THE FIRST TAKEから東京五輪の動くピクトグラムまで。1秒の画づくりにこだわる映像クリエイターたちの愛用時計

  • 写真:池田佳史、舛田豊明、丸益功紀(BOIL)
  • 文:青山 鼓、石川博也
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限られた時間の中で一瞬を映し出し、作品をつくることに情熱をささげる映像クリエイター。普段彼らが愛用する腕時計にはどんなこだわりがあるのか。第一線で活動を続ける4人に話を訊いた。

Pen 2024年12月号の第1特集は『100人が語る、100の腕時計』。腕時計は人生を映す鏡である。そして腕時計ほど持ち主の想いが、魂が宿るものはない。そんな“特別な一本”について、ビジネスの成功者や第一線で活躍するクリエイターに語ってもらうとともに、目利きに“推しの一本”を挙げてもらった。腕時計の多様性を愉しみ、自分だけの一本を見つけてほしい。

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はじめてのシルバーカラーに、愛着が湧く瞬間

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米倉強太映像作家。1994年、栃木県生まれ。映像作家。モデル活動を経て、大学在学中に映像制作会社office sankaiを設立。グッチやユニクロなどさまざまなブランドの広告映像をディレクションする。

「2020年に、2回目の結婚記念日に妻からもらった時計です」

ファッションモデルとしても活躍していた映像作家の米倉強太は、身に着けるものへのこだわりは強い。彼の時計は1971年製のオメガ「コンステレーション Cライン」。名デザイナー、ジェラルド・ジェンタが手掛けた作品のひとつだ。

「自分で買う時計はいままで絶対にゴールドでした。肌の色にシルバー色は似合わないと思っていたのですが、いつからか自然に馴染んでいて。自分の価値観が変わっていくことに面白みを感じています」

ラグとひとつになった大ぶりのケースにタフな印象を持ち、安心感があると語る米倉。

「1960年代のアルファロメオのジュリアというクルマを持っているんですが、こいつが出先でけっこう壊れる(笑)。エンジンルームに手を突っ込んで修理するのですが、その時も時計を着けたまま普通に作業していますね」

トラブルのたびクルマに愛着が湧くと同時に、時計とのつながりも築かれているのだ。


OMEGA / オメガ「コンステレーション Cライン」

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受け継がれた物語が、腕時計の価値になる

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国山ハセン●映像プロデューサー。1991年、東京都生まれ。元TBSアナウンサー。退社後の2023年からは『PIVOT』の映像プロデューサーとして、ビジネススキル向上に役立つ学びに特化したコンテンツを制作する。

TBS系報道番組でキャスターを務めるなどアナウンサーとして活躍した国山ハセン。2023年からはビジネス映像メディア『PIVOT』のプロデューサーに就いた。

「秒刻みで時間を管理することが仕事なので、腕時計は常に着けます。時計との原体験は父との思い出。着けているものを子どもの僕に自慢するほど時計好きだったんです。スーツにきれいな靴やドレスウォッチを合わせたスタイルはかっこいいなと思っていました」

そんな父の形見である腕時計がオメガの「デ・ヴィル」だ。

「大きな舞台で司会をする時など、今日は勝負の日だという時はいつもこれを着けます。朝、時計を手に取った時には父と対話をしているような気持ちになります。その積み重ねでストーリーが生まれてこの時計だけの価値になっていくのは面白いと思いますね」

憧れは、カルティエの「タンク」。いつか妻と一緒に着けたいという。日々の小さな物語の蓄積に尊さを感じる国山は、腕時計も家族も永く大切にするだろう。


OMEGA / オメガ「デ・ヴィル」
 

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背伸びを悟られたら負け、漢気で選んだ腕時計

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長山一樹●写真家。1982年、神奈川県生まれ。ファッションや広告撮影をはじめ、YouTubeの大ヒットコンテンツ『THE FIRST TAKE』には撮影監督として参加。撮影機材はハッセルブラッドを10代の頃から愛用している。

「この一本とは偶然出合いました。100万円を超える時計を購入するのは初めてで、ためらいながらも思い切って買いましたね。

雑誌や広告、YouTubeの『THE FIRST TAKE』など、さまざまなメディアで活躍するフォトグラファー、長山一樹。スーツにハット姿のスタイルにもこだわりを持つ彼がパテック フィリップの「カラトラバ 3919」を購入したのは2016年。セレクトショップのヴィンテージウォッチコーナーだった。

「スーツで撮影するスタイルがやっと馴染んできた頃でした。時計は袖にかからない薄さが大事。時計を着ける左手は、右手と袖口のサイズを変えるくらいオーダーでシャツも調整していましたし」

腕時計を手首に載せるとサイズはぴったり。そして自然と気が引き締まったと振り返る。

「スーツを着ることもそうですが、若い自分なりに頑張って買ったところもありました。でも、気負いがバレたら負け。男としての成長をゲーム感覚で楽しむ、そんな遊びのひとつがこの時計でしたね」


PATEK PHILIPPE / パテック フィリップ「カラトラバ 3919」

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遊び心のある仕掛けで、気分をコントロール

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井口皓太●映像デザイナー。1984年、神奈川県生まれ。2013年にクリエイティブアソシエーションCEKAIを設立。動的なデザインを軸に、モーショングラフィックスや実写映像監督などで活躍している。

2021年の東京オリンピック・パラリンピック開会式で大会史上初の「動くピクトグラム」を制作した映像デザイナーの井口皓太。本番半年前から緊張を強いられていたという。そんな大仕事をやり遂げた記念に購入したのが、ルイ・エラール×アラン・シルベスタインの腕時計。スペシャルボックスに入った3本セットだが、そのうちデイト表示があるモデルが大のお気に入りだという。当時「自分が気に入った時計が見つかるまでは腕時計を着けない」と決めていた井口にとって、絶好のタイミングで出会えた初めての腕時計だった。

「仕事では幾何図形を動かすことが多いので、腕時計も図形的なものやグラフィックデザインの延長で時間を表現したものを探していた時にこの時計を見つけました。アラン・シルべスタインは僕が大学の時に勉強していたバウハウスの理念をもとにデザインを行っているところも魅力だなと」

特徴的な針はもちろん、丸みを帯びた四角形に円柱が美しくはまっているケースデザインなどに惚れ込んだ。特に「スマイルデイズ」と呼ばれるユニークな曜日表示が気に入っているポイント。

「顔のイラストの表情で曜日を表現していて、月曜日はガッカリした顔で週末に近づくに連れ毎日少しずつ笑顔になっていくんです。プレゼンなど緊張する場面では笑顔にしたり、冷静になりたいと思ったら、キリっとした顔を選んだり。その時の気分や自分のモードに合わせて、チューニングできるところも好きですね」

デザイン性に優れ遊び心のある一本はこれからも彼のクリエイティブを支えてくれることだろう。


LOUIS ERARD × ALAIN SILBERSTEIN / ルイ・エラール × アラン・シルべスタイン「チャプター2」

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『100人が語る、100の腕時計』
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