アーティスト・ヨシロットンが美術館での初個展を開催中。目に見えない光を可視化した(⁉︎)、未知なる世界へ

  • 写真:池満広大
  • 文:照沼健太
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宇宙船のような館内に足を踏み入れると、そこは異世界。特殊な技術を用いてつくられた数々の作品が、常識を覆してくれるはずだ。

アーティストのヨシロットンにとって初の美術館を会場とする大規模個展が、「鹿児島県霧島アートの森」で、いま開催されている。自然に包まれた会場で、未知なる世界を体感してほしい。

Pen 2024年12月号の第2特集は『YOSHIROTTENとは何者か?』。デジタル感あふれる作風で多くの一流企業やブランドと協業するYOSHIROTTEN。しかし、彼のこれまでの歩みや交友関係、影響を受けたカルチャーなどについて詳細に記された文献は意外にも少ない。今特集では、初期作品や根底にあるビジョンを深掘りし、知られざる側面にも光を当て紐解いていく。

Pen 2024年12月号(10月28日発売) ¥990(税込)
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YOSHIROTTEN Portrait, Courtesy of the artist Photo Kazuki Miyamae.jpg

YOSHIROTTEN ●アーティスト

1983年、鹿児島県生まれ。ファインアートから商業美術、都市文化から自然世界まで、幅広い領域を往来する。多くのブランドやミュージシャンのアートディレクションも担当。クリエイティブスタジオ「YAR」を率いて多様な仕事を手掛ける。

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故郷の鹿児島で、自身のルーツと向き合う

鹿児島県姶良郡湧水町の山の中に突如現れる、宇宙船のような建造物。この「鹿児島県霧島アートの森」を舞台につくり上げたヨシロットン展『フューチャーネイチャー Ⅱ イン カゴシマ』は、ヨシロットンにとっての集大成であると同時に“一期一会”性をも孕んだ、キャリアにおけるマイルストーンとなるに違いない展覧会だ。

「この会場だからこそ実現できる展示にしたかった」という意向を直接見て取れるのが、「鹿児島の壮大な自然」という大テーマだ。本展の実施が決まると、ヨシロットンは実際に何度も鹿児島を訪れて調査・撮影・取材などのフィールドワークを行い、霧島周辺を扱う関連書籍を読みあさった。

鹿児島は彼の故郷でもあるため、ある意味で自身のルーツに立ち返るという側面もあるだろう。しかしヨシロットンは、鹿児島の自然をそのまま切り取るのではなく、むしろ未知なるものとして提示する。そもそも鹿児島は宇宙科学の探究が盛んな地で、宇宙船のような外観の美術館にも強いインスピレーションを得たという。

本来は目に見えない赤外線や紫外線など光そのものをグラフィックに変換する作品群や、自らが理想とする石のかたちをコンピューター上で再現し、3Dプリンターで成形した立体作品『シルバーの石』は、そんな自然への畏敬と未来志向、SF思考の融合の象徴ともいえるだろう。

本展は、平面作品や立体作品、映像作品など約10点の独立した作品があり、さらに全体でもひとつの大型インスタレーション作品になっているのが特徴だ。観客は宇宙船のような美術館の中で、まるで映画『2001年宇宙の旅』のモノリスのように〝なにか〟を発する作品群と出合い、それぞれの内面に不思議な感動、〝センス・オブ・ワンダー〟を湧き上がらせる。そんな光景自体もヨシロットンの作品のようであり、それを目撃する我々自身も、その作品の一部となるのだろう。

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『シルバーの石』
日頃から気になった石をコレクションしているヨシロットン。この作品は、彼の理想とする石のかたちをコンピューター上で組み上げ、3Dプリンターで成形したもの。
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『KIRINOSHIMA』
左:1950年代の古い資料の中で見つけた、ザラザラした霧島連山の写真。そこに霧島でiPhoneで撮影した雲や煙の画像を組み合わせた。
右:霧の中なのか雲の中なのか、はたまた夢の中か。近づいてよく見てみると、ピクセル越しの景色が現れる。
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『トランスロー』
作品タイトルは造語で「トランス(変換する)」+「スロー(投げる)」から。光の中に含まれる可視光線、赤外線、紫外線の値をグラフ化できるセンサーをつくり、霧島のさまざまな場所で光を計測したグラフを制作。そこからヨシロットンの気に入った部分を取り出し、加工したグラフィック。
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『メンヒル』
「メンヒル」とは、地球上のいたるところに見られる巨大な立石のこと。センサーが館内で採光し、リアルタイムでそのデータをグラフィックに変換。屋久杉と軽石、シラス(火山灰土)との組み合わせは、悠久の時と現在、そして未来のつながりを感じさせる。
 
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『宙の窓-霧島百景-』(奥):鹿児島のさまざまな場所をスキャン、撮影、フィールドレコーディングした素材をもとに、100枚のイメージを制作。それらを約50分間の映像にまとめ、3つの巨大スクリーンで表示。会場入り口近くの作品『シルバーの石』も時折スクリーン上に登場する。
『パイライト』(手前):ヨシロットンお気に入りの石「パイライト」から命名。回転する立方体が会場内の光や観客の姿を捉え、それらを変形させてフィードバックする。オルタナティブな視点を提示し、可視と不可視を行き来するヨシロットンらしい作品。SF的な外観も美しい。
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『グリーンスキャナーとシルバーの岩』
本展のポスターにも登場する、2018年の「フューチャーネイチャー」で制作した作品の発展版。巨大なシルバーの岩を上下に動くグリーンの光が照らし、不動の象徴ともいえる巨岩が刻一刻とその印象を変える。フューチャリスティックな自然観は、本作を象徴するかのようだ。

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『U.F.O(アンナースド ファウンド オブジェクツ)』
2階に設置された作品。アンテナやソーラーパネル、軽石、植物などが組み合わされ、複数のディスプレイにはヨシロットンが撮影した霧島の風景が加工され表示されている。メディアの可能性と信憑性に関する作品だが、どこかユーモラスな佇まい。
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『オレンジの光窓』
大きな天窓に着目して制作した作品。会場は一定周期で白とオレンジの光が行き交い、その日の自然光の量によっても表情を大きく変える。

特別企画展 ヨシロットン展
『フューチャーネイチャー Ⅱ イン カゴシマ』

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開催期間:~2024年11月24日
開催住所:鹿児島県姶良郡湧水町木場6340-220 鹿児島県霧島アートの森
TEL:0995-74-5945
www.open-air-museum.org

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YOSHIROTTEN

グラフィックアーティスト、アートディレクター

1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


Official Site / YAR

YOSHIROTTEN

グラフィックアーティスト、アートディレクター

1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


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