【東京クルマ日記〜いっそこのままクルマれたい〜】第208回まるで走りの遊園地!? 愉しさ極める“N”という名の「四駆の鬼」

  • 写真&文:青木雄介
Share:
EVスポーツの名作として長らく記憶されるであろう衝撃の「アイオニック5N」。

ヒョンデの高性能ブランド「N」初のEVにして「アイオニック5」のハイパフォーマンスモデル「アイオニック5N」に乗った。第一印象は速くてセンスのよいスーパーEV。でも大事なのはそこじゃない。メルセデスの「AMG」やBMWの「M」など、あまたあるメーカー直系高性能ブランドはクルマに”速さ”を求めてきたけれど、このヒョンデの「N」はエンターテインメントをももたらしたんだ。

2.jpg
ステアリングからコンソール、ペダルまで「N」専用で武装されたインテリア。

EVなのにデュアルクラッチのようなシャープなシフト感覚があり、サーキットで誰でも直感的にドリフトできるような操作性を備える。ニトロみたいなブースターがあり、排気音はその気にさせるV8レースカーのエンジン音をメインに、スーパーEVサウンドやジェットエンジンを真似た音だって選べる。急速充電機のあるサーキットで一日遊んでも飽きないだろう多様な走行セッティングがこの一台に凝縮している。まさに“走りの遊園地”ですよ(笑)

デュアルモーターで軽々と650馬力(ブースター使用時)を弾き出し、ホイールセンサーとジャイロセンサーから導かれた信号が四輪の可変ダンパーをきっちり制御。フロントアクスルはトルクベクタリングで、リアは電子油圧LSDを搭載する玄人好みのトルクマネジメント。「やばい。四駆が鬼すぎる……」って思わずため息がもれたよね。ハンドリングはフラットで、ノーズがすっと入るしギュンギュン曲がる。

3.jpg
「Nトルクディストリビューション」。前後のトルク配分を好みに調節できる。

なんでこんなに四駆の偏差値が高いの? という答えは、やっぱりWRC(世界ラリー選手権)参戦メーカーならではの知見かなと思った。良し悪しを直感的に判断できる経験豊かな導き手が社内にいるんですよ。それを感じさせるのは圧巻の峠下り。自慢の仮想ギアボックスで回転合わせまで再現しているシフトダウンがあり、それとともに自然な回生ブレーキが仕込まれていて、後ろから魔法の手が働いているように減速する。2.2トンの重量級ボディを四輪に感じながらも重力を電気に変えて猛烈に回生していると考えると「なるほど! 楽しくサステイナブル」って膝を叩きたくもなる(笑)。そして驚くべきことに乗り心もよい。サスペンション剛性が高く、ビルの免震ゴムみたいに重めの上屋を支えていて路面のノイズを排除しつつ、安定感が素晴らしい。「走りを極めれば安全になる」というのはかつてのWRC参戦メーカーであるスバルの信念だけど、ヒョンデは「愉しさを極めれば上質になる」って感じかな。

4.jpg
前車軸上にあるハイパワーなデュアル駆動モーター。

多彩な機能が手を取り合って落ち着く終着点を見出そうとすると、当たり前にこなれて洗練されてくるんですよ。その妥協しない感じが走りにしろデザインにしろごく自然に上質になっていく。

さらに言えば、その上質さがスーパースポーツ級のハイパワー650馬力をカジュアルに使える「アイオニック5N」を、EVはおろかクルマ全体を見まわしても他にないキャラクターとして特徴付けている。これだけ練られたプロダクトが基準点となり、後発のEVスポーツに与えていくだろう影響も見逃せない。そして自ら打ち立てた金字塔を、次のモデルでどう超えるかも、既に楽しみで仕方ないんだな。

5.jpg
ドリフト姿勢を維持する「Nドリフト オプティマイザー」を搭載。

ヒョンデ アイオニック5N

全長×全幅×全高:4,715×1,940×1,625㎜
モーター種類:交流電動同期式
最高出力:650PS
最大トルク:770Nm
駆動方式:4WD
航続距離:561㎞(WLTCモード)
車両価格:¥8,580,000~
問い合わせ先/Hyundaiカスタマーセンター
www.hyundai.com

※この記事はPen 2024年11月号より再編集した記事です。