この車名にこそ意義がある! マクラーレンが「W1」を発表

  • 文:小川フミオ
  • 写真:マクラーレン
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クルマというプロダクトのおもしろさは、だいたい3つに分類できることだ。趣味、実用、機能。目的に応じて、ユーザーはクルマ選びをしている。英国のマクラーレンが発表した「W1」は機能追求型。しかもここまで徹底したモデルはそうそうない。

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空力によってデザインされたといえる「W1」。

今のスポーツカーのカタチを決める大きな要素は機能。具体的にいうと、空力だ。マクラーレンの新型車「W1」も、徹底的に空力シェイプが煮詰められている。

一般的に、機能を徹底追求したプロダクトは、審美性を犠牲すると言われている。ファッションでいえば、靴がいい例だ。履き心地とカタチは両立しないことがしばしば。しかし「W1」は靴ではない。スタイルと機能がうまく両立している。

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有機的なフォルムが美しい750Sスパイダー

マクラーレン車はこれまで、自然の事物が“形状的に無理がない”と、波紋や鳥の羽といったものを、デザインのモチーフにしてきたことで知られている。そこから形作られた有機的な形態は、他に類のないオリジナリティを生み出してきた。

W1はそこから進んで、より高性能、より高機能を目指している。なにしろ、4リッター8気筒エンジンに、加速時にモーターがトルクの上乗せをするEモジュールを組み合わせて、最高出力1275ps(938kW)、最大トルク1340Nmを誇るモデル。---fadeinPager---

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エアダムには大きな空気取り入れ孔が、ボンネット各所にはその空気用のアウトレットが設けられている。

静止から時速100kmまでを2.7秒で加速し、時速200kmまでなら5.8秒しかからない。SUVの代表選手ともいえるメルセデス・ベンツ「G 350 d」が時速100kmまでの加速は7.4秒なので、そこに到達した時点で「W1」は時速300kmに向けて加速中ということになる。

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ブラックは乗員とエンジン、オレンジはスイング(フェンダー)と機能に応じて塗り分けが施されている。

「W1」というネーミングにも、実はマクラーレンのこだわりが表れている。

これまで、マクラーレンは2台の「1」シリーズを発表してきた。ひとつは、フォーミュラワン設計者が開発に携わったその名も「F1」(1992年発表)。もう1台がモーターの力を使い高性能を追求した「P1」(2013年)だ。

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ゴードン・マレイ設計のその名も「F1」はルマンにも出走。

「F1」のFは言うにおよばずフォーミュラ(レースによって定められる寸法や排気量などの規定)。「P1」は、ポジションワン。レースの順位で一番にくることを意味している。「W1」の場合は、ワールドワン(世界一)、またはウィナー(勝者)ワンと言われている。---fadeinPager---

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プラグインハイブリッドシステムを性能のために使って衝撃的だった「P1」。

「W1」の発表日は、2024年10月6日。これがネーミングと関係しているそうだ。マクラーレンの説明によると、さかのぼること50年前、1974年の10月6日に、マクラーレンはフォーミュラ1選手権で初のコンストラーズ選手権を獲得している。

機能的デザインという点で、「W1」では徹底して、空力を煮詰めている。空力とはなんのことかというと、ひとつは走行中に風による空気抵抗を減らすこと。もうひとつは、走行中に車体が浮き上がらないよう、流れる空気の力を使って車体を下に押しつけること。これがとりわけサーキットでは重要なのである。 

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キャビンは前後輪のほぼ真ん中で、巨大なマッスが後方に形作られているのがマクラーレン車共通のデザイン。

「W1」ではまず、ブレーキやエンジン冷却のために空気をどう導入するか。次にその空気をどう抜くかを主眼に車体が設計されている。同時に車体の上、下、側面を流れる空気を、走行のために使うことに心を砕いている。

「アクティブエアロパーツ」なる空力技術も注目だ。フロント部には可動式アクティブ・フロントウイング。リアには、「マクラーレン・アクティブロングテール」。後者のリアウイングは、必要に応じて、後方へ300mmも展開。これは特許出願中の技術だ。---fadeinPager---

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走行状態に応じて後方へ最大300mmも展開する「アクティブロングテール」。

サーキット走行では、車体をなるべく低く保つのが肝要。電子制御サスペンションシステムが、車高を調整。フロントを37mm、リアを17mm下げる。マクラーレンによると、これと可動式スポイラーとでもって、高速走行時に車体の浮き上がりを防ぐダウンフォースが1000kgに達するそう。

サスペンションシステムの設計も空気抵抗の低減を考慮。インボードタイプといって、コイル/ダンパーユニットが車体に接着されている。空力を最重要視するレースカーでおなじみの方式だ。

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ガルウイングドア採用で乗降性も向上という。

もうひとつ、ボディデザインにおける大きな変更点が、ドア。マクラーレン車は、前ヒンジで後端が上にはねあがるハサミのようなディヒドラル(上反角という航空用語)ドアを歴代採用してきたが、今回はガルウイング。

マクラーレンではアンヒドラル(下反角)ドアと名付けた、このデザインの採用理由は、車体側面の空力設計がやりやすくなることと、乗員の乗降性の向上、とされている。

機能性については、軽量化もW1の機能における重要項目だ。---fadeinPager---

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炭素樹脂製のモノコックシェルに直付けされたシートで軽量化をはかっている。

あらゆる点でレーシングマシンを彷彿させる。炭素樹脂製のシャシーは、「マクラーレン・エアロセル」と命名されている。軽量化と高い剛性をめざして開発されたもので、価格も半端でない。

乗員が座るシートもシャシーに固定してしまった。前後にスライドさせるシートレールも軽量化のために不要と判断したからだ。

その代わり、ペダルボックス(アクセルとブレーキ)と、ステアリング系が可動式。通常のクルマとは逆に、こちらを動かしてドライバーはポジションを調節する。

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グラデーションがおもしろい「イノテック」を使って仕上げたインテリア。

内装は、サーキット走行前提の機能一辺倒ではない。デザインの凝り方はやはりマクラーレンならでは。とりわけ、今回から採用された「イノニット」なるシートとダッシュボードを覆う素材がユニークだ。

イノベーション+ニットからの造語と思われるが、ニットのような手ざわりと、もうひとつ、色の構成に自由度が高いのが特徴といえる。途中からグラデーションのように色が変わっていく、セーターとも違う雰囲気がなんとも面白い。

ミニが、新型カントリーマン、新型クーパー、それにエースマンという“新世代”プロダクトで採用した素材と似ている。---fadeinPager---

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マクラーレンのコーポレートカラーでもあるオレンジで仕上げた内装の例。

基本的には、ほぼオーダーメイドで内外装を仕上げられる。そこもピュアスポーツというより、長距離旅行にも使えるGT的なキャラクターを両立させるのを得意としてきたマクラーレンならではだ。

価格は200万英ポンド(1ポンド=195円として約3億9000万円)。限定399台でデリバリーされるが、すでにすべて売約済みという。

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ブラックをメインカラーにして挿し色をオレンジした仕様など好みでオーダー可能。

マクラーレン W1

全長×全幅×全高:4,635×2074×1182mm
ホイールベース:2,680mm
3,988ccV型8気筒+Eモジュール 後輪駆動
最高出力:938kW(トータル)
最大トルク:1340Nm(トータル)
8段デュアルクラッチ変速機
価格:200万英ポンド
cars.mclaren.com/jp-ja