話題のアーティスト、YOSHIROTTENとは何者か? 多様な作品群とこれまでの歩みを徹底解説

  • 写真:池満広大
  • 文:照沼健太
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デジタル感あふれる作風で多くの一流企業やブランドと協業するYOSHIROTTEN(ヨシロットン)をご存じだろうか? 現在に至るまでの多様な作品群と、その歩みを紹介しよう。

Pen 2024年12月号の第2特集は『YOSHIROTTENとは何者か?』。デジタル感あふれる作風で多くの一流企業やブランドと協業するYOSHIROTTEN。しかし、彼のこれまでの歩みや交友関係、影響を受けたカルチャーなどについて詳細に記された文献は意外にも少ない。今特集では、初期作品や根底にあるビジョンを深掘りし、知られざる側面にも光を当て紐解いていく。

Pen 2024年12月号(10月28日発売) ¥990(税込)
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YOSHIROTTEN ●アーティスト

1983年、鹿児島県生まれ。ファインアートから商業美術、都市文化から自然世界まで、幅広い領域を往来する。多くのブランドやミュージシャンのアートディレクションも担当。クリエイティブスタジオ「YAR」を率いて多様な仕事を手掛ける。

 

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生い立ちや学生時代の原体験に育まれた、領域を越境したクリエイション

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ヨシロットン ●アーティスト
1983年、鹿児島県生まれ。ファインアートから商業美術、都市文化から自然世界まで、幅広い領域を往来。ブランドやミュージシャンのアートディレクションも担当。クリエイティブスタジオ「YAR」を率いて多様な仕事を手掛ける。

アートとデザインの違いは、どこにあるのか? この問いを解くヒントは安土桃山時代の「琳派」や19世紀イギリスの「アーツ・アンド・クラフツ運動」など歴史に見出すことができるだろう。しかし、2024年を生きる私たちは、ヨシロットンの創作からその“気づき”を得られるはずだ。

高級ブランドから大物ミュージシャンまで、引く手数多のアートディレクターであると同時に、国内外で活動するアーティストでもあるヨシロットン。あらゆるメディアが並行宇宙的に展開される現代を象徴し、新たな時代をリードする人物だといえる。

1983年に自然豊かな鹿児島・大隅半島で生まれたヨシロットンは、中高生の頃に音楽とファッション、スケートボードに夢中になった。なかでもパンクカルチャーからの影響は表面的な意匠にとどまらず、根底にあるDIY精神は彼の経歴に一本筋を通す重要な要素となっていく。

上京後はデザインの学校に通いながら、「音楽に携わりたい」とレコード会社のデザインセンターでインターンを始めた。そこでの出会いから、デザイン会社に入社。5年間にわたり、グラフィックデザイン、タイポグラフィー、アートディレクションを働きながら学び、夜には当時隆盛を誇っていたエレクトロを中心としたクラブイベントの運営やDJ、また自らの作品としてのZINE制作を行った。こうした表現方法やフォーマット、さらに「クライアントワーク」「自己表現」というフレームを越境したクリエイションは、現在のヨシロットンにつながる活動といって間違いない。

自己表現からつながった、海外のクライアントワーク

実際、ヨシロットンのキャリア初期における重要作、アメリカ・ニューヨークのエースホテルのウォールアートは、日頃持ち歩いていたポートフォリオがきっかけとなって生まれた。ZINEに収録されたグラフィック作品がもととなり、個人的なアート作品をクライアントワークに転用したという点でも、その後のキャリアを予見した仕事だったといえる。

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ウォールアート フォーエースホテル ニューヨーク(2010年)
ホテルの一室を飾るタイポグラフィ。“NEGATIVE IS POSITIVE”という概念の反転や問い、そして言葉が持つ意味と向き合ったきわめて繊細な文字の扱いから、現在に通じる作風も見て取れる。 

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『1cci』(2009年)
右:「自身のスターを内なる宇宙に連れていく」というコンセプトのもと、コラージュを駆使したアートワークを集めたZINE。 左:中面のタイポグラフィが、エースホテルの仕事に用いられている。

初期のブレイクスルーだとヨシロットン本人も認める仕事が、スティーヴィー・ワンダーのキャリア50周年記念ベスト盤のアートワークだ。コンペに提出したアイデアをアーティスト本人が気に入り、その仕事を勝ち取った。少年時代「将来はレコードジャケットをつくる人になろう」と考えたヨシロットンにとって、最初の大作だ。 

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『ラヴ、 ハーモニー &エタニティ』/スティーヴィー・ワンダー(2010年)
伝説的ミュージシャンのベストアルバムのアートワークを手掛けた、キャリア初期の代表作。大胆なトリミングを施しているように見えるが、すべての文字要素を視認できるレイアウトに注目。

そして、音楽と並んでヨシロットンが興味を持ち続けている分野が、宇宙だ。その影響は最新プロジェクト『SUN』にも見受けられるが、宇宙への愛着が直接的な表現となった仕事が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とのコラボ。JAXAが保有する宇宙や地球の画像を活用するプロジェクトでは実際に打ち上げられたロケットの機体の一部を提供され、「ロケットが宇宙で見た景色」をコンセプトにアナログな加工を施し、立体的なアート作品に仕上げた。デジタル技術を駆使した作品が多いヨシロットンだが、これは彼の未来的な感覚の根源や、クリエイションの奥底にあるアナログな感性を確かめられる貴重な一例だ。

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『JAXA コスモード』(2012年)
上:地球に帰還したロケットの機体の一部を使って制作。さまざまな素材を混ぜ合わせ、樹脂で固めた完全アナログ作品。見る角度で色みが変わる。 下:大気圏を抜けた際の焼けや変形も残る。

作家性を世に知らしめた、2018年の大規模個展

デジタルとアナログ、平面と空間。垣根を超えるヨシロットンのクリエイションは、やがて次のステップへと向かい始める。空間そのものを表現する、現在の作家性を世に知らしめたのが、2018年の初の大規模個展『ヨシロットン エキシビション“フューチャーネイチャー”』だ。約400坪の敷地を持つ印刷製本工場を改装したアートスペースで行われたこの展覧会について、ヨシロットンはこう語る。「ある時期から『自然こそ未来だ』と思うようになったんです。自然は格好よくて、大きくて、色鮮やかで。これに敵うものはないんじゃないか」 

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『記録の巻き物』(2018年)
本展は3つの部屋に分かれた構成。写真は、見えない光をかたちとして記録した作品を集めた部屋「光の記録」の巨大作品。鉄を含んだ30mの特殊な布に、膨大なグラフィックデータをプリント。

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インスピレーション源は、「ここで展示がしたい」と直感した、東京・東雲にあったギャラリー「トロット」自体だった。地球の情報を記録し、宇宙に打ち上げるという流れを3つの部屋と作品群で表現。

18歳で上京して以来、毎日のように都心のクラブに通い、現在も中目黒にスタジオを構えるヨシロットンが立ち返った自然というルーツ。しかし、その見せ方には都市生活者のスタイルが活かされていた。「自然の凄さをほっこり見せるのではなく、とんがった新しい表現をしたい。だから“フューチャー”という言葉を付けました」。本展は大きな反響を呼び、アーティストとしてのヨシロットンを確立させたばかりか、クライアントワークの規模を広げ、その表現方法も広がった。

ラグジュアリーブランドや、著名アーティストとのコラボ

エルメスが展開した表参道でのポップアップイベント「ラジオエルメス」は、ヨシロットンの新次元を代表する仕事のひとつだ。架空のラジオ局をイメージした空間デザインから、ブランドの伝統と革新をモダンかつポップな要素と融合させたロゴデザイン、表参道駅をジャックした交通広告までのアートディレクションによって、世界観の構築能力を見せつけた。ラグジュアリーブランドとのコラボレーションという点では、「マクラーレンGT」のプロモーションプロジェクトも見逃せない。車体に日本各地の移り変わる空の色を映り込ませ、クルマの運動性とエレガントなカーデザインを同時に表現。ブランドへの深い理解と敬意、そしてアーティストとしての感性が融合した仕事だ。

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エルメスのメンズの世界観を体感できるイベント「ラジオエルメス」。ロゴをポップに解釈したグラフィック、映像、音楽、空間、立体を組み合わせ、架空のラジオ局を生み出した。この取り組みを機に、ヨシロットンとエルメスの関係は続く。
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『マクラーレンGT × ヨシロットン』(2022年)
英国のラグジュアリー・スーパーカーメーカーのマクラーレン・オートモーティブとのコラボも果たした。車体に施されたグラデーションは染めなど日本の伝統技法でもあるが、それを未来的なスタイルで見せた。

コラボ相手は企業にとどまらない。森山大道と蜷川実花という強い記名性を持つふたりの写真家と向き合った作品は、彼のアーティストとしての側面のみならず、クライアントワークの中で数々の写真と向き合ってきたアートディレクターとしての側面の両方がせめぎ合うエキサイティングな成果を生み出した。さらにキャリア初期から続けてきたミュージシャンとの仕事もその領域を広げていく。

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左:『シンジュク_レゾリューション』/森山大道(2020年) 写真家・森山大道とのコラボレーション。森山が撮影した写真の粒子をデジタルで再解釈し、新宿の多面的な風景をビジュアルと空間デザインで描き直した。
右:『ドリス ヴァン ノッテン2020年春夏メンズ』/蜷川実花(2020年) 写真家・蜷川実花とヨシロットンが共同制作したZINEがドリス ヴァン ノッテンの手に渡り、コレクションのファブリックにプリントされた。

山下達郎の名曲「スパークル」のミュージックビデオでは、ヨシロットンらしい未来的かつクールな世界観とカラフルな意匠、自然への憧憬と畏敬をベースに、現代を代表する若きダンサーたちの表現を織り交ぜた。楽曲が持つ本来の魅力、名曲としての風格とノスタルジーを現在、そして未来へとつないでいく視覚的な再解釈を成功させた。同様に、宇多田ヒカル初のベストアルバム『サイエンス フィクション』のアートワークも、後世のリスナーが宇多田の音楽に触れる際の道しるべとなることだろう。

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『スパークル』/山下達郎(2023年)
1982年発売の『フォー・ユー』の2023年再発に際し制作されたミュージックビデオをアートディレクション。楽曲が持つエバーグリーンで爽快な雰囲気を色鮮やかに表現し、リリースから40年後の現在、そして未来と再接続。

新たな日常を表現したプロジェクト「SUN」

そして近年ヨシロットンが取り組んでいる一連のプロジェクトが「SUN」だ。コロナ禍で仕事が止まった時期、ひとりで黙々とコンピューターに向かい、太陽に見立てた円の中に、その日の気分をグラデーションで描き続けた。当初はひたすら自らと向き合うように制作したグラフィック作品のシリーズだったが、社会活動が回復するにつれ、国立競技場、海浜幕張、福岡ドームへと舞台を移しながら発表を続け、多くの観客を集めるように。さらに媒体も立体物、書籍、インスタレーションへ展開され、新たな日常の象徴となった。

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『SUN 国立競技場大型車駐車場 東京』(2023年)
アートプロジェクトであるSUNのインスタレーションを、東京・国立競技場にある2000㎡もの大型車駐車場で実施。コロナ禍の孤独の中で生まれた作品群が、さまざまなかたちを持ち、多くの観客と共有された記念すべき展示だ。

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『SAKAZUKI』(2023年)
SUNを盃に落とし込んだ、6枚1組のアート作品。輪島塗の職人と協働で、2色の漆とその中間をグラデーションで描き出す「ぼかし塗り」の技術を駆使し、140もの工程を経てつくられた。
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『SUN ブック』(2023年)
365点のSUNを日付とともに国内最高峰の技術で印刷し、小口はメタリックに統一することで、まるでオブジェのように製本した作品集。12種類の表紙のバリエーションで、限定365部を刊行。
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『フローティング SUN』(2023年)
幕張で展開された、ヨシロットン初の空中作品。500台ものドローンを使い、夜空にSUNを描き出した。サマーソニックの会場からも目にすることができ、多くの観客を驚かせた。

故郷・鹿児島で行われている、初となる美術館での個展

そして、2024年10月。ヨシロットンは故郷の鹿児島で初となる美術館での大規模個展を開催する。県立美術館というファインアートの場を舞台に行われる、これまでの集大成にして最大規模の表現はなにを見せるのか?

「デザインは答えを出すものだけど、アートはまだ見ぬなにかに出合うこと」。ヨシロットンはデザインとアートの違いを明確に区別しているが、両者が共存することを拒否しない。むしろ表現それ自体には、その両方があることがプラスになっていると感じるという。「20代の頃から平日はデザイン会社の仕事をして、夜はクラブへ行き、週末は自分のグラフィック作品をつくっていました。その点では、いまの僕がやっていることは、なにも変わっていないのかもしれません」。未来と過去、自然と都市、アートとデザイン、あらゆる領域を行き来するヨシロットンの姿と作品は、ボーダレス化が進む時代において、注目すべき“現在”そのものだ。

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