繊細な手仕事やディティールの奥深さなど、腕時計と共通する点も多いシューズの世界。ハンドメイドのレザーシューズを主に手がける靴職人4名に、こだわりの愛用腕時計を紹介してもらった。名作ヴィンテージから意外な(?)カジュアル時計まで、彼らのスタイルが表れた4本が揃う。
Pen 2024年12月号の第1特集は『100人が語る、100の腕時計』。腕時計は人生を映す鏡である。そして腕時計ほど持ち主の想いが、魂が宿るものはない。そんな“特別な一本”について、ビジネスの成功者や第一線で活躍するクリエイターに語ってもらうとともに、目利きに“推しの一本”を挙げてもらった。腕時計の多様性を愉しみ、自分だけの一本を見つけてほしい。
惹かれるのは、「船窓」のモチーフ
埼玉県蕨市と東京都六本木に、靴のリペアとオーダー靴の製作を行う工房、グレンストックを構える五宝賢太郎。革靴からスニーカー、サンダルまで履物ならなんでも仕立て、修理する靴職人だ。そんな五宝が愛用するのはエルメスの「クリッパー」。腕時計に限らず、同じ職人としてエルメスのものづくりに尊敬の念を抱くという。
「クリッパーが誕生したのが1981年で、僕も81年生まれ。運命的な出会いを感じました」
クリッパーの名前は19世紀に世界の大海で活躍した大型帆船に由来。ビスが施されたベゼルや円形のケースは「船窓」を想起させる。
「僕は額縁が好きなんです。枠に制限された装飾やディテールが好き。だから客船の窓から連想されたというこのデザインに惹かれます。またこの時計のプロダクトとしての高い完成度と面白さはさすがエルメスだなと思います」
五宝はこの時計を自ら考案した迷彩柄の阿波和紙のベルトに替えて使っている。紙漉きから製作まで、すべて自作。さすが職人だ。
HERMES / エルメス「クリッパー」
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創作を触発する、潔いオールホワイト
こだわりの素材を英国仕込みの確かな製靴技術で、上質でモダンな一足へと仕上げる勝川永一。推薦するのは意外やカジュアル時計の代名詞、スウォッチだ。
「機械式も好きで数本所有しています。靴でも、伝統的な革靴も先進機能を搭載したスニーカーも好き。あらゆるプロダクトに歴史と技術があり、それがデザインに包括されている。そんな視点で双方を使い分け、楽しんでいます」
6、7年前の誕生日に友人から贈られたこの時計。消費されがちなカジュアル時計だが、いまなお勝川のお気に入りだという。
「クロノグラフを搭載しながらもきわめてミニマルなデザイン、しかも多彩なカラー使いが特徴的なスウォッチにして、視認性を無視した白一色の潔さもいい(笑)」
勝川のコレクションには白が多く用いられ、普段のコーディネートにも白を多く用いるのだとか。
「主張せず、強い印象も与えないだけに、すべての色と調和する。デザイン的な余白も大きく、私の創作には欠かせない色です」
SWATCH / スウォッチ「SUSW400」
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本気で遊ぶ、自分のための時計づくり
「自分が着けたいと思う時計をつくりたかった」というピュアな想いからシューズデザイナーの手嶋慎が手掛けたのが、国産ブランド・ヴァーグウォッチとのコラボモデルだ。3代目の「BLINKER」は、以前所有していた最後の空冷モデル、「ポルシェ993」の計器をモチーフにしている。インデックスの数字や針はメーターから型を起こし、文字盤外周には回転計同様にレブリミットをデザインした。
「ベルトには自分の靴にも使っているカーフレザーのいいところを切り出して、ドライビンググローブやハンドルのようにパンチング加工を施しました」
自身の趣味を惜しげもなく反映しているが、意外にも腕時計のデザインが靴づくりにフィードバックされることはないという。
「それを考え出すと、遊べなくなってしまうと思うんですよね」
しかしこのベルトは、ラグジュアリーブランドも採用する最高級のレザーである。遊びでつくる時計にも本気で挑む、手嶋のものづくりへの矜持がにじむ一本だ。
VAGUE WATCH CO. / ヴァーグウォッチカンパニー「ブリンカー VW-03」
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ブランド開始からともに歩む、分身のような存在
「1950年代に数年しか製造されなかったという防水機構『スーパーオイスタークラウン』が搭載された希少なモデルです。70年以上の時を感じるやけたエイジングの風合いや、文字盤のクリーム色をベースに、くすんだネイビーの秒針とベゼルに用いたイエローゴールドという絶妙な色の組み合わせに惹かれました」
そう言って愛用する腕時計に目を落とす、シューズデザイナーの金子真。収集欲はなく、腕時計は本当に気に入ったものを長く使い続けるという金子だが、高額なこともあり、購入するのは人生の転機を迎えるような時だと語る。
「この時計を購入したのも、ブランドを立ち上げた7年前のこと。以前からこのモデルを気に入り、ずっと探していたのですが、これからさらに頑張らなければならないと決意を新たにした時期にヴィンテージショップで発見しました。これ以上ないタイミングだと思い、迷わず購入したんです」
金子がデザインするシューズは、洗練のフォルムに表れるモダンな気品と靴好きも唸らせる上質なつくりに定評があるが、どことなく漂うクラシカルな雰囲気もファンを魅了する要因だ。
「私の靴は現代的なニュアンスを採り入れつつも、原点には伝統的なスタイルがあります。オイスター パーペチュアルも腕時計における普遍的なモデルであり、その背景にも敬意を込めています」
この時計は自分の分身であり、手放す時は誰かにブランドを預ける時だと語る金子。誕生から70年以上を経てもなお輝くこの時計は、今後もカルマンソロジーの発展とともに時を刻み続けていく。
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