ジャパン・メイドの名品がビッグチェンジ! ポーターのタンカーシリーズ 

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
Share:
モデル名は「HIP BAG(ヒップバッグ)」。世界で初めて量産化に成功した、とうもろこしとヒマを原料とする100%植物由来のナイロンを採用。本体にマチを十分に設けることで収納力の高さを実現、荷物を仕分けできるポケットも各所に設けられている。色は8月から展開されている新色のアイアンブルー(鉄紺)。(H16×W27×D12.5cm)¥46,200/ポーター

「大人の名品図鑑」特別編

雑誌『Pen』11月号のファッション特集のテーマは「2024年の名品を探せ!」。この企画にPen onlineで連載中の「大人の名品図鑑」チームもメディアミックスの形で参加することになった。担当する編集者小暮昌弘とスタイリスト井藤成一が、今年の気になったアイテムの中から、“推し”の名品を紹介する。

メイド・イン・ジャパンにこだわりバッグをつくり続けてきた𠮷田カバンは1935年に創業された𠮷田鞄製作所にルーツを持つ老舗企業だ。創業者は12歳という若さで鞄職人の道を歩んだ𠮷田吉蔵。29歳で独立して会社を立ち上げたが、彼が掲げたのが「一針入魂」。日本人ならではの手仕事の味わいと繊細なつくりの数々のバッグを生産、現上皇后の美智子様に愛用されるなど、高い評価を得てきた。自社ブランドのポーターをスタートさせたのが62年。81年からは世界的なデザイナーで組織された「NYデザイナーズコレクティブ」に参加、そしてその2年後の83年に誕生したのが「タンカー」シリーズのバッグ。フライトジャケットである「MA-1」をモチーフにした革新的デザインと、それを製品化した職人的な技術力を備えたバッグ。素材にナイロンツイルを用い、内装生地との間にポリエステル綿を挟んだクッション性の高い構造も素晴らしい。軽く、やわらかく、ミリタリー的な佇まい。ある意味、日本でカジュアルバッグというジャンルを確立したバッグとも言える。以来、「タンカー」シリーズは高い人気を誇り、同社の屋台骨を支えてきた名品中の名品。最近では海外メゾンとのコラボレーションでその人気は世界的に高まっている。

そんな「タンカー」シリーズが誕生から40年経ち、24年にデザインを一新した。そのときのメッセージが「ALL NEW TANKER─何も変わらず、何もかもが変わる─」。自動車や製品にそのまま使えそうなキャッチフレーズではないか。刷新された「タンカー」で、大きなポイントになるのが素材だ。これまで使われていたナイロンを、すべて100%植物由来のものに変えている。ナイロンの原材料は石油。しかし有限資源である石油を使わないでナイロン素材を開發しようと考え、頼ったのが日本初のナイロンを生産した東レだ。「バイオベースナイロン」と呼ばれる糸を生産するために原料としたのは、とうもろこしとヒマ。ヒマはトウゴマの種子から生まれる油だ。𠮷田カバンのHPには「試験レベルで1日紡糸する分には問題なくても、継続して紡糸すると糸切れが発生。強度や耐摩耗性などの基準だけでなく、しなやかさ、光沢など数値化できない部分をクリアして世界で初めて量産化に成功した」と書かれている。未来を見据えたメイド・イン・ジャパンの挑戦だ。素材以外にも、より使いやすさ、より美しくと、使われるパーツのデザイン、塗装などを新たにして「タンカー」に細部まで磨きをかけた。 

---fadeinPager---

日本の伝統色に由来したアイアンブルー

今回紹介した「アイアンブルー」は、セージグリーンに続いて発表された。名前は日本の伝統色である「鉄紺(てつこん)」に由来している。上品で落ち着きあるその色はカジュアルからドレスまで、さまざまなコーディネートにも合う。

新型「タンカー」は全部で40型が生産されているが、その中からスタイリスト井藤が選んだのが「ヒップバッグ」と呼ばれるモデル。通常は腰に回して使われるが、ボディバッグのように斜め掛けしてもいい。マチ幅を広くデザインしているので、収納力も抜群。フロントポケット以外にも、左右のサイドポケットやハーネス部分にもポケットがあり、荷物を細かく仕分けすることができる。見た目以上に荷物が入るという高い実用性を備えたモデルだ。井藤がポーターに出会ったころから愛用しているバッグで、「大人の名品図鑑 アンディ・ウォーホル編」で紹介したボーダーTシャツ同様に、個人的にも思い入れがあるアイテム。「我々がPen Onlineでやっている『大人の名品図鑑』のコンセプトは、古いものだけがいいというのではなく、名品は進化することも大事で、これからの名品にはそれが重要」と、井藤は話す。名品に新たな風をもたらすことで、名品がさらに魅力的な製品に生まれ変わることも多い。今回紹介する新「タンカー」シリーズはまさにそんな名品ではないだろうか。

---fadeinPager--- 

20240815_Pen2859.jpg
1935年創業の𠮷田カバンのコレクションの中でも1983年に誕生した「タンカー」シリーズは不動の人気を持ち、ロングセラーを続ける名品。バッグに付いた「PORTER」ネームの新しい刺しゅうは、織りの密度を上げ、文字が鮮明に出るように工夫されている。

---fadeinPager--- 

20240815_Pen2861.jpg
より使いやすくなったスライダーの形状。ファスナーの開閉がスムーズにできるようにこだわって設計されている。

---fadeinPager---

20240815_Pen2862.jpg
フライトジャケットのMA-1同様に本体の内側は鮮やかなオレンジのナイロン素材を採用している。もちろんこれも100%植物由来。製品にはバッグが入るオレンジ色の巾着が付属する。

ポーター 表参道 

TEL:03-5464-1766 
https://www.yoshidakaban.com