東京都写真美術館にて開催中の『アレック・ソス 部屋についての部屋』。写真家、アレック・ソスの30年の歩みを単に振り返るだけでなく、部屋をテーマにソスの作品を6つのセクションから編み直す同館オリジナルの展覧会だ。見ておきたい5つのポイントとは?
部屋を重要なテーマとするアメリカの写真家、アレック・ソスの活動
1969年、アメリカ・ミネソタ州ミネアポリスに生まれ、現在も同地を拠点に活動を続けるソス。2004年より国際的な写真家集団「マグナム・フォト」に参加し、生まれ育ったアメリカ中西部などを題材とした作品で、世界的に高い評価を受けてきた。若い頃からソスはアメリカ国内を車で旅しながら、風景や出会った人々を大判カメラにて撮影。一方で世界各地のさまざまな人々を訪ねつつ、その人が日々を過ごす部屋の中で、ポートレイトや個人的な持ち物を写してきた。被写体は人物、風景、静物とさまざまだが、ソスにとって駆け出しの頃から内部空間、つまり部屋が重要なテーマだと考えていたという。
ミシシッピ川の流域を旅しながら、部屋の中でそこに暮らす人を撮影する
似たような広さの6つの部屋にて構成された本展。最初の部屋では〈Sleeping by the Mississippi〉を中心とした初期のカラー作品が展示されている。同シリーズは全長約3780キロメートルにも及ぶミシシッピ川の流域を旅しながら撮影したもの。あちこちを訪ねながら人と出会い、家に招かれつつ、部屋の中でレンズを真っ直ぐ見返す人物の姿を写している。ここでソスが心がけていたのは単なるドキュメンタリーとして写真を残すのではなく、イマジネーションを感じ取れるような作品を生み出すことだ。着ている服やベッドカバー、また写り込んでいる写真などによって、被写体の人となりが垣間見えるのも魅力といえる。---fadeinPager---
社会とは距離を置き、人と離れた場所で生活する人々を写し出す
2つ目の部屋の〈Looking for Love〉とは、1996年頃に撮影されたモノクロの作品だ。当時20代半ばだったソスは、住んでいたアメリカ中西部にて、バーで偶然に出会った人や高校の卒業を前にしたダンスパーティーなどを撮影。そこには結婚式の後に自らの姿を撮影した、若き日のセルフポートレイトも混じっている。また3番目の部屋の〈Broken Manual〉とは、社会とは距離を置き、人とは離れた場所で生活する人々をテーマとした作品だ。彼らの住んでいた廃屋や洞窟に残された生活の痕跡が、他のシリーズのポートレイトと同様に人の存在を強く意識させる。
東京を部屋の中に手繰り寄せる、ソスが来日中に撮影した写真とは?
2015年、『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』の「Voyages」と題した特集号の企画にて、新宿のパークハイアット東京に滞在したソス。同ホテルを舞台にした映画『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)に着想を得ると、インターネットで探した茶道家やアイドルグループなどのゲストを部屋に迎え、その様子を撮影していく。自らが街へ出て異国の文化を知るのではなく、いわば東京を部屋の中に手繰り寄せようとしたユニークな作品だ。また静謐な部屋と被写体から醸し出される親密さが魅力の〈I Know How Furiously Your Heart is Beating〉も、部屋をテーマとする本展が生まれるきっかけとなった重要なシリーズとして見逃せない。---fadeinPager---
無数の部屋が紡ぎ出す、ひとつとして同じものがない物語
2022年から今年にかけて、アメリカの美術学校を舞台にした最新作〈Advice for Young Artists〉を手がけるソス。中には《Still Life II》のように作家本人の姿が小さく写る作品も見られるが、ソスは「アーティストとして見られたいけど、見られたくない。歳を重ねたいま、学生のスタジオに入って若い頃の自分を追体験しながら、なぜ写真家になったのかを問い直したい」と語っている。ソスが30年に渡って写し続けてきた無数の部屋が紡ぎ出す、ひとつとして同じものがない物語を、展示室の中に作られた6つの部屋を歩きながら感じ取りたい。
『アレック・ソス 部屋についての部屋』
開催場所:東京都写真美術館 2階展示室
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
開催期間:開催中〜2025年1月19日(日)
http://www.topmuseum.jp/