190年以上という長い軌跡において、ジャガー・ルクルトは唯一無二の個性豊かなタイムピースを生み出してきた。そこに貫かれる美学は手にする者の情動をかき立てる。それぞれの製品に通じるメゾンの哲学をプロダクト・デザイン・ディレクターのリオネル・ファーブに訊いた。
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第1回:芸術性と精度の両立を追求する、ジャガー・ルクルトの真髄
第2回:ふたりのクリエイターがジャガー・ルクルトに触れて感じた、時計製造の奥深さとパイオニアとしての矜持
あくなき探究心から生まれる、唯一無二の超絶複雑機構
HYBRIS[ハイブリス]
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ジャガー・ルクルトが真のマニュファクチュールとたたえられるひとつに、これまで1400以上のキャリバーを開発製造してきた実績がある。だが称賛は決してその数だけに向けられるわけではない。各キャリバーの機能や特性を活かし、一体感あるプロダクツに昇華することにこそある。
プロダクト・デザイン・ディレクターのリオネル・ファーブは、ブランドのデザインコードはクラシックであり、多くのレガシーを継承しつつ、そこにモダニティというひねりを加えることだという。そしてどれだけ先進的な複雑機構でも、洗練されたクラシックスタイルを纏うことでブランドらしさを逸脱することはない。
最高峰の複雑技術と芸術的なデザインの融合を追求する「ハイブリス・メカニカ」はその証左であり、自身も印象深い作品として「レベルソ・ハイブリス・メカニカ・キャリバー185」を挙げる。
「6年の開発時間をかけて、レベルソ史上初の4面すべてに表示機能を搭載しました。永久カレンダー、ミニッツリピーター、トゥールビヨン、月の動きの表示など、まさにマイクロダッシュボードという表現がふさわしいと思います」
11種類もの複雑機構を凝縮しながらも、ブランドアイコンであるレベルソの優美なスタイルを崩さない。そしてその端正な佇まいに、独創的な先進技術というモダニティが息づくのだ。
「タイムレスというフィロソフィには、同時に現代的要素も不可欠です。エレガンスやクラシックは、カラーやプロポーションといったハーモニーによって成り立ち、モダニティは技術革新によるクールな表現になると思います」
最新作の「マスター・ハイブリス・アーティスティカ・キャリバー184」では、ビッグ・ベンの鐘の音を再現したウェストミンスター・カリヨン・ミニッツリピーターのゴングの間に、ジャイロトゥールビヨンを搭載する。多軸によって球形のペリフェラルキャリッジが自転する動作は精緻な生命感にあふれ、見る者を飽きさせない。
その有機的な動きに呼応し、文字盤のインダイヤルはバックミンスター・フラーのジオデシックドームを思わせる幾何学模様で取り巻く。パターンは金属のラインで描き、窪みにラッカーを塗布し、丹念に研磨仕上げをする。こうした自社工房での熟練の手作業により、卓越した時計技術と伝統的な装飾技法が渾然一体となるのだ。
「ひと目見た時に感情が沸き立つようなエモーションがデザインには欠かせません。大切なのは、さまざまなディテールや要素をレイヤーとして重ねてつくり上げ、そのバランスを取ること。最初の発想や要素にとらわれるのではなく、時間をかけて磨き上げていくことが必要なのです」
レベルソ・ハイブリス・メカニカ・キャリバー185
反転ケースの表裏に加え、台座の表裏にも機能を備え、腕時計では世界初の4つの文字盤を実現した。搭載する機構は、永久カレンダーとミニッツリピーターに、朔望月周期、交点月周期、近点月周期というこれまでになかった月に関する3表示を含む合計11個のコンプリケーションで、わずか15.15㎜の厚さに内蔵した。1931年の誕生以来、常に時代の先進技術とクラフツマンシップを吹き込み、進化を遂げてきた「レベルソ」のひとつの到達点だ。
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マスター・ハイブリス・アーティスティカ・キャリバー184
2019年に発表した「マスター・グランド・トラディション・ジャイロトゥールビヨン・ウェストミンスター・パーペチュアル」を刷新し、クラフツマンシップを感じさせる新たなデザインを纏う。搭載する「キャリバー184」は、ミニッツリピーター、ジャイロトゥールビヨン、永久カレンダーという3大複雑機構をひとつに統合する。1052以上の部品点数からなり、組み立てにはひとりの熟練時計師が担当し、5カ月以上を要する。
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ジャガー・ルクルトが発明した、
ジャイロトゥールビヨンとは?
「ジャイロトゥールビヨン」は、ジャガー・ルクルトが2004年に発明した独自の球体トゥールビヨンで、通常の1軸からなるトゥールビヨンに対し、2軸を備えることで水平と垂直の2層でより複雑に回転する。テンプと調速・脱進機を3次元的に回転させることで、ほぼすべての姿勢差に対して重力の影響を抑え、より高い精度を実現する。
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収めるケースも刷新された、ジャガー・ルクルトが誇る独創的な機構
DUOMETRE[デュオメトル]
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創業者アントワーヌ・ルクルトは発明家でもあり、鋼から高精度のピニオンを切り出す機械を考案し、技術の習熟に頼ることなく、仕様通りの正確な部品製造を実現した。ブランドを立ち上げた後も、精度の追求は190年以上のウォッチメイキングの核になっている。2007年に発表した「デュオメトル コンセプト」はそれを象徴する複雑機構のひとつだ。
キャリバーには、独立した輪列を持つふたつの香箱を組み込み、調整機構に連結後、それぞれの輪列が時刻表示と付加機能を動作させる。たとえトルクを要する複雑機構でも動力と輪列を分けることで、計時に干渉せず、精度を損なうこともない。創造性のベクトルは広がり、クロノグラフ、ムーンフェイズ、GMT、トゥールビヨンなど多彩に展開する。
左右対称にインダイヤルを備えたユニークな文字盤は、内に秘めた独創的な技術を主張するだけでなく、ひと目でそれとわかる強いアイデンティティだ。新作では、ケースフォルムをリニューアルし、文字盤にも美しいカラーや繊細な仕上げを施した。技術訴求だけではなく、コンテンポラリーな感性を取り入れ、唯一無二の存在をエレガントに演出する。ジャガー・ルクルトらしいアプローチだ。
メゾンにとって精度は、技術革新と洗練の証しに他ならない。そしてさらなる完成度を求めて目指す指標なのである。
デュオメトル・クロノグラフ・ムーン(右)
文字盤の右側にクロノグラフとムーンフェイズを搭載。モノプッシュクロノグラフは、12時間積算と60分積算の針を同軸にしたカウンターとセンターの秒積算針、さらに1/6秒カウンターを備える。左側には通常の時分針と昼夜表示、センター秒針を配し、下方にはそれぞれのパワーリザーブ表示を装備。
デュオメトル・カンティエーム・ルネール(左)
ムーンフェイズとポインターデイト、時分針のインダイヤルを配置し、中央のクロノグラフ秒針と、その下のフドロワイヤントの1/6秒針の両側にはそれぞれのパワーリザーブインジケーターを備える。新設計の丸みを帯びたケースにコレクション初のステンレス・スチールを採用し、グラデーションブルーの文字盤が映える。
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デュオメトル・ヘリオトゥールビヨン・パーペチュアル
「デュオメトル」の最新作は、ブランド初の3軸上で回転するヘリオトゥールビヨンに、グランデイトを備えた永久カレンダー機構を両立。複雑なキャリッジの回転がもたらす高精度と、異なる月の日数や閏年を自動的に調整するカレンダー機構を高次元で統合できたのも、それぞれの動作に干渉しない革新的なデュオメトル機構があってこそ。丸みを帯びたケースは、19世紀に製造したサボネット懐中時計のフォルムを現代的に解釈する。
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世紀を超えて受け継がれる、反転式の2面性を持つマスターピース
REVERSO[レベルソ]
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ジャガー・ルクルトのアイコンが「レベルソ」であることに異論はないだろう。1931年に登場し、独自の技術と美学を融合した時計史に残る金字塔だ。誕生のきっかけは、ポロ競技で腕時計にマレットがぶつかり、破損してしまったことだ。この解決策として、ケースを反転して衝撃を防ぐ画期的な構造を発明したのだ。
いわば当時のスポーツウォッチだったわけだが、ポテンシャルはその範疇に収まらなかった。あらわになった無垢のケースバックに彫金やエナメルを施し、装飾という新たな魅力を加えたのである。さらにマニュファクチュールの技術が新たな可能性を切り開く。表とは異なるもうひとつの文字盤を設け、付加機能を拡張したのだ。
その進化はいまも止まることはなく、「レベルソ・トリビュート・クロノグラフ」は角形では珍しいクロノグラフを採用した。しかも2針のブラック文字盤というフォーマルスタイルの表に対し、裏はスケルトナイズされ、精緻なムーブメントを誇示したクロノグラフの対極の個性を共存する。
90年以上にわたって支持される理由は、現状に甘んじることなく常に革新を続けることにある。もちろんそこには大いなる可能性を秘めていたオリジンと、広がる発想を具現化するだけのマニュファクチュールの実力が伴うことは言うまでもない。
レベルソ・トリビュート・クロノグラフ
1931年誕生のオリジナルを彷彿とさせるシンプルな2針デザインが、サンレイ仕上げの黒文字盤に際立つ。反転すると、まったく異なるスケルトンダイヤルが現れ、時刻表示にクロノグラフ秒針とレトログラード式の30分積算針を備える。1996年に発表された「レベルソ・クロノグラフ」をさらに熟成し、新たに開発した「Cal.860」は角形の美しいバランスを崩すことなく、水平クラッチの採用で薄さも損なわない。
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レベルソ・トリビュート・スモールセコンド
初代レベルソはシンプルな2針のイメージが強いが、当時スモールセコンド仕様も登場していた。これを復刻し、艶やかなカラーで彩った。実は、誕生初期からバーガンディやブラウンなど多色展開しており、その先進性を再現したものだ。カラー文字盤には同色のカーフストラップのほか、キャンバス素材を組み合わせたストラップも一部用意する。
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銀座並木ブティックで、「精度のパイオニア展」を開催
11月18日から12月8日まで、銀座並木ブティックにて、「デュオメトル」の新作や世界をめぐる特別なタイムピースが展示されるイベントが開催される。本誌Penとの共催による特別な一夜も予定している。
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ジャガー・ルクルト 銀座並木ブティック
住所:東京都中央区銀座6-7-15 第二岩月ビル1F 営業時間:11時〜19時 TEL:03-5537-5911
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第2回:ふたりのクリエイターがジャガー・ルクルトに触れて感じた、時計製造の奥深さとパイオニアとしての矜持
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