナルである箱根湯本駅から車で10分。
アクセス抜群のロケーションながら、山の中で外界と隔離された一角。
2022年に全面改装を経て再スタートしたホテル。
和モダン建築のホテルに、温泉旅館のフレーバーを振りかけたような佇まい。
35の全室が温泉風呂完備で、どの部屋に泊まっても好きなとき温泉に浸かれます。
館内には45分の時間制限で利用できる貸切風呂もあり、こちらはより贅沢な空間。
さらに大浴場も2つあり。
すべて温泉固有の匂い(硫黄臭)がなくニュートラル。
ホテル内のどこに行っても、この匂いや蒸気のムワッとした感触がありません。
詳しくは後編でお伝えしましょう。

なお上写真はエントランスの家屋で、ここが全6階の最上階になります。
平屋に見える構造は山の中ならでは。

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このホテルに向きそうな人とは?

1. 和モダンな近代建築が好き。
2. 美術館の空気が好き。
3. 親しい人とだけ、または孤独な時間が好き。
4. 大自然に憧れつつも、キャンプなどのアウトドアアクティビティは別モノと思っている。
5. どこにも行かずホテル内だけで飽きずに過ごしたい。
6. 温泉が好き、でも見知らぬ人と一緒は苦手。

はつはなには、ホテル宿泊者(と従業員)しかいません。
館内レストランやロビーを外部に開放するホテルとは異なるクローズ空間です。
宿泊者が少ない日であれば、館内で客とすれ違うこともほぼないほど。
チェックインやチェックアウト時間にロビーラウンジで顔を合わせるくらいでしょうか。
食事はレストランに行きますが、そこもすべて個室仕様。
お一人様であっても個室です。
なんというプライベート感。
わたしのように「ひとりの時間大好き人間」にはたまらないホテルです。 

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ここに掲載している部屋はわたしが一泊したハイエンドな「颯(はやて)」。
初めて部屋に入ったとき「うわっ!」と声を上げてしまったほど天井が高く、大家族が住むリビングとしても広すぎる驚きの空間。
なんとこれで2名様用ですから。
「ラグジュアリー」と位置づけられた部屋なのも納得、というか来てみないとこの迫力は実感できないと思います。
同ホテルの自慢は全室が山に面した温泉風呂つきのベランダと予想して訪れましたが、それだけではなかったんですね。
客室そのものにも強い惹きがありました。

この部屋の広さは67.45㎡で、もっとも値ごろな「コンフォート」でも43.72㎡ありますから、どの部屋でも十分に快適な広さのようです。
料金は平均概算すると一泊2食つきでひとり¥60,000〜65,000とされています。
利用する館内の施設も食事も、選んだ客室と無関係に等しいのが気が利いてます。
ただし室内の装備品にはやや違いがあり。

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和がちりばめられた内装が温泉ムードを高めます。
キッチンはありませんが、カウンター(デスク)に日本茶とコーヒーを淹れるセットが用意されてます。
お茶用に南部鉄器の急須が置かれ、ホテル自慢の茶葉も。
お湯はデロンギの電気ケトルで沸かす仕組み。
ユニークなのはコーヒー豆の手回しミルと、バルミューダの自動コーヒーメーカーがあること。
使い慣れていない人は戸惑うでしょうが、「上質な豆を時間を掛けて淹れるコーヒー体験をしてもらおう」との提案なのでしょう。
常備されたコーヒー豆も、コーヒートレンドとリンクする趣味のいいブレンド。
コーヒーセットはラグジュアリールームだけの装備品です。

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宿泊してほぼ一日をここで過ごし、“体験”が至るところに息づくのが、はつはなの大きな特徴と感じました。
館内を巡っているだけで「あっ、これ楽しい!」と心がザワつく仕掛けがたくさん。
周囲にコンビニすらない隔離されたエリアですから、退屈せず誰もが巣ごもりできる工夫が欠かせないのでしょう。
詳細はこの記事の後編にて。

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この風呂つきベランダと景色が素晴らしすぎ!
客室ではほとんどの時間をここで過ごしました。
昼は樹木を眺めているだけで、夜は闇に包まれ寝転ぶだけで時間が過ぎていきます。
カフェ好きなもので、淹れたコーヒーを側に置いてひとりだけの貸し切りカフェと洒落込みました。

湯がいっぱいになった風呂がすぐ側にある、その安堵感って凄いですね。
火が燃えるストーブでも暖炉でもなく、ここには湯がある。
水に和む気持ちって、人体の60%が水分であることと無関係ではない気がします。
夜の外気温が14度ほどのこの日、どれほど身体が冷えても心配ない思いが深いくつろぎを生み出していました。


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ベランダのすぐ後ろはシャワールーム。
メインの部屋にも直接入れますが、こちらから室内に行ってもOK。
温泉で身体を温めここでより清潔にする流れです。

ここでしばし閑話休題。
下写真はこの箱根旅での自身の服装です。
こんな格好でソファーにずっと寝転んでました。

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雨が降る日に山にきて、しかし泊まるのは上品な高級ホテル。
動きやすくストレスない格好で、でも都会的でもアウトドアでもない服が合いそう。
なんかすごく迷いましたね。
難しくないですか!? こういうシチュエーションの装いって。

帽子とシューズは防水仕様。
パンツは山穿き対応でデザインされた、ここ1年愛用中のシャカパン。
服装の色が全身黒だと街っぽくなると思い、ベージュ系を足して自然界とリンクさせてみました。
いかがですか??

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次にお届けするのは、巣ごもり宿泊での大きな楽しみである夕食と朝食。
後述しますが、ラウンジで提供される菓子を除き、館内には好きなタイミングで食事できる場所や用意がありません。
レストランでの2回の食事こそが、温泉と景色と並ぶここの3大エンターテインメントでしょう。

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まずは夕方からの夕食から。
お一人様でも個室。
後ろのドアも閉まったプラベート空間。
2名用の部屋は向かいが山を臨む窓です。
ただ夜は真っ暗……。
一瞬残念に思ったものの、いまどきライトアップしない手つかずの自然って貴重ですよね。
室内灯の照らし方が良好なのか、ガラスに思いっきり自分の顔が反射した記憶もなく。
鏡に向かって食べるような落ち着かなさは感じませんでした。

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レストラン「はなゑみ(はなえみ)」が提供するのは、宿泊料金に含まれるコース料理のみ。
夕食はスタンダード、はなゑみ、はなゑみスペシャルの3コースがあり、ここでははなゑみを選択。

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前菜だけでテンション上がるビジュアル。
食材、味、食感、色彩、すべてがバラエティ豊か。

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刺身盛り合わせはさらにゴージャス。
海外客が喜びそうな華やかさ。
口直しのレモンジュレのゼリーが添えられてたり、味変も楽しめました。
スタッフさんから右端のカツオに合うと説明された漬けだれで食べたらホントに美味しくて、「このタレ買って帰れないかな」と思ったほど。
提供された料理はすべて、こうしたタレやソースを含む味付けがとても魅力的でした。
素材も上等なのでしょうが、正統派だからこそ舌が感じるちょっとした風味が驚きを生みますよね。
その意味でも心楽しく食べ進められました。

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メインを肉と魚から選べ、事前に魚を希望していたらなんと伊勢海老!
秋の葉が添えられた、海の幸と山の景色を調和させる料理。
添え物もおいしいですし、ゴロッとたっぷりな海老の身にかぶりついている頃にはかなりお腹いっぱいに。

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途中で松茸のお椀も挟みつつ、最後に出てきたのがシメのご飯セット。
「いやもう、舌もお腹も満足なんですが」と思いつつ、日本の素朴な風情漂うセットを見たらたまらなくなり、気づいたら味噌汁も漬物もすべて平らげていました。

満腹なときにスイーツを食べることを「甘いものは別腹」と言いますが、人は本当に好きな食べ物を見ると胃が運動して隙間が空くらしいですね。
リアルに別腹が存在すると。
このときのわたしもそんな別腹だった気がします。
夕食後に朝食を食べたような豪勢な食事体験でした。

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さらにデザートまで(本来の別腹品)。
黒糖ムースと果物の、ビタミン補給。
メロンもシャインマスカットも上質だったなぁ。

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白木のオリジナル箸を持ち帰れるサービスも。
同ホテルを運営する小田急リゾーツ全体がSDGsに取り組んでいることの一環のようです。
先端が美しく細くなった上品な白木箸。
家で使っていても、ほのかに杉の木の香りがしていい気分です。
宿泊の思い出がいまも身近に。

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景色も味わうなら朝食が最高です。
食後に朝風呂に浸かるのもよし、浸かってから食べるもよし。
夕食と同じレストランでの提供です。

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予想を覆すゴージャスな和食!
「本日は昼食すっ飛ばしてOK」な量です。
温かな豆腐から生野菜に至るまで、つい行儀悪く迷い箸をしてしまいます。
でも完全個室だから好きなように食べてよし。

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重の蓋が箱根の伝統産業の寄木細工。
表面の貼り合わせでなく各パーツの立体が組まれた本格仕立て。
館内では各所で寄木細工を見られますので、訪問のさいは気にしてみてはいかがでしょう。

さて、今回の記事もそろそろ終了です。
この前編のあとは、館内全体を紹介する後編に続きます。
とその前に、食事システムそのほかサービスについて少し気になったことを言及しておきましょう。

はつはなは、11時(チェックアウト)〜15時(チェックイン)までほぼ空洞化します。
レストランは閉まってますし、カフェもありません(フリードリンクと菓子提供のラウンジも機能せず)。
この時間帯に客が館内にいることがないとの想定なのでしょう。
長期滞在の人が昼食を食べたいと思ったら、自家用車がないならタクシーや送迎バスなどで箱根湯本駅に行くか、食事処を探しに出かけねばなりません。
(事前オーダーによる部屋出しの弁当やおにぎりのサービスはあり)
夜のルームサービスもなく、近隣に軽食を買えるコンビニやスーパーがないことは客が頭に入れておくべき点。
(事前オーダーによる夜食おにぎりサービスはあり)
もっとも夜中に空腹にならず昼食もいらないほど、夕食と朝食の分量が多かったですが。

部屋に歯ブラシ、ひげ剃り、コーム類のアメニティがないのも知っておかないと困ることになります。
ゴミ削減を含むSDGs観点と説明されましたが、電力を含むコストと資源の余剰が膨れ上がるホテル経営でアメニティでの実現は微々たるものでしょう。
客もそこは承知で贅沢を味わうため泊まりに来ているはず。
「自分たちは取り組んでますよ」のアピールになるとしても、他のホテルと違い近隣に買える店がないここではちょっと違和感を感じました。
知らなかった客が「歯ブラシ持ってきてない!」と焦ったらどうすればいいのか疑問に思いました。
(チェックイン時にスタッフがアメニティ持参を確認し、持ってない人には提供するそうです)

間違いなくここはラグジュアリーな体験ができるホテルです。
とはいえサービスが過剰気味ないわゆる「ラグジュアリーホテル」とは方向性が異なるかもしれません。
サービスが限られるからこそ、コテージを借りるように積極的に施設を利用して“暮らす”場所。
ご自身が宿泊に求める条件と合致するなら(わたしのようにコーヒーを自分で淹れるのが好きとか)、笑顔の非日常に包まれる時間になるでしょう。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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