天体の動きから時間の概念を生み出した人間の叡知はやがて時計へと結実した。そしていまジャガー・ルクルトは、精度と芸術性の美しき融合を追求する。
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200年近くにわたり技術革新をリードしてきた、時計界のグランドメゾン
ジャガー・ルクルトは、真のマニュファクチュールとして独自の技術開発に研鑽を積んできた。一方で、その豊かな創造性とクラフツマンシップはアートへと歩み寄るのである。
ジャガー・ルクルトの歴史は、スイス時計産業の歩みといってもいいだろう。創業者アントワーヌ・ルクルトの祖先ピエール・ルクルトは、祖国フランスでのユグノー派への迫害から逃れるため、1559年にスイスのジュウ渓谷に移住した。この地を開拓し、1612年に生まれたのがル・サンティエ村である。豊かな自然環境と鉄鉱に恵まれ、発展した金属加工技術にやがて時計製造が持ち込まれ、揺籃の地になっていく。
家業の鍛冶屋を営むアントワーヌは発明家でもあり、1830年に高精度のパーツを製造する工具を発明した。そしてその3年後、時計工房を創設し、ジュウ渓谷初のマニュファクチュールとして以降この地を離れることなく、いまも時計をつくり続けているのだ。
1840年代にはミクロン単位の測定ができる世界初の測定器「ミリオノメーター」を発明し、かつてないほどの精度と信頼性は高く評価され、スイス国内のみならず、世界的な名声を得た。
大きな転機となったのが、1903年のフランス人時計職人エドモンド・ジャガーとの出会いだ。ジャガーは、自身が考案した超薄型時計の製作を創業3代目のジャック=ダヴィッド・ルクルトに依頼した。それはある種の挑戦状でもあったが、やがて意気投合したふたりは1・38㎜という極薄のキャリバー145を開発。07年に発売され、研ぎ澄まされた切れ味を思わせるスタイルから「ナイフウォッチ」とも呼ばれた。
このひとつの時計が育んだふたりの時計づくりへの情熱と友情は、37年にジャガー・ルクルトのブランド名に結実したのだった。
現在ジャガー・ルクルトは、「ウォッチメーカー・オブ・ウォッチメーカーズ(時計製造の先駆者)」としてたたえられ、その地位に甘んずることなく、さらなる進化への挑戦を続けている。
技術に磨きをかける一方で、伝統的な時計技術や装飾技法を次世代に伝承するため、後継者を育成する。トレーニングセンターでは社内だけでなく、地元の時計専門学校からの研修生を迎え入れる。さらにミケランジェロ財団が主催するホモ・ファベール展への参加をはじめ、若いアーティストたちの育成や保護、サポートにも取り組む。過去からの技術を継承し、未来につなげていくことは、自分たちの責任と考えるからだ。
さらに時計製造とは異なる分野のアーティスト、デザイナー、職人たちとのコミュニティを深めるため、「メイド・オブ・メーカーズ」というプロジェクトを進めている。そこで生まれるクリエイティブのケミストリーに加え、アートやカルチャーとのつながりを通してブランドへの理解を深め、機械式時計の奥深い魅力をより広く伝える活動である。
ジャガー・ルクルトをかたちづくる、4つのDNA
1. 190年以上続く、真のマニュファクチュール
ジャガー・ルクルトでは、ムーブメントやケースのデザイン・設計から製造まですべての工程を自社一貫で行う。こうした“マニュファクチュール”は数世紀にわたるスイス時計の伝統を継承するとともに、よりオリジナリティを極めるためにも不可欠なのだ。
2. 430以上の特許を取得する、あくなき発明精神
マニュファクチュールではこれまでになんと430種以上の発明の特許を取得している。これは豊かな創造力とパイオニア精神の証しであり、また同時に、新たな発明をカタチにするための高い技術とノウハウを積み重ねてきた歴史を裏づけるものでもある。
3. 1400以上のキャリバーを有し、時計業界の牽引役に
ジャガー・ルクルトが生み出した自社キャリバーの数は既に1400を超え、それぞれのムーブメントの機能や特性にふさわしい時計が誕生するとともに、一部の技術は他の一流メゾンにも供給されている。まさに時計製造における指標的存在と言えるだろう。
4. 180もの技巧を集結させる、卓越した時計製造
時計づくりに求められる技術は幅広く、先進的な設計や製造以外にも伝統的な装飾技法など多岐にわたる。エナメル装飾やエングレービングをはじめ、高級時計製造に必要な180種もの卓越した技巧をマニュファクチュールに集結し、一つひとつの時計に凝縮する。
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時計製造にとどまらない、グランドメゾンとしての取り組み
1. アートの展覧会をはじめとした、さまざまな芸術体験の創出
近年メゾンが力を入れているのが、他分野の職人やアーティストとのコラボレーションを展開するプロジェクト「メイド・オブ・メーカーズ」だ。そのひとつ、韓国出身のデジタルメディアアーティストであるイーユン・カンは、「レベルソ」にインスパイアされ、『Origin』と題する3D動画彫刻を完成させた。マニュファクチュールを訪れた際の“自然と完璧に共生する静かな美しさ”の印象から、自然界に存在する黄金比の対称性と、アールデコの幾何学デザインの本質との類似性を抽出し、世界各地の公共空間に3D動画彫刻として表現する。
2. モネや北斎などの作品制作を通した、クラフツマンシップの継承
伝統的な装飾技法によって時計に芸術性を付与するとともに、作品制作を通してクラフツマンシップを継承していくことにも力を入れている。その一例で、ヴェネチアで開催されたホモ・ファベール展への参加に合わせ、「レベルソ」のケースバックに、クロード・モネがヴェネチアを描いた名作を細密画で再現した。65×92㎝以上の大きなサイズの原画を25×20㎜の極小サイズに収める偉業だ。エナメルを14層(ベースの3層、絵画部分の4層、半透明な淡い色の7層)重ね、800℃で15回焼成し、時を刻むキャンバスとしての芸術性を証明したのである。
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メゾンの創造性を広げる、アーティストとの協働「メイド・オブ・メーカーズ」
いかなる高度なウォッチメイキングにおいても、その根源にあるのは人間のエモーションに他ならない。アーティストとの邂逅はその創造性を無限に広げる。
2022年に始動した「メイド・オブ・メーカーズ」では、多彩な分野のアーティスト、デザイナー、職人たちとのコミュニティを深めている。導入の背景には、時計製造のクラフツマンシップがいまやアートの領域に近づいていることがある。ブランドCMOのマチュー・レ・ヴォワイエは語る。
「時計はあくまでも使う道具というところがアートとの大きな違いです。しかし創造性、時代の反映、エモーショナルという点では両者は共通し、メイド・オブ・メーカーズを通して、この時計とアートとをつなげたいと思っています」
プログラムでは、クラシカルの境界を押し上げるコンテンポラリーアーティストを起用する。
「選択基準は3つあり、まず価値観や世界観。技術が高いのはもちろんですが、ひねりを加えているか。決して有名である必要はありません。そしてセオリーにとらわれていないこと。アートはアカデミックではなく、より本能的であるべきで、試行錯誤を重ねて独自の世界観を築いているかどうかです。残る要素がジャガー・ルクルトの価値観と合うか。メゾンのバリューとして外せない人間性を備え、官能的で本物ということです」
あとは互いによく働くということですね、と笑う。
調香師とのコラボレーションで生まれた、メゾンの世界観を表現する3つの香り
新たなプログラムでは、フランスの調香師ニコラ・ボンヌヴィルと組み、ポートフォリオに香水が加わった。ボンヌヴィルはコラボレーションをこう振り返る。
「ブランドのアイデンティティをどう伝えるか。それを正確に表現した上で、パーソナリティや、どれだけユニークで記憶に残るかを目指しました。そのため素材が本来持っている自然の力をいかに表現するかに重きを置き、初めてとも言えるほどの高濃度での使用にチャレンジしました」
完成した3種類のフレグランスは、レベルソに象徴されるスポーティ、複雑機構を代表する天体、マニュファクチュールの精度をそれぞれテーマにする。インスピレーションには、ジャガー・ルクルトのアトリエを訪れたことが大きな刺激になったという。
「ひとつ屋根の下にあらゆるものが共存し、モダンとトラディショナル、シンプルと複雑がバランスよく調和する空間で革新性や精度が追求され、人間性もとても感じられました。また周辺のジュウ渓谷からはパワフルな自然が伝わり、植物だけではなくて、鉱石など時間を経過して築かれた雄大な環境がまさに時間の探求を感じさせ、とても影響を受けました」
こうした時の経過は、香りの世界もウォッチメイキングも共通するのだろう。根底には常にチャレンジし、新しいものを生み出さんとする哲学がある。その思いが凝縮した香りに、メゾンの世界も無限に広がっていく。
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第2回:ふたりのクリエイターがジャガー・ルクルトに触れて感じた、時計製造の奥深さとパイオニアとしての矜持
第3回:プロダクトを通して紐解く、ジャガー・ルクルトの美学
ジャガー・ルクルト
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