デザイナー独自の審美眼が光る! ファッション業界のトップランナー5人が語る腕時計の“着こなし”方

  • 写真:宇田川 淳、正重智生(BOIL)、丸益功紀(BOIL)
  • 文:青山 鼓、倉持佑次、佐野慎悟、篠田哲生
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自らのセンスや感性でさまざまなアイテムをつくり出すデザイナー。ファッション業界でトップを走る5人に、どのように腕時計を選び“着こなし”ているのか、話を訊いた。

Pen 2024年12月号の第1特集は『100人が語る、100の腕時計』。腕時計は人生を映す鏡である。そして腕時計ほど持ち主の想いが、魂が宿るものはない。そんな“特別な一本”について、ビジネスの成功者や第一線で活躍するクリエイターに語ってもらうとともに、目利きに“推しの一本”を挙げてもらった。腕時計の多様性を愉しみ、自分だけの一本を見つけてほしい。

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“なぜ好きか” を語れる、そこに腕時計の価値がある

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相澤陽介●ファッションデザイナー。1977年、埼玉県生まれ。コム・デ・ギャルソンを経て2006年にホワイトマウンテニアリングをスタート。ファッションブランドや企業とのコラボレーションも手掛ける。

日本を代表するブランドのひとつ、ホワイトマウンテニアリング。デザイン、実用性、技術を集約した服は世界的に人気を集める。デザイナーの相澤陽介が腕時計に魅せられたきっかけは、10年ほど前。イタリアのファッションブランドの担当者が運転するクラシックカーの助手席で、薫陶を受けた。

「海外ブランドと仕事をする時に顕著に感じるのが、まずは『なにが好きなのか』という話から入ること。ファッションとクルマ、時計は男性のライフスタイルを語る上で欠かせません。これから先のキャリアを重ねていくには、自身の趣味性が見える時計に意識を向けることが必要だと気づきました」

そんな彼の愛用時計はパテックフィリップ「ゴンドーロ 5109G」。2003年のモデルで、1920年代のレクタンギュラー形ウォッチから着想を得てつくられたものだ。

「取締役会や記者会見に出ることもあるので、堅いシーンによく着けます。ホワイトゴールドのレクタングルケースが、要素をそぎ落としたソリッドなデザインで美しい。時計もデザインも目立たせるのは簡単ですが、控えめに自己主張させるのが難しい。一見シンプルな黒とシルバーのみで存在感を放っているのが素晴らしいですね」

パテック フィリップには多くの傑作があるが、その中で「ゴンドーロ」は知られざる存在。人気があり値段が高ければいい時計、とは思っていないとも語る。そこに相澤流の時計選びの指針がある。

「自分がたくさん語れることが大事です。それだけいろんな面を持っているということですからね」


PATEK PHILIPPE / パテック フィリップ「ゴンドーロ 5109G」

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自由に遊ぶ、腕時計の“ 着こなし” 方

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西野 大士●ファッションデザイナー/PR ディレクター。1983年、兵庫県生まれ。ブルックス ブラザーズを経て、PRに携わりながら2015年にはパンツ専業ブランド、NEATを立ち上げる。現在でも国内外20以上のブランドのPR業務を担う。

「それタンクですか? とよく言われます。似ているけど違うし、実はタンクより歴史があって、ひねりが効いたところが好きです」

そう笑うファッションデザイナー、西野大士がカルティエの「サントス- デュモン LM エキストラフラット」を入手したのは2015年。

「いまでこそ時計はたくさん持っていますが、大人になって初めての高級時計でした。ブルックス ブラザーズで働いていた頃に先輩がスーツにパテック フィリップを着けていて、いつか自分もいい時計が欲しいと思っていたんです」

そんな経験もあって、西野が好むのは小型で薄いドレスウォッチ。ただ、着け方は非常に自由だ。

「基本的にこの時計は、かなりカジュアルな格好に合わせます。たとえばTシャツやトレーナーとか」

自らを天邪鬼だとも語る西野。あえて逆の印象の服と時計を合わせ、ファッションを楽しんでいる。

「靴や時計は専業ブランドを選びたいという考え方ですが、カルティエはそこを超えてくる装飾品としての魅力がある。尊敬しますね」


CARTIER / カルティエ「サントス‐デュモン LM エキストラフラット」

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アイウエアづくりに活かす、緻密デザイン

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今泉 悠●アイウエアデザイナー。1983年、茨城県生まれ。福井県鯖江でアイウエアづくりを学び、2010年にayameを設立。今年、国内2号店となる旗艦店「ayamerow」を東京・南青山にオープン。自社以外の製作も手掛ける。

ロレックスを長年愛用していたアイウエアデザイナーの今泉悠。しかし現在は、2021年に購入したパテック フィリップの「ノーチラス 3800/1A」一択だという。

「 お世話になっている石川県加賀市の時計専門店、エンツォショップさんから、パテック フィリップが気になっているタイミングで連絡があって購入を決めました」

この時計は希少なモデルかつ今泉が好む37㎜径。角のある腕時計は初めて手に入れたが、デザインの完成度の高さに驚いたという。

「スクエアのケースは存在感が強すぎるものが多いイメージでしたが、これは八角形の幅広のベゼルと小径の文字盤のバランスで品よく控えめに収まっている。デザイナーとしてすごく勉強になります。面取りした縁の鏡面仕上げ、ヘアライン仕上げで演出する質感の変化、細かなディテールが凝縮されている点が素晴らしいです」

まるでアートピースと呼んでもいいプロダクトだと語る今泉。アイウエアづくりに、さぞ影響を与えていることだろう。


PATEK PHILIPPE / パテック フィリップ「ノーチラス 3800/1A」

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語れる文脈が、コレクター心をくすぐる

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尾崎雄飛●ファッションデザイナー。1980年、愛知県生まれ。セレクトショップのバイヤーやフィルメランジェのディレクターを経て、2012年サンカッケーを立ち上げる。YouTubeチャンネル『尾崎雄飛の洋服天国』も人気。

心躍るディテールやデザインで彩られた、ハレの日に着ていきたくなるような良質な服を手掛けるサンカッケー。古着や軍物にも精通するデザイナーの尾崎雄飛は、ブランパンのダイバーズウォッチ「フィフティ ファゾムス」が好きで、年代やデザインの異なる4本をコレクションしている。

「諸説ありますが、初代のフィフティ ファゾムスはロレックスの名作、サブマリーナより1年早い1953年に発売されて、サブマリーナに影響を与えたと言われていますよね。70年ほどの歴史の中で、ダイヤルのバリエーションが無数にあって、サブマリーナに比べて完成されていないデザインが魅力。仏軍、米軍、独軍に納品されてきた実績もあり、ファッション文脈的にも語れることが多くあってお洒落な時計だと思います」

所有する4本のうちいちばんのお気に入りは、行きつけの時計店で入手した「フィフティファゾムス ノー ラディエーション」。

「1960年代半ばに登場した時計で、特にドイツ海軍の潜水戦闘機部隊が使用したそうです。フィフティ ファゾムスといえばこれ!というモデルであり、少し大きなベゼルや長めのラグなどアンバランスな部分もありながら、全体で見ると調和の取れたデザインだと思います。文字盤にラジウム入り発光塗料が未使用であることを示すマークが記されているところも、よい違和感があって面白い。カジュアルな服装に合わせるだけでなく、スーツにこの時計を着けて、ジェームズ・ボンドっぽく楽しむこともありますね。もちろん、軍物のパンツやジャケットとの相性は抜群です」


BLANCPAIN / ブランパン「フィフティ ファゾムス ノー ラディエーション」

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用と美が融合する、デザイン哲学に共鳴 

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アルベルト・ブレーシ●ファッションデザイナー。1977年、イタリア・パドバ生まれ。ハイドロゲン創設者。スニーカーブランド、オートリーを手掛けるほか、2023年から自身の名を冠したブランド、アルベルト ブレーシをスタート。

「18歳の時に父からもらったロレックスのGMTマスターが、最初に手にした本格的な時計でした。腕時計は男性にとって、美しさと実用性を兼ね備えた唯一のアクセサリーだと思います」

そう語るのは、イタリアのファッションデザイナー、アルベルト・ブレーシ。彼が選んだのは、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク オフショア ダイバー」だ。シンプルなフェイスデザインに惹かれ、10年前に購入した。

「私はデザイナーとして、常に機能性と美しさの融合に挑戦しています。この時計は、まさにその理想を体現している。300mの防水性能を持ちながら、優雅さを失わない。このバランスが、私のデザイン哲学と重なるんです」

お気に入りの時計ブランドは数多くあるが、オーデマ ピゲには特別な思い入れを持っている。

「他のブランドにはない独特の存在感がありますね。特にこのモデルは、スポーティでありながら洗練された雰囲気を持ち、私の日常にぴったりなんです」


AUDEMARS PIGUET / オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク オフショア ダイバー」

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